しみじみ浸る、岩手の秋。~想い焦がれて東北へ 1日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

しみじみ浸る、岩手の秋。~想い焦がれて東北へ 1日目 ②~

10月下旬秋の大沢温泉江戸時代築の湯治屋母屋 旅の宿

僕の愛する宿、『大沢温泉湯治屋』。この旅を思い立ったときに真っ先に浮かんだ宿。30代になったとき、勤続15年を迎えたとき、そして本社に異動になってと、思い返せば僕の節目節目で訪れてきた想い出の場所。江戸時代から旅人を出迎える渋い建物は、今日もそんな僕を温かく迎えてくれます。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋中舘客室
4年ぶりに感じる温もりに包まれつつ帳場でチェックインし、靴を持って自室へと向かいます。今回宿泊するのは、いつもの中舘。これまでは茅葺の菊水舘の見える川側でしたが、今回は初めての山側となります。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋夕暮れの灯りのもれる廊下
浴衣に着替え、早速大沢の湯へ。4年ぶりなのに、すっと馴染んでしまうこの温かさ。もうこの一瞬で、懐かしい。ここで過ごした日々が、つい昨日のことのように思い出されます。

紅葉に彩られる大沢の湯と菊水館※この写真は以前の滞在時に撮影したものです
豊沢川に沿い、大きな湯船が広がる大沢の湯。ほんのりぬる付きを感じるとろみのあるお湯が、惜しげもなくたっぷりと掛け流されています。久々に肌に感じる、お湯の温もり。あぁ、やっぱり来て良かった。永らく味わえていなかった旅の幸せを、ひとりしみじみと味わいます。

ちなみに、今はお風呂は撮影禁止とのこと。この旅行記では、過去の写真を交えてお伝えします。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋古き良き建物に包まれつつ飲む湯上りのビール
肌に優しい大沢の湯の感触に酔いしれ、自室へと戻り湯上りの至極を。もうこの瞬間、僕の体内時計は大沢時間に。何があろうとも、ここで過ごす時間は穏やかであってくれる。そのことを確かめたいがために、こうして何度もここまで来てしまうのかもしれない。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋夜に浮かぶ幻想的な湯宿
冒頭にも書きましたが、ここは僕の節目に何故か訪れたくなる不思議な宿。

実は今年、異動によって現場へと戻り再び駅員に。巣立ったときとは役職も役割も変わり、思い出したくもないくらい辛かった。生き甲斐である旅に逃げることも許されず、本当に、本当に煮詰まってしまっていた。

でも僕は、4年前の自分とは違う。一度大きな変化を経験しているので、出口があることを知っている。その思いで何とか日々をすり抜け、今こうして旅先で幸せを噛みしめることができている。大きな変化が苦手な僕にとってはあまりしたくない経験だけれど、やっぱりあの異動は無駄ではなかったのだと思いたい。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋食事処やはぎ
当初は感じるはずもなかった手ごたえを、今は若干なりとも掴めている。現場はきっとみんなが思っている以上に大変だけれど、社会を支えているという実感はやはり本社のときとは比べ物にならない。異動から半年たち、自分の原点に戻ったと今はそう思えるまでになってきた。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋食事処やはぎでカクテキつまみに飲む浜千鳥
よくやった、自分。趣味に逃げることもできない中、よく乗り切った。そして新たな気持ちで迎えることのできた、久々の旅の夜というこの瞬間。そんな自分を褒めてやろうと、カクテキつまみに浜千鳥で乾杯します。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋食事処やはぎ揚げ出汁豆腐とイカゲソピリカラ揚げ
今回も、夜の水車そばと朝食の付いたプラン。ここ食事処やはぎは定食や麺類の他に居酒屋メニューも揃っているので、自炊せずとも手抜き湯治ができてしまうのが嬉しいところ。

今宵の地酒のお供にと選んだのは、この2品。揚げ出し豆腐はふるりとした豆腐に丁度良い塩梅のおだしが絡み、ほっとするような美味しさ。イカゲソピリカラ揚げもカリッと揚げられており、マヨをちょっと付けて噛めば浜千鳥が自ずと欲しくなります。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋食事処やはぎ水車そば田舎もりそば
木造の温もり溢れる雰囲気の中で味わう、地酒とつまみ。ほんのりと良い気分になったところで、水車そばを頼みます。

太めの田舎と細めの更科、それぞれもりかかけを選べるので迷ってしまう。そんな嬉しい悩みの中選んだのは、田舎のもりそば。十割ですがもそもそ感はなく、しっかりと感じるコシを噛みしめれば、そばの豊かな風味が広がります。ここのおそば、いつ食べても本当に旨いなぁ。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋夜のお供にあさ開純米吟醸夢灯り
やはぎでの夕餉を愉しみ、自室へと戻り晩酌の続きを。今夜のお供にと選んだのは、僕の好きな盛岡の酒蔵、あさ開の純米吟醸夢灯り。岩手県産のひとめぼれで醸されたというお酒は、口当たりの優しいすっと飲みやすい旨い酒。やっぱり岩手、どの酒も間違いない。

静まり返った夜の混浴露天風呂大沢の湯※この写真は以前の滞在時に撮影したものです
やっぱり地酒は、その地元で飲むに限る。久々に味わう、旅先での酒。その旨さが心に沁み入ったところで、再び大沢の湯へと向かいます。夜闇の中、せせらぎとお湯の流れる音だけを聞きつつ浸かる、優しい湯。立ち上る湯けむりには湯の香が宿り、思わず深呼吸してしまう。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋夜闇に浮かぶ湯宿の灯り
少々熱めのお湯に、入ったり出たり。そんな無心のときを繰り返し、ほんのり火照りを感じたところで上がります。

部屋へと戻る途中、曲がり橋の上でクールダウン。湯上りの肌を撫でる川風を感じつつ眺める、夜闇に浮かぶ湯宿の姿。何度見ても、惚れ惚れとしてしまう。この宿の持つ温もりが灯りという形になり、それが全体から漏れだしてくるかのよう。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋木造の温もり溢れる中舘の廊下
自分の置かれた環境が変われど、この宿は変わらぬ姿でいてくれる。その時々で想うことは違うけれど、そんな自分をいつでも包んでくれる。大沢温泉にはそんな空気が詰まっているから、ふとした瞬間に逢いたくなるのかもしれない。

夜の静けさに包まれる大沢温泉自炊部湯治屋薬師の湯※この写真は以前の滞在時に撮影したものです
夢灯りをちびりとやりつつ、ぼんやりと過ごす旅の夜。そんな穏やかな岩手での夜に似合う、薬師の湯。小さなタイルが敷き詰められた湯屋には、湯治宿ならではの渋い風情が込められています。

1年8ヶ月ぶりに訪れることのできた、東北の地。僕の愛する地との久々の逢瀬は、こうして幕を開けるのでした。

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