石垣港から延々と繰り返す波を越え続けること2時間超、ようやく波照間島へと到着。本来ならば1時間半ほどで着くようですが、途中波をやり過ごすために減速やエンジンを切ったりしていたので、いつも以上に時間がかかったようです。
下船した瞬間目に飛び込む、この青さ。石垣、竹富、西表。これまで見た八重山の青さとはまた違った色合いに、早くも気分は最高潮。波照間島は、言わずと知れた人の住む日本最南端の島。そこに上陸できたという悦びに船の余韻が合わさり、得も言われぬ浮遊感に身も心も委ねます。
揺れの感覚が収まるまで、船客ターミナルで小休止。港のすぐ近くに位置する『オーシャンズ』で自転車をレンタルし、島一周の旅へと繰り出します。
港から集落までは、結構な坂。日本で一番赤道に近いことを感じさせる強い陽射しを浴びつつえっちらおっちら登ると、そこに広がるさとうきび畑と大きな空。
ざわざわと聞こえる葉擦れの音へと目を向ければ、青々としたさとうきびの先に広がる青い海。遮るものなく吹く風が葉を揺らし、帯の様に海へと落ちてゆく。風の姿が見える気がして、しばし佇み見つめてしまう。
登り切れば走りやすい平坦な道。全身の汗に吹き渡る風を感じつつ走ってゆくと、ひときわ目立つ渦巻き状の不思議な石積みが。
コート盛と呼ばれる珊瑚でできた石積みは、琉球王朝時代に造られた火番所の跡。この上から海を監視し、時には行き交う船への通報のためにのろしを上げたのだそう。
琉球時代へと思いを馳せるべく登ってみれば、頂上からはこの絶景。眼下には豊かな緑に染まるさとうきび畑が広がり、その上には帯の様に横たわる真っ青な海。遥か遠くには西表の姿が霞んで見え、ただひたすらに感嘆するのみ。
コート盛で他の島からの遠さを実感し、再び自転車で走りだします。するとその直後、第一ヤギさん発見。波照間島はヤギがたくさんいるとは聞いていましたが、この後本当にたくさんのヤギと出会うことになります。
第一ヤギさんに別れを告げそのまま進んでゆくと、日本列島の描かれた独特な建物が。ここが日本の中で最南端に位置する駐在所。一番左下の赤く彩られた場所が、今いる波照間島。本当にここまで、来てしまったんだなぁ。
駐在所を過ぎれば、民家や学校、商店などがまとまる島の中心地へ。台風に耐えるためのコンクリート建築と、すぐ近くに残る珊瑚の石垣や赤瓦。人々の暮らしの気配が詰まった集落の姿に、これまで訪れた八重山の島とはまた違う情緒を感じます。
人の営みが凝縮された集落を抜ければ、すぐまた広がるさとうきび畑。空と風とさとうきびしかない、この世界感。風に吹かれて自転車をこげば、頭の中に自ずと流れる中島みゆき。この雄大な景色に、銀の龍の背に乗って~、と思わず何度も口ずさんでしまう。
さとうきびの波間を抜けると、そこに現れる白亜の灯台。この波照間島灯台は、かつて日本最南端の灯台だったそう。2007年に沖ノ鳥島にできた灯台にその地位は譲りましたが、今なお有人島最南端の灯台として海の安全を照らし続けています。
崖をのぼり呼ぶよ~さあ、行こうぜ!なんて相変わらずご機嫌に歌いながらこいでゆけば、視界が一気に開け広がる空。風になびくさとうきび畑の先には空と海しかなく、波照間島の果てまでもうすぐだと直感。
この上なく爽快な気分で自転車を走らせていると、右側からゴソゴソという音と共にヤギの一家がお出まし。僕らの自転車と競い合うかのように、畑が尽きるまで並走してくれました。
畑の先で急坂を下り、海に沿って走ります。強風に耐え鮮やかに咲くハマヒルガオの群生の先には、波照間島の誇る星空観測タワー。周囲に人家もないこの場所から眺める星は、きっと素晴らしいに違いない。
上陸した北側とは違い、外海に面する島の南側。荒々しい波に削られた断崖絶壁は、ここが珊瑚礁の隆起でできた島だとはにわかに信じがたいほど。
もうこの先は、日本の外。強く吹く風と波の音を全身に受け、五感を以て実感する日本の端。まさに絶海の孤島と呼ぶにふさわしいこの壮大な光景に、添える言葉などあるはずもない。
ここまで来れば、日本最南端の碑はもうすぐ近く。まずはこの果ての印象を胸へと刻むべく、海風を浴びしばしの間佇むのでした。
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