5月中旬、羽田空港。僕らはここから旅に出る。これから向かうは、26年前に高校の卒業旅行で訪れた想い出の地。四半世紀を経て、いまの僕の眼にはいったいどのように映るのだろう。

もともとは、このタイミングで旅立つ予定はなかった。最近旅しすぎの自覚がなくもないし、次は6月の八重山までおとなしくするとするか。そんな僕の決意をいとも簡単に吹き飛ばしたのは、相方さんからのある提案。

5月のこの日程で、長崎へ行こう。そんな誘いを耳にすれば、ふたつ返事でOKするに決まっている。仕事を含め、45都道府県に訪れたことのある相方さん。残すは長崎佐賀の2県のみ。どうやら全都道府県制覇を目論んでのことらしい。

いっぽうで、僕にとって長崎は九州一周のバスツアーでさらっと見ただけ。いつかは再訪せねばと常々思っていたが、ここ数年その願いが一段と強く。これはまさしく渡りに船。こんな千載一遇の機会に乗らない手はないと、豆腐の意志はあっけなく崩れ去ってしまったのです。

そしてもうひとつ、この旅には大切な目的が。あれはもう、十年以上も前だろうか。たまたまネットで見かけた姿に、一瞬にしてこころを射抜かれた。そんなあこがれの島に、明日逢える。そのことを考えるだけで、なんとも言えぬ想いがこみ上げる。

そんな僕の高揚感につられてか、ぐんぐんと上昇をつづけるB737。夢の国を眼下に西へと旋回し、大空の先に待つ街を目指して雲の上へ。

沖縄でこの機種に出逢うまでは、大型機一辺倒だった僕。747や777に乗る機会が多く、中型の767ですら怖いと思っていた。でもいまは、すっかり737のファンに。ほどよい乗客数の醸す落ち着いた雰囲気が、JALのビーフコンソメを一層おいしくしてくれる。

視界を覆っていた雲もいつしか途切れ、眼下には関西が。うっすらとだけれど確認できる京都の碁盤の目、湾へと広がる大阪の都市。そしてついに姿をあらわす、淡路と四国。明石と鳴門、かぼそい橋が結ぶふたつの狭き海峡に、去年のあの旅の記憶がよみがえる。

雲の合間に瀬戸内の多島美と四国の島影を追っていると、一段と開けた讃岐平野が。あの壮大な船旅の終盤、かけがえのない想い出をくれた屋島。ありえないほどの輝きをもつあの青さは、決して忘れえぬ大切な宝物。

そしていよいよ、着陸に向け本格的に降下をはじめた737。翼の下には、青い周防灘に沿って横たわる九州の島影が。

地上との距離はさらに縮まり、鮮明に眼に映る筑後平野。その雄大な穀倉地帯のなかを、ゆったりと流れ下る筑後川。
筑後平野の百万の生活の幸を 祈りながら川は下る 有明の海へ そんな歌詞そのものの光景に、卒業式を思い出しなぜだか目頭が熱くなる。

あれからもうすぐ三十年か。そんな時の流れに思いを馳せていると、機窓いっぱいに裾野を広げる雲仙岳。未だ生々しい色味をした溶岩ドームの平成新山、筋のように交互に繰り返される森と人の営み。火山と人とのせめぎ合いに、ブラウン管越しに目の当たりにしたあの光景が鮮明によみがえる。

島原半島の威容に、否応なしに思い知らされる自然の脅威。計り知れない力の痕跡にあらためて畏怖の念を抱いていると、飛行機はさらに高度を下げいよいよ着陸態勢に。

それにしても、本当に海と山ばかりの地形だ。はじめて上空から眺める長崎県の姿に感嘆の声を漏らしていると、琴の湖の異名をもつ穏やかな大村湾の海面ぎりぎりまで降下。

世界初の海上空港という予備知識はあったものの、飛行艇に乗っているのかと錯覚してしまうような機窓に唖然。うわぁ、海面すれすれじゃん。そう思ったところで芝生が現れ、飛行機は轟音とともに無事着陸。
いよいよはじまる、西九州での2泊3日。26年ぶりとなる長崎との再会を目前に、ベルトサインが消えるのをいまかいまかと待ちわびるのでした。


コメント