湯癒逸無二の山形へ ~陸羽仙山、時空旅。1日目 ④~ | 旅は未知連れ酔わな酒

湯癒逸無二の山形へ ~陸羽仙山、時空旅。1日目 ④~

10月中旬初秋の陸羽東線夕暮れの瀬見温泉駅 旅の宿

有備館や気動車の車窓に小さな秋を感じながら、じっくりと目的地を目指すゆるやかな旅路。もうすぐ17時を回ろうとするころ、ようやく宿の最寄り駅である瀬見温泉に到着。

10月中旬初秋の瀬見温泉夕暮れに佇む源義経
ここ瀬見温泉は、平泉を目指していた源義経一行が発見したという伝説が残る温泉場。清流小国川に架かる橋に立つ義経像も、夕刻の色を失いゆく空にどことなくもの寂しげな表情を浮かべているよう。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼明治元年築の本館と大正時代築の本館千人風呂
駅から夕闇の気配に背中を押されつつ歩くこと10分、この旅を動機づけた宿である『喜至楼』に到着。駅から向かうと宿泊客の受付のある別館が先に現れますが、そこを素通りしてまずはこの宿の象徴ともいえる本館にご挨拶。

手前の大きな破風が印象的な本館は明治元年築で、山形県に現存する最古の旅館建築なのだそう。その隣、木造4階建ての建物は大正時代築。ここにこれから、2泊も居られる。そう思うだけで、心は早くも火照り気味。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼宿泊者入口のある別館
本館のはす向かいにある『大黒屋商店』で夜のお供を手に入れ、駅方面へと引き返し別館へと向かいます。

この別館も、本館に負けず劣らず渋い佇まい。玄関のある摩天楼、左右には離れと別館。そこから本館へと繋がる部分には新館も建ち、大正から昭和まで様々な時代の建築が地層のように重なる姿は圧巻のひと言。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼9年前と同じ本館101号室に宿泊
久々に対峙する宿の放つ重厚なオーラに圧倒されつつ、懐かしさも覚えながらチェックイン。これから2泊する部屋へと案内されると、なんと9年前と同じ本館101号室。この瞬間、僕の幸福な時間は確定した。この世界観に身を置ける。ただそれだけで、もう充分。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼本館101号室壁を彩る鯉の滝登りの見事な装飾
芸術的な装飾が散りばめられた、この角部屋。おちょこや富士のような形をした明り取りの窓、障子に施された繊細な組子細工。そしてこの部屋の象徴ともいえるのが、この鯉の滝登り。磨り硝子を優雅に泳ぐ鯉は、まるで生命が宿っているかのような躍動感。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼別館に位置するオランダ風呂
9年前の記憶とともに、あの夏旅の感動が一気に甦る。33歳と42歳、同じ宿同じ部屋でどんなことを想うのだろう。そして宿に着いてからの最初の一浴も、あの時と同じオランダ風呂へ。

本館から新館へ渡り、さらに別館の階段を上がったところに位置するオランダ風呂。男女別の浴場には円弧を描くタイル張りの浴槽が設けられ、丸柱の下からは瀬見の熱い湯が、その上の円皿からは温度調整のための沢水が注がれています。

壁も床も、浴槽までもタイル張り。そんな現代では贅沢ともいえる空間で、静かに肩まで湯に浸かる。さらりと優しい浴感の瀬見の湯、湯気とともに鼻腔をくすぐるほんのりとした湯の香。タイルの肌触りも心地よく、この空間全体が湯浴みのひとときを演出してくれるよう。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼1泊目夕食
9年ぶりだというのに、何ひとつ変わっていない。そのことがただただ嬉しく、思わず長湯をしてしまう。芯からほくほくになり迎える湯上り、冷たいビールといきたいところですが到着が遅かったため我慢我慢。すぐに夕食の時間となりました。

別館の個室へと向かうと、食卓にはおいしそうな品がずらっと。じゅんさいはつるりとした喉越しが湯上りの体に清涼をもたらし、豚の冷しゃぶは脂の甘味とごまだれのコクが好相性。

霜降りの馬刺しは赤身の旨味と脂の甘さが口に広がり、そこに山形の酒をクイっといくのが堪らない。そして何より、鮎が旨い。

この宿で出される鮎は、専用の簗場で獲れたものだそう。ほっくりとした身に宿る香りと旨味、お腹の部分のほんのりとした心地よい苦みと脂の対比。かつてお殿様にも献上されたという鮎の旨さに、思わず頬がほころんでしまう。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼1泊目夕食もくずがにの味噌仕立て
清流小国川の恵みは鮎のみならず、この小鍋にも。大きなモクズガニの入った味噌仕立ての鍋は、まさに絶品のひとこと。

まずはスープをひと口。すると途端に溢れる気圧されるほどの旨味の洪水。きれいな水で育つモクズガニは、海の蟹よりも上品な旨味が印象的。磯の風味がない分、より純粋に甲殻類の濃厚な風味を楽しめます。

そのモクズガニのだしを一層引き立てるのが、コク深い味噌。それらの相乗効果で旨味が昇華されたつゆをたっぷりと吸った大根や豆腐は、もう語るのも嫌になってくる旨さ。

これだけだしが出ているので、蟹にはもうそれほど旨味は残っていないかな。そう思いつつ、半分に切られた甲羅をジュジュっと吸ってみる。うわぁ、ずっと両手で持って吸っていたい。まだまだ溢れる蟹のジュースに、一心不乱にむしゃぶりついてしまう。

具材を食べ終え、蟹も吸い尽くし。その頃にはぐつぐついっていたおつゆが丁度よく煮詰まり、ご飯にかけてと誘っている。行儀が悪いと思いつつ山形のおいしいお米にぶっかければ、敢え無く撃沈昇天の一撃。9年前も感動しましたが、やっぱりこの鍋の破壊力は凄かった。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼飴色に輝く歴史の刻まれた廊下
いやぁ、旨かった。パンパンになったお腹を抱えつつ、9年前の旅行記をちらり。するとやっぱり、そのときもモクズガニねこまんましてたみたい。四十代になっても、やってること変わらねぇな。苦笑いしつつ回想に耽っていると満腹も収まり、いよいよお風呂がてら館内探検へ。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼松の彫刻が見事な障子と飴色の空間
二十代の僕が、一目惚れしたこの空間。それ以来いつかはと思い続けて願いが叶ったのが、9年前。そのときも圧巻の装飾美に言葉を失いましたが、その唯一無二の世界観は見事に現役のまま居てくれていた。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼いらっしゃいませと客を出迎える女将の彫刻と引き戸に彫られた筍
いらっしゃいませ。今にもそんな声が聞こえてきそうな、女将の姿を模した彫刻。その隣の建具には、活き活きと描かれた竹や筍の彫刻。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼ありがとうございましたと客を見送る女将の彫刻
その対面には、ありがとうございました。と客を見送る女将の姿。横の障子には幹の質感まで再現された松の彫刻が見事な枝ぶりを魅せ、古の人々の美意識が缶詰のようにこの空間に込められているよう。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼温もりある夜のロビーを味わいローマ式千人風呂へ
往時の職人の技が、朽ちることなく今なお輝きをもって残されている。9年前も感じたことですが、ここ喜至楼の建物は本当に大切にされている。

古いけれどきれいに磨かれ、それでいて文化財のように近寄りがたいという距離感もなく。多くの旅人に触れられ、宿の人に手入れされ続け。その歴史が随所に染み込み、この飴色の空間を形作っているのだろう。

10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼磨かれた廊下や緻密なタイルがうつくしい洗面所
実はここに来るまで、ほんの少しばかり気がかりだった。特に旅館業に打撃を与えたここ数年、9年ぶりに訪れて変わってしまっていたらどうしよう。でもそんな勝手な心配は、杞憂に終わってくれた。

そりゃそうか。この宿の刻んできた歴史から見れば、9年なんてたった一瞬。それ以上の長きに渡り、宿の方々に守られてきたという揺るぎない歴史。その想いが館内に封じ込められているからこそ、この独特な世界観は人々のこころを捕えて離さない。

明治、大正、昭和、そして令和。四時代を生き続ける稀有な宿での至極の時間は、まだ始まったばかり。これから2泊、この世界観にたっぷり揺蕩おう。山形最古の木造の宿に宿る温もりに抱かれ、あの名物のお風呂へと向かうのでした。

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湯癒逸無二の山形へ ~陸羽仙山、時空旅。~
10月中旬初秋の瀬見温泉山形県最古の旅館建築喜至楼本館101号室建具とは思えぬ美しさの鯉の滝登りの彫刻
2023.10 山形/宮城
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●1日目(東京⇒大崎⇒瀬見温泉)
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●2日目(瀬見温泉滞在)
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●3日目(瀬見温泉⇒山寺⇒仙台⇒東京)
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