石垣島で迎える8回目の朝。出発前は過去最長の9泊10日だと思っていたのに、あっという間に残すところあと2日。明日は飛行機で帰るだけなので、実質今日が最後。本当に、愉しい時間というものは揮発してしまう。そんなことを思う僕を、今日も八重山の夏空はじりじりと照らします。
ここの朝食を食べられるのもあと2回か。ローストビーフ丼もいいし、おかずにご飯といった王道も捨てがたい。そう悩みつつ、今朝はココナッツカレーをメインにすることに。
ごろごろとチキンや野菜の入ったカレーは、ココナッツが香るまろやかな味わい。ですが食べ進むうちにしっかりとした辛さを感じ、その本格的な旨さに朝からしゃきっと目が覚めるよう。
そして今日は、そんな辛さを中和すべくゲンキ乳業の牛乳を。子供の頃から得意ではなくお腹も壊すため、そのままで牛乳を飲む機会は皆無。でも毎年八重山を訪れていて一度も試さないのももったいないと、勇気を出して挑戦。
意を決してぐいっとひと口。あれ、乳臭くない。苦手なあの牛乳臭さは感じず、でも甘味や適度なコクがあっておいしい。石垣牛もそうですが、八重山の気候風土で育った牛はなぜか乳臭くはならないんだな。
これならもっと早く飲んでみればよかった。やっぱり食わず嫌いは、損でしかない。来年以降へと繋がる収穫も得て、大満足で朝食会場を後にします。そしてそのまま、海が見渡せるサザンゲートブリッジまで腹ごなしの散歩へ。
そういえば、船に乗るとき以外ほとんど石垣港の姿を見ていないな。今年は初めて海から若干離れたところに泊まっているため、この鮮烈なあおさに染まる港湾の姿も新鮮に眼に映る。
幾多もの船が往来し、埋め立て地もあり石油タンクやコンテナも並び。そんなロケーションであるにもかかわらず、見下ろせばあり得ないと言いたくなるこの海の色。本当に、毎年のことながら驚かされる。
そんな築港とは逆を向けば、おいしい魚を届けてくれる登野城漁港。その海はリーフに護られ碧い色をしているが、すぐ先には深さを感じさせる蒼い外海が。
サザンゲートブリッジからの爽快な眺望を胸いっぱいに吸い込み、ホテルに戻り作戦会議。この旅最後の海水浴、どこに向かおうか。竹富島にも行きたいけれど、ちょうど干潮の時間に当たりそう。この気温この陽射しだと、コンドイビーチはきっと浅いぬる湯になるだろう。ということで、今年は真栄里ビーチで〆ることに。
大きな雲がゆったり流れる今日の空。そうだよな、いつもはこんな感じだったよな。直射日光が遮られ、陽射しの熱さより海風の涼しさを感じる。ようやく登場した雲のありがたさを噛みしめつつ、よきところにレジャーシートで陣取りします。
ほどよく冷たい海で、焦げた肌をクールダウン。気持ちいいな。ずっとこうしていられるな。いや、こうしていたい、違う、こうしていさせてください、だな。こころゆくまで海と戯れ、すっかり涼しくなったところで浜へ。すると頭上から聞こえるエンジン音。ついに明日は、僕らも機上の人か。
そんな旅の終わりの気配を吹き飛ばすように、大きな雲が去り八重山の日射が復権。暑い、そして熱い。でもやっぱり、この鮮やかすぎるほどのあおさが今年の色だ。
もう明日は帰るだけ。肌のことは気にせず太陽と遊んじゃえ。じりじりと灼く陽射しを浴び、その嫌というほどの夏色に乾杯。この旅で、何度も繰り返してきたこの瞬間。これが最後かと思うと、冷たいオリオンがより一層旨さを増す。
お昼過ぎまで八重山の夏と戯れ、思い残すことなく真栄里ビーチを後にすることに。お昼ご飯はどうしよう。そう思いつつ歩いていると、サンエー前に洋食屋さんがあるのを思い出す。バス待ちのときに気になっていたので、いい機会だと『洋食屋シェ・ミィーロ』にお邪魔してみることに。
中へと入ると、僕の世代では何となく懐かしさを感じさせる喫茶店のような雰囲気。メニューを開けば、肉料理とフライが盛られた3種のランチや豚のしょうが焼きなど目移りしてしまう。あれこれ迷った結果、オムレツライスをカレーソースで注文。待つことしばし、よい香りとともに湯気を立てたお皿が運ばれてきます。
熱々をスプーンで掬ってひと口。ふわとろの卵、中には薄味のケチャップライス。それを彩るソースはベースのだしが効いており、カレーが勝ってしまわぬ絶妙な塩梅。さらりとしたソースに解けるお米や卵の食感も嬉しく、結構なボリュームながらあっという間に完食してしまいます。
おいしいオムライスを味わい、サンエー前からバスでかねひでへ。ここでお惣菜を見繕い、『島さしみ店』に寄ってかつおのお刺身を購入。こんな形の最後の晩餐も、今年の旅らしくていい。
まだ明るいうちから、島まぐろの天ぷらやサイコロ豆腐をつまみに飲む泡盛。かつおに箸を伸ばせば、やはり驚くその新鮮さ。見るからに張りのある身は瑞々しく、そしてもっちもち。濃い赤身の旨味ももちろんあり、この鮮度と量で500円なのだから驚き。
あぁ、最後の日が暮れてゆく。いつものようにお店で飲んでいたら、こんな空色の移ろいを眺めながらの晩酌はできなかっただろう。本当に、今年は豊かな日々だった。明日は愛するこの島を離れるという寂しさより、何だかある種の達成感のようなものすら湧いてくる。
9日間、全力の夏で迎えてくれた今年の八重山。その記憶が宿る焦げた足を眺め、そしてちびりと噛みしめる泡盛の味。今までで一番穏やかな、旅の最後の夜が流れてゆく。そう思えるほどまで八重山に満たされたという悦びを、胸の奥へと大切にしまうのでした。
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