列車が来るまで、ひとり佇む静かなホーム。柔らかな秋空のもと広がるりんご畑と、その先に横たわる北信五岳。長閑。本当に長閑。小布施駅のプラットホームを、秋の穏やかさが包みます。
小さなホームでぼんやり郷愁に浸っていると、長野行きの普通電車が到着。保存され静かに眠る古のエースと、現役を続ける日比谷線生まれの古参。この並びを見られるのも、残すところあと僅か。
一歩車内へと踏み入れると、猛烈に襲い来る懐かしさ。僕にとって初めて日比谷線は、この車両だった。そして故郷三鷹を走る東西線も、同じような内装だった。こげ茶のシート、そして独特の営団臭さを感じさせる小さなドアの窓。この二つだけでも、記憶が一気に甦る。
強烈な原体験に思わず天を仰げば、ファンデリアに残る輝かしいSマーク。僕にとって、東京の地下鉄はやっぱりS。一般的には営団地下鉄の呼び名で通っていましたが、随所に書かれた帝都高速度交通営団の文字に、幼い僕は釘付けにならずにはいられなかった。
小布施からたったの2駅、7分間の昭和の旅を終えて須坂駅に到着。ここに降りるのは、今回が初めて。この旅最後の信州の秋色を探すべく、まだ見ぬ街へと繰り出します。
駅で観光地図を手に入れ歩きだします。まず向かったのは、蔵の町並み。江戸時代には城下町、そして近代以降は生糸産業で栄えたという須坂には、今なおたくさんの蔵が残されているのだそう。
そんな蔵の町並みの入口で、まず目を引くのがこの立派な蔵。明治時代に建てられたという3階建ての蔵は、かつてまゆの貯蔵に使われていたもの。今は観光交流センターとして訪れる人々を迎えています。
秋の西日が射す渋い街路。両側には蔵をはじめとする歴史を感じさせる建物が並び、往時の賑わいを色濃く匂わせるよう。
通り沿いに続く立派な土塀に目をやれば、足元を固める重厚な石積み。これはぼたもち石といい、丸い石を隙間なく積むためには高度な技術が必要だったそう。今ではこの技術を受け継ぐ石工さんもいないようで、繁栄を物語る貴重な生き証人となっています。
志賀高原にはすでに冬の気配が忍び寄っていましたが、里はまだ秋真っただ中。通りの両側には艶やかな菊が並べられ、渋い色味の町並みに彩りを与えるかのよう。
製糸業で賑わいをみせたという須坂。その歴史を物語る土蔵が並ぶ通りに漂う秋の風情。西日に輝く菊に誘われ、更に先へと歩みを進めるのでした。
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