湯田中からゆけむり号に揺られること約20分、小布施駅に到着。秋晴れに横たわる平屋の駅舎と色づく木々の競演に、この季節ならではの郷愁というものが呼び起こされるよう。
小布施と言えば栗の町。長電の車窓からも眺められる通り、たくさんの栗が育てられています。折角なのでお昼は栗おこわだなぁ、なんてお店を見てみると大混雑。ここはいったん諦め、紅葉に彩られたお庭の風情だけ味わうことに。
立派なお庭に誘われるように奥へと進んでゆくと、建物の合間を縫って通り抜けできる回遊路が。狭い小径をゆっくり歩けば、次はどんな景色が現れるのかと自ずと心が弾みます。
人様のお宅を抜けてゆくという独特のワクワク感を味わっていると、開けた空間に凛と立つ渋い煙突の姿が。文字通り抜けるような青空に映える、紅葉の赤と煉瓦の色味。秋という季節が詰まった情景に、旅で季節を確かめることの大切さを思わず噛みしめます。
小布施の街には回遊路が張り巡らされており、道ごとにその雰囲気も様々。敢えて地図も見ず、気になった路地を見つけて曲がってみる。進むごとに豊かなな表情に出会え、歩いていて楽しい街。
渋い色味の板壁を背景に、秋陽を一身に受けて煌めく紅葉。間もなくやってくる次の季節。雪に閉ざされる信州の冬を前に、今年最後の輝きを見せてくれているかのよう。
風情豊かな小径をいくつも抜け大きな広場へ。薄い雲を纏った秋空と、弱まりゆく芝生の緑。それらに引き立てられ、一層紅を強く感じさせる立派なもみじ。春夏秋冬好きだけれど、輝きの中に秘めた独特な感傷はこの季節だけのもの。
多くの人々で賑わう中、時が止まったかのようにひっそりと佇む一画が。ここは陣屋小路といい、江戸時代の一時期代官所が置かれていたのだそう。
土塀に挟まれた小径の先には、遠くに霞む飯綱山。つい先ほどまでの喧騒は嘘のように、ひっそりと気配を消したかのようなこの路地裏感が堪らない。
時刻はもう13時過ぎ。到着時からお腹は空いていましたが、どこもかしこも人で一杯。そんな中、運よく『北斎亭』に待ち時間15分程で入店。ちなみにここは、栗菓子で有名な桜井甘精堂のお店。冒頭で諦めたお店と同系列であり、このときは本当にラッキーでした。
大きな窓に広がる秋色をつまみに、地酒をちびり。やっぱり信州は好きだなぁ、なんて感慨に浸っているとお待ちかねの一茶御膳が到着。今回は欲張ってそば付きにしました。
まずは温かいそばスープから。洋風のポタージュにそば粉が加えられており、ひと口含めば広がる豊かな濃厚さ。いや、これ、すごく好き。お土産で売っていたら買って帰りたいほど。
続いて念願の栗おこわを。大ぶりの栗は程よい甘さに味付けされ、ほっくり、ほろりとした食感が堪りません。ご飯ももちもちに炊き上げられ、栗と一緒に頬張れば秋の実りの実感に包まれます。もちろんそばもおいしく、鮎の甘露煮も滋味深い味わい。地酒と共に、あっという間に平らげてしまいました。
さすがは安定の長野、何を食べても外さない。小布施の秋の恵みを堪能し、大満足でお店を後にします。地酒も入り、ほんのり感じる内なる火照り。そんな旅の終盤を、一層味わい深いものとする秋色と西日の温かさ。
旅を趣味に持ち様々な場所を訪れる中で、不思議としっくりくる土地がある。どの旅先も思い出深いけれど、僕にとってそんな土地が、東北であり、八重山であり、そしてここ信州。
何度訪れてもまた来たい。そう思える土地に出会えることこそが、この趣味を持つ者としての幸せだと思う。そう思わせてくれる信州での残りの時間を惜しむべく、今はただ長野の秋に染まっていたい。
観光客で賑わう一画を離れ、穏やかな空気感の漂う街をのんびりひとり歩く午後。ふと目にした電柱に残るのは、電電公社の古い看板。こんな何気ないことに気付けるのも、車を使わぬ旅だからこそ。
栗の名産地として有名な小布施。いくつもの路地で様々な表情に出会い、信州の秋の恵みに舌鼓を打ち。お腹も心もじんわりとした温もりで満たされ、次なる街へと向かうのでした。
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