春、僕らの仕事では一年のなかで一番忙しいともいえるこの季節。年度末から新年度への荒波を乗り越え、ようやく一息つける4月の半ば。このタイミングでの旅立ちを画策し、それを楽しみに今日まで頑張ってきた。
そんな晴れやかな僕のこころを映すかのように、春空に輝く黄金のペンギン像。Suicaをはじめて手にしたのは、もう四半世紀も前のことか。この子の描かれた未知なるカードを手にして以来、僕の移動や買い物は飛躍的に進化した。
そんなSuicaのペンギンとも、もうすぐお別れ。あまりに日常に溶け込みすぎて、しばらくはさみしくてしかたがないんだろうな。

かたちあるもの、必ず別れがくる。そうとは解っていても、スマホ開けばいつも笑っていてくれるしなぁ。1年かけて、心の整理をつけてゆこう。そんなちょっとばかりの切ない笑顔に見送られ、新宿から湘南新宿ラインへと乗車します。

これから向かうは那須、まずは宇都宮までグリーン車で快適移動。とはいいつつ、今回はネット銀行の特典を利用。えきねっと4割引や佐野発着の高速バスチケットもあわせ、すでに金利とかどうでもよくなるほどの恩恵にあずかってしまっているよ。

無料のグリーン車という最高のアテを噛みしめつつ、並走する山手線を横目に冷たい金星で旅立ちの祝杯を。食欲中枢がぐわっと刺激されたところで、高田馬場を通過するころにははやくも旅のお供を開けることに。
ありがたいことに、新宿駅にも各地の駅弁が集う「祭セレクト」というお店が。短い乗り換え時間にあれやこれやと一瞥しつつ、目に留まった水戸駅はしまだフーズの調整する奥久慈しゃもべんを購入。

ふたを開ければ、目を引くごろごろとした鶏肉と太いねぎ。しゃも焼きをひとつ口へと運ぶと、まず驚くのがその歯ごたえ。硬いともまた違う、俺、鶏!と主張するような弾力。噛めばじんわりとしゃもの滋味が染みだし、旨い肉=やわらかいという現代の風潮に迎合しない力強さを感じる肉質。
しかれたそぼろもしゃも肉で、うす味の炊き込みご飯とともに噛めば適度な弾力に込められた旨味がじわじわと広がってゆく。関東らしい長ねぎは、とろしゃきの甘旨。玉子そぼろもやさしい風合いで、肉々しさのなかにどこか懐かしさを添えてくれるよう。

ころりとしたしゃもを噛みしめ、そぼろご飯で追いかけ。ときおり山菜醤油漬けや金平ごぼうといった濃いめのおかずをはさみつつ駅弁を味わっていると、あっという間に荒川に差し掛かり無事東京脱出。

おいしい駅弁に舌鼓を打ち食後の余韻に浸っていると、だんだんとのどかさを増してゆく車窓。数駅ごとに停車してゆく快速運転に身を委ねていると、ついに列車は利根川を渡り北関東へ。
それにしても、いつ見ても利根川の大きさには驚かされる。向かって左側から流れてくるのが本流、右から合流するのが渡良瀬川。さらに下流では鬼怒川も合わせるというのだから、流域面積日本一というのも頷ける。

春爛漫のパステルな車窓を愛でること1時間36分、終点の宇都宮で乗り換え。さらに北上する普通列車に揺られること50分ちょっと、この旅の目的地那須への玄関口である黒磯に到着。
ここがいわゆる宇都宮線の終点。ここから先は愛称は消え、東北本線という本来の呼び名に。かつてはこの駅全体が交流電化と直流電化の境界であり、在りし日の北斗星でここを惰行で通過したことが懐かしい。

ここに降り立つのは12年ぶりのこと。前回少しばかり歩いたときに古き良き建物が点在していた記憶があったため、バスの時間までのんびり散策してみることに。

駅前ロータリーのすぐ先では、歴史を感じさせる建物がお出迎え。向かって右手には、旅館だった建物を改装したという和菓子屋さんの明治屋。その斜向かいには、高木商店本店の看板が掲げられた重厚感あふれる石造り。

すぐ近くの交差点には、通り沿いに連なる渋い建物たち。サッポロビール特約店の金文字輝く看板が印象的な神山商店、その隣には大きな石蔵と渋い木造店舗をもつ農業資材の植竹虎太商店。

その交差点を入ったところに鎮座する、ひときわ目を引く瀟洒な建物。大正7年に旧黒磯銀行本店として建てられ、その後の大火にも耐えいまなお生き続ける高木会館。正面には独特な風合いを持つ地元那須の芦野石、側面には端正な表情を魅せる大谷石と、石の産地栃木らしい一目見たら忘れられない建築美。

ふたたび駅前からのびる通りへと戻り進んでゆくと、みちのくへの大動脈であった旧国道4号線との丁字路へ。その角には、直線的なデザインに大きなアーチの映える仁愛会サロン。

そのまま奥州街道に沿って南下してゆくと、交差点に沿うようにちょっと変わった形の石造りが。さきほども触れたとおり、明治以降この街は幾度も大火に見舞われたそう。その教訓もあってでしょう、進むごとにあちらこちらに石造りの建築が残されています。

12年ぶりに訪れた、黒磯の街。前回よりちょっとばかり行動範囲を広げただけで、またあらたな古き良き建物たちに出逢うことができた。
今回見つけたのも、きっと氷山の一角に違いない。今度はまた違う方角へと散策してみよう。そんな次へとつながる宿題を胸へとしまい、旅のお供を買い込みに駅近くのヨークベニマルへと向かうのでした。


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