祝、人生初十勝!札幌駅から白銀に染まる北の大地を駆けること2時間39分、ついに帯広駅に到着。
何故僕が、これほどまでに十勝十勝と昂っているのか。北海道を訪れたことのない方はいまいちピンとこないかもしれませんが、札幌から帯広までの距離はは200㎞。同じ道内とはいえ、本州のスケール感で言えばもう別の県扱いしてもおかしくないほどの距離感なのです。
胆振、渡島、石狩、後志、上川、宗谷、網走、釧路。これまで訪れた支庁(いや、今は振興局と呼ぶんだっけ。)はどれも表情が違った。そして今、その想い出の中に新たに十勝が刻まれようとしている。その予感に、こころ震わさずにはいられない。
時刻は13時20分、お昼ご飯にちょうどよい時間帯。そう、この時間をめがけて札幌を出発したのです。だって帯広には、絶対食べたい名物が待っているから。ということで、駅前に位置する『元祖豚丼のぱんちょう』に駆け込みます。
よかった、すぐに座れた。しばらくすると、同じとかち号に乗っていたと思われる観光客で順番待ちに。そんな賑わう店内に充満する旨そうな香りにそわそわしつつ待つことしばし、ついに憧れの豚丼が運ばれてきます。
ゆっくりふたを開けてくださいね、との言葉どおり逸る気持ちを抑えていざ御開帳。あぁ、ずっとこれに逢いたかったんだよ。このビジュアルに、何度テレビの前で悶絶したことか。
食欲をそそるつやつや照り照りの見た目、そしてふたを開けた瞬間広がる炭火の香ばしさ。居ても立っても居られずひと口。その刹那、ここまでやって来た甲斐があったと嬉しさがこみ上げる。
厚めに切られた豚ロースは、柔らかさと肉肉しさの同居する豚好きには堪らない食感。赤身部分のじんわりとした旨味と、白身部分の魅惑の甘さ。そのバランスがちょうどよく、ときおり現れる炭火で焦げた部分がまた絶品。
そして何より驚いたのが、たれの味。僕は勝手に照り焼き風の甘辛いものを想像していたのですが、ムダな甘ったるさやしつこさはなく、豚の味わいを活かしつつご飯を誘う絶妙なしょう油っぽさ。
ちょっとこれは、想像の遥か上をゆく旨さだわ。豚、しょう油ダレ、ほかほかのご飯。こんなシンプルな組み合わせなのに、これまで出逢った豚料理とはまた違った旨さがある。食べ終える前から、恋しくなる。そんな中毒性が、この素朴な丼に込められているのです。
そうそう簡単に来ることのできない場所なのに、まずい旨さを知ってしまった。東京に帰ってからも、きっと発作のように食べたくなる日が来てしまう。そんなヤバいものに手を出してしまった感に苛まれつつ、初めての帯広の街を歩いてみることに。
今宵の酒場の目星を付けつつ、夜を待つ静かな繁華街を北へ。途中北の屋台を通ったりと足の向くまま進んでゆくと、ものすごい渋さを放つ横丁を発見。外壁にあしらわれたサイロのデザインが、この地らしさを醸し出しています。
古き良き民家や蔵を眺めつつ、のんびり散策する初めての帯広。新旧様々な建物が混在する、僕の好きな歩いていて楽しい街。
渋味のある面持ちをしたビルの向かいには、大正時代築という重厚な赤レンガの建築が。緻密に組まれたレンガと優美なアーチが目を引くこの建物は、現在は六花亭のコンサートホールとして現役で使われているそう。
そのまま大通りをまっすぐ北上してゆくと、市内を流れる帯広川へ。積もる雪と同化し最初は気づきませんでしたが、白い鷺が冷たい川でじっと魚を狙っています。
大通りから逸れ静かな川沿いを歩いてゆくと、突き当りに大きな境内を持つ神社が。ここ帯廣神社は明治43年に創建されて以来、開拓の時代からこの街を見守り続けています。
立派な鳥居をくぐると、躍動感あふれる馬の銅像が。広大な土地を開拓したことによって生まれた帯広。馬は貴重な労働力であり、家族でもあったのでしょう。現在もこの街ではばんえい競馬が開催され、そんな馬への想いからか台座にはにんじんが供えられていました。
お参りする前に手を清めようと手水舎へ。さすがは真冬の北海道、落ちる水はそのまま立派な氷柱へと姿を変えています。
ピンと張りつめた空気の中、大きな社殿にお参りを。初めて十勝、帯広を訪れることのできたお礼を伝えます。
お参りを終え帰ろうと踵を返すと、門に輝く金色の兎が。かわいらしい表情と柔らかな躍動感が、飾り金具に見事に表現されています。
開拓地らしく碁盤の目に整備されている帯広の街。適当に南下してゆけば駅まで辿り着けるので、行きとは違う道をゆくことに。十勝総合振興局脇の通りにも、古き良き建物が点在しています。
さらにその先には、ひときわ目を引く印象的な建物が。この櫻湯は、昭和初期に銭湯として建てられたものだそう。そのハイカラな佇まいに、往時のこの地での暮らしに思いを馳せます。
駅方面へと戻るため、針路を西にとり大通りへ。多くの車が行き交うなか、対面に佇むこれまた妖しい横丁。外装は現代人から見た昭和レトロ調に整えられていますが、その内側にはリアルな昭和レトロが詰まっているに違いない。
交差点、大きなビルの脇にぽつんと佇むこれまた渋い店舗跡。かつて薬局として営業していたこの建物は、65年前に建てられたものだそう。モルタルの質感と、緻密に施されたタイル張りの対比が印象的。
帯広神社まで往復し、再び駅付近の中心部へ。その道中、ここに載せきれぬほどのたくさんの味わい深い建物が。
初めて訪れた、帯広の街。まだまだたくさん古き良き建築が残されているそう。これは歩きやすい季節に再訪せねば。早くも次回に繋がる宿題を見つけ、すっかりこの街の情緒に染まってゆくのでした。
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