祭りの余韻を抱きつつ、弘前で迎える最後の朝。それにしても、昨日は雷がすごかったな。そう思いつつカーテンを開けてみると、どうやら雨は上がっている模様。
今日は9時過ぎの電車に乗ればいいからとは思っていたが、結局いつも通りに起きてしまった。時刻はまだ6時台。今日の天気でもチェックしてみよう。そう思いスマホを手に取り、そして何となく偶然に開いたJRのホームページ。
旅先で運行情報を見るなんて、普段はまったくしないのに。虫の知らせか分からぬが、無意識に開いたそのページ。そこに書かれていたのは、集中豪雨のため奥羽本線運転見合わせ。
これは久々に来たな。どうしよう、今日これから向かうはただでさえ公共交通機関では行きにくい場所。どうしよう。うわぁ、どうしよう。職業柄遅延や運休に出くわしても平静を保っていられるが、今日ばかりは狼狽を示す言葉ばかりが口から突いて出る。
うわぁ、うわぁ。そんな声をもらしつつ急ピッチで支度を終え、とりあえず弘前駅へ。
本当は普通列車に乗るつもりだったが、その後の特急に乗っても間に合う。運転再開見込みはどうか。急告板にはまだその列車の運休は出ていない。とりあえず、駅員さんに聞いてみるか。そう思った刹那、書き足されるつがる42号の文字。
とりあえず、奥羽本線はあきらめよう。その先乗る予定の花輪線は、まだホームページに運休は出ていない。大館まで行ければ、何とかつながる。
南下するバスの時刻表を調べ、着時刻に合わせてタクシーを手配し。どうにか道筋を描けたところで、急に襲いくる空腹感。慌ただしい津軽との別れにはなってしまったが、それでも最後に『そば処こぎん』であの味にだけは逢っておかなければ。
弘前へと来たら、必ず食べたいここのそば。食券機の前でほんの少しだけ逡巡し、今朝は天玉そばを食べることに。
食券を渡し待つことしばし、ありがたいはやさでおそばが完成。まずはよい香りを漂わせるおつゆから。そうだよ、これなんだよ。ムダな甘味のないすっきりとした味わい。しっかりとだしがきいていて、そこにしょう油の風味も合わさって。放っておけば、おつゆだけ先に飲み干してしまいそう。
続いて、特徴的な麺を。箸でつまめば、ほろりと崩れてしまう柔らかさ。かといって、のびているのともまた違う。口の中でほろほろとほぐれる食感に、津軽の優しさが重なるよう。
おつゆとそばを味わっていると、ほどよい塩梅に溶けはじめる天ぷら。いわゆる天ぷらといって想像するものではなく、揚げ玉の集合体のような感覚。それがおつゆへと散ってゆけば、油のこくがぱっと華開く。
そして満を持して崩す、生卵。端正な面持ちだったおつゆにまろやかさが広がり、ほろりと崩れるそばや天ぷらをとろりと優しく包んでくれる。このおつゆにして、このおそばあり。絶妙な一体感に箸が止まらず、最後の一滴まであっという間に完食します。
とりあえずルートが繋がって、ほっとしたところで津軽の柔いそばを味わって。愛する地との別れの儀式を無事終え、まずは『弘南バス』で碇ヶ関まで移動することに。
曇っていた空もいつしか青みを帯びはじめ、夏の陽射しを受け緑に輝く田んぼが車窓を流れるように。この先バスは昨日訪れた大鰐温泉を通り、約50分で終点の道の駅いかりがせきに到着。
道の駅で予約しておいたタクシーに乗り換え走ること30分ちょっと、何とか無事に大館駅に到着。車内でHPを確認し知ってはいたが、花輪線も運休になってしまった。でもここからは代替手段がある。とりあえず、よかったよかった。
乗り換えまでまだ時間があったため、駅前に位置する『秋田犬の里』に立ち寄ることに。ここは去年の夏にも訪れた場所。あのもっふもふが中で待ってるぞ!
限られた時間のため、一目散に施設の最奥へ。するとそこには、仲良く遊びまわる2頭の秋田犬が。
この子たちはまだ子どもだそうで、それはもう写真を撮るのが大変なほど元気。じゃれては追っかけ合い、水を飲んでは疾走し。
もともとは途中下車不可の予定だったので、本当はこのかわいさには逢えないはずだった。タクって柴三郎さん9人いなくなってしまったけど、秋田犬を見られたからそれでよし!
犬好きにはたまらない成分を補給し、大館駅から『秋北バス』のみちのく号に乗車し一路鹿角花輪を目指します。
花輪線と付かず離れず、米代川に沿って走る国道103号線。高速バスながら途中鹿角までは下道を走るため、実りを控えた豊かな田園風景を愉しむことが。
大館駅から走ること1時間、バスは鹿角花輪駅のひとつ先の停留所である鹿角あんとらあ前に到着。お土産や食事処と充実した『道の駅かづのあんとらあ』で昼食と夜のお供を仕入れることに。
まずはお土産屋さんで二晩の友を手に入れ、併設されたレストラン&ダイニングMITACHIへ。
それにしても、あんとらあって不思議な名前だ。そう調べてみると、アントラーとは英語で鹿の角のことだそう。鹿角だからあんとらあなのか。そうか、だから鹿島のサッカーもアントラーズなのか。スポーツに興味がないから全く知らなかった。
スマホで調べて名前の由来が腑に落ちたところで、注文した比内地鶏の親子丼が到着。さじですくってひと口頬張れば、ふわっと広がる優しいおいしさ。比内地鶏だからこそのしっかりとした弾力、噛みしめれば広がる旨味。卵は硬すぎず柔らかすぎずの塩梅で、だしの香る上品な味付けが素材の味わいを活かしてくれる。
そして嬉しい箸休め。鹿角地方で昔から食べられているという、しそ巻大根。ぱりっとした食感と赤紫蘇の風味に、思わず地酒が欲しくなる。これまた郷土の味というしそ巻あんずは、風味豊かな甘じょっぱさが堪らない。
今日は朝からなんだかんだで慌てたけれど、予定通りにあんとらあにたどり着けてよかった。次のバスまではまだ時間があるため、併設の祭り展示館にも立ち寄ることに。
神田や祇園とともに、日本三大囃子のひとつに数えられるという花輪ばやし。館内に流れる風流なその音色もさることながら、豪華絢爛な屋台に目を奪われる。
各町内の威信をかけ、競い合うかのようにしてきらびやかな装飾の施された屋台。それらがずらりと一堂に会する姿は、まさに圧巻のひと言。
みちのくの夏は、本当に暑くて熱い。ねぷたとはまた違った祭りの滾りに触れ、短い夏にかける東北の人々の熱気に想いを馳せるのでした。
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