2月中旬、再び僕は旅に出る。今回の行き先は、久々の訪問となる福島県。それも僕のお気に入りルートでの旅立ちとなれば、弥が上にも心は昂るばかり。そんな僕を会津へと連れ去ってくれるリバティ会津が、静かに北千住のホームへと滑り込みます。
久しぶりに乗る東武特急。新幹線とも、JR在来線特急ともひと味違う、私鉄特急の持つ独特な雰囲気。そのどことなく華やかな空気感に身を委ねつつ、一番搾りで旅立ちの祝杯を挙げることに。
この日は明けで3時半起きのため、もうお腹はペコペコ。ということで早速お弁当の時間。ちなみに浅草や北千住の駅弁屋さんは残念ながら閉店してしまったため、北千住のルミネでシウマイ弁当を手に入れました。
かれこれ20年近くぶりとなる、崎陽軒のシウマイ弁当。昔ながらの経木のふたを開ければ、これまた昔から変わらぬ姿を見せてくれます。
懐かしさを感じつついざひと口。シウマイは相変わらずの旨さなのですが、ご飯やおかずがおいしくなってる気がする。たけのこも昔みたいにバリボリではなく、鮪の照り焼きもしっとりとした食感。昔食べたときとは違った印象に、懐かしいけれど新鮮な気持ちで箸が進みます。
汽車の頃から連綿と続く車窓の供に舌鼓を打っていると、いつしか住宅地を抜け長閑な景色が流れるように。この冬は寒くなるのも早かったけれど、暖かくなるのも早かった気がする。田んぼには、すでに春の気配が柔らかな色彩となり宿り始めているかのよう。
そんな中、僕は季節を遡りにゆく。さらさらと流れる大谷川のその先には、白銀に染まる日光連山。その輝きに、早くも銀世界への期待が膨らみます。
観光色の強いスペーシアに対し、比較的地味な外観を持つ500系リバティ。ですが、僕はこの車両もとても好き。
天井には隅田や鬼怒の流れを連想させる曲線が描かれ、その内側から穏やかに車内を照らす間接照明。適度に体を包み込む掛け心地の良いシートは伝統色である江戸紫に彩られ、全体に散りばめられた江戸小紋が落ち着いた上品さを醸し出します。
そして何より驚くのが、その静粛性と乗り心地の良さ。余程防音処理がしっかりと施されているのでしょう、走行中もとても静か。足元を支えるフルアクティブサスペンションは、新幹線でも一部の台車にしか搭載されないという高級品。東武鉄道がこの車両に込めた想いが、乗車体験を通じてしみじみと伝わってくるかのよう。
雰囲気の良い列車旅を楽しんでいると、一段と山深さを増す車窓。新藤原を過ぎて野岩鉄道へと入り、鉄路はトンネルと橋梁で山と谷をどんどんと越えてゆきます。美しい渓谷美を見せる龍王峡や川治温泉の街並みが、束の間の車窓を彩るかのようにトンネルの闇の合間に見え隠れ。
トンネルを抜け車窓に光が溢れたかと思えば、一面に広がる白銀の世界。五十里湖へと続く谷を満たす湖水は結氷し、その上には手つかずの雪が純白の輝きを放ちます。
進むごとに白銀に染まりゆく鉄路。眩さを増してゆく流れる車窓に、その眩しさのみならず嬉しさからも思わず目を細めてしまう。
北千住で腰掛ければ、こんなところにまで連れて来てくれるなんて。車内を満たす雪の煌めきに、ここが浅草から一本の鉄路で繋がっているとは俄かに信じ難いほどの距離を感じてしまう。
白い車窓に心酔していると、いつしか列車は福島県入り。会津高原尾瀬口からは会津鉄道へと入り、雪に覆われた山村を軽快に駆け下りてゆきます。
北千住から走り続けること約3時間、リバティ会津は1都4県を駆け抜け終点の会津田島駅に到着。思えば遠くへ来たもんだ。そんなありきたりな感想が、思わず独り言として漏れてしまう。
東京から関東平野を抜け東北へと誘ってくれたリバティに別れを告げ、ここからは会津鉄道の普通列車に乗り継ぎます。久々の再会となる、会津鉄道。この季節に乗車するのは初めてのため、どんな景色に出会えるかとワクワクが止まりません。
列車はエンジンを高らかに唸らせ、会津若松目指して定刻に発車。耳に届くエンジン音、足元を震わせるディーゼルの振動。何度経験しても、やっぱり気動車の醸し出すこの非日常感は堪らない。
気動車ならではの情緒に揺られ、左右に行き交う銀嶺を眼で追うひととき。これぞ冬の汽車旅という旅情を噛みしめていると、その昂りを一層深めるかのように現れる古い木の電信柱。
良い、すごく良い。見渡す限りの雪原と、遠くに聳える白銀の山。豊かな緑に染まる車窓も素晴らしいけれど、白い雪に埋め尽くされるこの車窓もまた、堪らなく愛おしい。
雲一つない冬晴れの空の下、延々と続く南会津の山並み。ディーゼルの音色をBGMに冬景色を眺めれば、この季節このルートで福島入りして大正解だったと思えてしまう。
大好きな路線である会津鉄道で知った、新たな美しさ。車窓という額縁に切り取られた銀白に染まる南会津の景色は、まさに生ける絵画と呼ぶに相応しい素晴らしさ。
この旅に出て良かった。まだ最初の目的地にすら着いていないけれど、僕の心に満ちてゆく得も言われぬ充足感。やっぱり僕には、旅先での四季折々が必要なんだ。車内に溢れる銀世界に、旅情という名の感動で心を動かされるのでした。
コメント