バスは岩手県から秋田県へと抜ける国道をひた走り、果敢にも奥羽山脈に挑み始めます。よく見かけるいすゞの路線バスも、ここではもう必死。悲鳴にも似たようなエンジン音に、思わず応援したくなるほど。
8年前にレンタカーで通った時にも感じた、この道の険しさ。それもそのはず、向かうは奥羽山脈上。ひたすらカーブを繰り返してゆくうちに視界は開け、谷底から山腹、そして稜線が近くなってゆく様子を、ガラスを通して飽きずに眺めます。
厳美渓からうんとこしょと登ること1時間15分、この旅を動機付けた宿である『須川高原温泉』に到着。立ち寄り湯で訪れて以来、泊まりたいと願い続けて8年。ようやくこの機会に恵まれました。
バスを降りた途端鼻をくすぐる、硫黄のかほり♪これだよこれ!早速チェックインをと思いましたが、その前に須川高原温泉のシンボルである、大日岩にご挨拶を。
前回訪れたその1年後に発生した、岩手宮城内陸地震。思い出の詰まった湯の倉温泉湯栄館を湖底へと沈めてしまったあの大地震は、この大日岩の一部も崩落させたそう。確かに、当時の記憶を辿ってみると、もう少し高く、そして先端にボリュームがあったような気がします。
8年来の願いが叶い、ようやく訪れることのできた須川高原温泉。硫黄の香りを胸いっぱいに吸い込み、宿の中へと入ります。
チェックインを済ませてお部屋へと向かい、浴衣に着替えます。着替えるのもまどろっこしく、一目散に露天風呂へ。そりゃあの景色と香りを感じてしまったら、焦るなというほうが難しいというもの。
玄関で下駄に履き替え、大露天風呂へと向かいます。別名千人風呂とも呼ばれる、須川高原温泉のシンボル的な露天風呂。象徴である大日岩のすぐ横の源泉から、生まれたての温泉が直接掛け流されています。
青い空に、青いお湯。なんと美しい湯色をしているのでしょう。コバルトブルー、絵の具を流したようなお湯は、自然の造った自然の色。そのお湯がこれほど広い浴槽にたっぷりと湛えられている。もうそれだけでも贅沢そのもの。
広い浴槽で好みの温度と好みの眺めを探りつつ、ポイントを見つけてじっくりとお湯を味わいます。PH2.1の強酸性、熱めのお湯ですが、入っていても意外と肌への刺激はありません。でもやはり長湯は厳禁。ものすごく温まるお湯なので、出たり入ったりを繰り返し、のんびりと楽しみます。
8年振りに再会を果たした大日岩を望む青いお湯。その感動に心まで火照り気味になり、高原の涼しい空気で湯上りの一服の清涼を得ます。
須川高原温泉はものすごい湧出量があり、大半は川として流れています。露天風呂の横には、そんな川をそのまま利用した足湯も。源泉掛け流し、溜まることなくどんどんと流れてゆく。ある意味、湯船よりも贅沢な温泉を味わえるかもしれません。
その足湯の横からは、栗駒山への登山道が延びています。浴衣に下駄という出で立ちのまま、少しだけ登ってみることに。
鳥居に守られたいくつかの源泉の脇を通り、ふと振り返ってみると・・・。雲間から射す陽の光を背負う、神々しさすら感じさせる大日岩の姿が。山の恵みが至るところから湧き出し、湯気となってその威厳を一層印象深いものにしています。
荒々しさと神々しさを併せ持つ大日岩。その場所が特別であるかのように、周囲に自然湧出する源泉がいくつも点在する。選ばれし土地に生まれた温泉、そんな印象を受ける、自然の造り上げた偶然の産物。
以前訪れた時の感動そのままに、今も滔々と湧き続ける温泉、そして変わらぬ雄大さの大露天風呂。もうこの一浴だけでも、ここまで来た甲斐があるというもの。それをこれから2泊3日も味わえるなんて。
これから始まる奥羽山脈稜線上で過ごす時間。そのことを思うだけで、湯上りのビールがいつもの何倍、何十倍にも美味しく感じられる。高原の爽快な空気が、僕の気持ちを空へと登らせてゆくのでした。
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るるぶ
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