善光寺さんの余韻に包まれつつ、この旅最初の信州グルメを味わうことに。今回は、山門を抜けてすぐのところに位置する『門前そばももとせ』へとお邪魔します。
久々となる旅先での食事。こみ上げる歓びを地酒片手にゆったり噛みしめていると、お待ちかねのきのこ御膳が到着。見るからに信州の秋といった品々に、どれから箸を付けようかと迷ってしまいます。
でもやっぱり1年ぶりの信州、まずはおそばをひと口。太めで色の濃いそばは、見た目通りのしっかりとしたコシとそばの味わい。食べ応えを感じるそばを啜れば、長野までやってきたという実感で満たされます。
天ぷらは、舞茸をはじめとする信州産のきのこ3種。サクッと頬張れば、しゃっきりとした食感の中から溢れるきのこのエキス。抹茶塩であっさりもいいですが、そばつゆとの相性もピッタリ。
ご飯にもきのこや根菜が混ぜ込まれ、ふわっと秋の風味が広がる丁度良い塩梅。添えられたきのこのマリネや野沢菜の油炒めといった小鉢も美味しく、秋の恵みをつまみにいけない昼酒が進んでしまいます。
あぁ、美味しかった。やっぱり長野は間違いない。一食目から信州の秋に満たされ、軽やかな気持ちで歩く参道。地酒の余韻越しに眺める紅葉は、より輝きを増したかのように眼に映ります。
途中お土産屋さんで旅の友を選び、『長野電鉄』の長野駅へ。ホームにはすでに特急列車が停車中。大切な旧友である元ロマンスカーとの再会に、思わず熱い想いがこみ上げます。
1年ぶりの再会を果たしたHiSEに早速乗車。今回は後展望に陣取ります。そして待つことしばし、ゆけむり号は懐かしい音を立てつつ湯田中を目指し発車。去りゆく景色の流れに、後展望の独特な感覚を久々に味わいます。
列車は地下区間を抜け、大きな窓からは秋の陽ざしの温もりが溢れるように。最上の日向ぼっこを愉しんでいると、千曲川を越える大きな鉄橋へ。この村山橋は、鉄道と車道が橋を共用する珍しい併用橋。車と仲良く並走する様子は、後展望だとより一層興味深い光景に映ります。
いつしか住宅もまばらになり、果樹園や田畑の広がる田園風景に。霞む稜線を背景に、どこまでも並ぶりんごの木。コトン、コトンと続くリズムに揺られつつ、信州の秋色を思う存分自分の中へと取り込みます。
列車はいよいよ志賀高原の懐を目指し、意を決したように急勾配・急曲線の連続に挑み始めます。山裾を縫うようにルートを選び、じっくりと、しかし確実に登ってゆく鉄路。勾配に弱い鉄道と地形の戦いは、何度乗っても感動してしまう。
山との距離の近さに振り返ってみれば、展望席の大きな窓一杯に広がる秋景色。進行方向を見る前展望もさることながら、こんな楽しみ方をできるのも後展望の魅力のひとつ。
ここまで登れば終点はもうすぐ。天高い秋晴れの空と、枝もたわわに実る赤いりんご。そんな郷愁を誘う車窓を、旧友との別れを惜しむかのように眼に心に灼きつけます。
長野から信州の秋の車窓を楽しむこと約45分、ゆけむり号は終点湯田中に到着。箱根路から信濃路へと活躍の場を変えても、勾配に挑む足腰の強さと大きな展望で旅人を楽しませ続けているHiSE。お疲れ様。そう心の中で一人つぶやき、大好きな旧友に別れを告げます。
初めての出会いから、33年の付き合いとなるHiSE。僕がこの地を訪れたくなるのは、もしかしたらこの車両に逢いたいからなのかもしれない。長電で第二の人生を走り始めてから早14年、いつ再会してもその元気そうな姿にほっとする。
今ではすっかり信州に馴染んだ元ロマンスカー。1年ぶりの逢瀬でもらった温かい気持ちを胸に、更に山の奥へと向かいます。
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