いよいよ北海道へ向けての再出発!青森駅から白鳥に乗車し、一路函館を目指します。まさかまた乗ることになるとは思っていなかった、この白鳥。新幹線がまだ盛岡止まりだった頃、この電車ははつかりとして本州と北海道を結んでいました。
一番最初に乗ったはつかりはまだ国鉄色の懐かしい特急だったことを思い出します。それ以来、何度か列車で北海道へと渡りましたが、きれいに化粧直しされ新型同然となったこの車両に初めて乗ったときのことは、今でも忘れません。
はつかりから白鳥へと名前を変えつつも、15年以上も本州と北海道を結ぶ大役を任されているこの車両。北海道新幹線の新函館開業まであと4年。きっとその瞬間、この車両の役目は終えるでしょう。僕の思いを運んでくれる国鉄型が、またひとつ消えようとしています。
最近ではJR北海道のスーパー白鳥の割合が増えているので、もうこの車両に乗ることもないと思っていました。高校生から三十路直前の今まで、僕を北海道へと誘ってくれた車両との逢瀬を実現してくれた大雪。今までの青函路の思い出が走馬灯のように頭をよぎり、思わず胸が熱くなってしまいます。
僕の母の世代は連絡船で、僕の世代は長い長いトンネルで越える津軽海峡。時代が変わり手段が変わっても、本州と北海道とを隔てる津軽海峡の壁は消えることはありません。
それだからこそ、簡単には言い表すことのできない旅情と憂いがある。大昔から、この津軽海峡は数え切れない人々の思いを飲み込んできたに違いありません。
今回の大雪で再確認したこと。やっぱり、北海道は遠い。それは単に距離だけの問題ではありません。ひとたび寝台列車が運休となれば、たどり着くのに丸一日。
肝心の飛行機は運休となり、そうでなくとも当日の定価では目が飛び出るほどの高い運賃。そのような中で新幹線だけは粛々と人々を運び続けている。昨日からの大雪で新幹線の必要性を再認識させられました。
新幹線が延びれば、ローカル線が消える。旅情が薄れるのは非常に寂しいことですが、北海道に親戚を持つ僕にとっては、一刻も早く大動脈である新幹線を通して欲しいものです。ローカル線の三セク化等の問題もあるので、決めるのはあくまで地元の道民が主体でなければいけません。
ただ、やっぱり僕としては、新幹線といういかなるときも動いてくれるライフラインができて欲しい。飛行機に頼りすぎる現状では、あまりにも心許ない、そう思うのです。
東京生まれの僕ですが、母は北海道生まれ。小さい頃から幾度と無く北海道へ渡っているうちに、すっかり僕の第二の故郷となってしまいました。そんな北海道への想いが溢れ、ついつい長い冒頭となってしまいました。
さて、気を取り直して旅行記の続きです!素泊まりだったため、特急の車内で朝食を取ることに。
青森駅には、いつも乗り換えていた八戸駅にはない駅弁が色々とありました。が、結局購入したのは、八戸小唄寿司。どうやら僕は青函でこれを食べることが刷り込まれてしまっているようです。
蓋を開けると、小唄寿司の象徴ともいえる三味線のバチ型をしたへらが目に入ります。ご飯の上には鯖と鮭がぎっしり。
鯖も鮭もしっかりと〆られており、魚の旨味が凝縮されています。それでいて脂はきちんと残っており、ぎゅっと押された寿司飯との相性は抜群。しょう油をちょこっと垂らして頬張れば、もう言うことありません。
最近のお弁当のように目新しさや華やかさはありませんが、きっちりしっかり旨い。これぞ古くから愛され続ける駅弁の姿です。
そんな安心感のあるお弁当に合わせるのは、地酒のワンカップ、じょっぱり。青森駅のホーム売店で簡単に買うことのできる、純米の美味しいお酒です。地の物地の酒、地の景色。その三種の神器が揃えば、もう何も要りません。
美味しい駅弁を愉しみつつ外へと目をやれば、そこは窓も凍てつく冬景色。全てが雪に埋もれ、白と灰色だけの世界。これぞ北国の列車旅に相応しい車窓です。
窓の外には津軽海峡が見えてきました。本州の果てはもうすぐそこ。この先雪を蹴散らしながら疾走することしばし、轟音と共に青函トンネルへと突入しました。本州ともしばらくお別れし、いよいよ北の大地へ。
これは何の写真かって?そう、これは列車で北海道へ抜けるときに最初に見る光景。青函トンネルを抜けた瞬間です。
53.85kmという世界最長の海底トンネルの漆黒の闇に慣れた目は、トンネルを抜けた瞬間、大袈裟ではなく光の洪水に飲み込まれます。それが冬ならなおのこと。光と雪が一緒になり、まっ白な世界を形作ります。
僕はこの青函トンネルを抜けた瞬間が大好き。飛行機では絶対に味わえない、陸続きではないという実感がひしひしと湧いてきます。
白鳥は無事に函館に到着。ここから北海道の誇る俊足ディーゼル特急、スーパー北斗に乗り換え。噴火湾をイメージしたブルーが印象的な、精悍な顔つき。この列車を見ると、あぁ北海道まで来たんだ・・・、と実感します。
列車は函館駅を出発し、森までの峠をゆっくり越えていきます。途中にある名勝、大沼小沼はすっかり結氷し、雪原となっています。その先には渡島を代表する火山、駒ケ岳の姿を望むことができます。
刻一刻と移り変わる車窓、これこそ列車旅の醍醐味のひとつ。頭の中の地図と景色を照らし合わせながら、着々とニセコに近付いていることを身にしみて感じます。
森駅からは、一変して噴火湾沿いを走ります。鉛色の津軽海峡とは違い、噴火湾は明るい色をしています。特に今日の海は穏やか。振子車両特有の上下に揺れる水平線を、心行くまで堪能します。
長万部で下車し、ここからローカル線である函館本線に乗り換え。函館から小樽、札幌を経由して旭川までを結ぶ長大路線。
その中でも、この長万部から倶知安までの間は一番のローカル区間であり、一日僅かな本数しか走っていません。今回はこれに合わせて青森を発ちました。
顔にはビックリするくらいの雪が付着。良くぞこれで走れるものだと感心していると、なにやらエンジンが高く唸っています。そう、雪に阻まれ動けなくなっていたのです。
簡単な除雪作業の後、3分ほど遅れて発車。本場北海道の列車も立ち往生するほど、今年は雪が多いのでしょう。
心地よいディーゼルの振動と、1両単行特有の「カタン、コトン。」というのんびりした音に揺られて楽しむローカル線の旅。
その旅をより楽しいものとしてくれる名脇役、駅弁を広げることとします。函館の駅弁屋さん、みかどの鰊みがき弁当です。素朴なパッケージと、北海道らしい鰊という言葉に引かれて購入。
蓋を開けると大ぶりな身欠き鰊の甘露煮と数の子が目に飛び込みます。これは見るからに美味しそう。
身欠き鰊の甘露煮は、箸を入れればほろりと崩れるあの食感がたまらない。甘さとしょっぱさのバランスも良く、ごはんと一緒に口に入れれば、じんわりと脂を感じるしみじみとした旨味が広がり、至福のときが約束されます。
味付け数の子の食感も良く、駅弁でこれだけの大きな数の子を食べられるのは嬉しい限り。鰊の次は数の子を、そしてまた鰊と、鰊の親子を存分に堪能できる駅弁。
最近は小分けになった色々なおかずを楽しめるお弁当を買う機会が多かったのですが、改めて古きよき、何の小細工も無いどストレートな駅弁の魅力を感じました。
パッケージも中身も華やかさは決してありませんが、食べれば思わず「美味しい!」と口走ってしまう魅力的なお弁当との出会いに大感激。シンプルだからこそ光る素材と調理の良さが十分すぎるほど伝わってきました。
感動しきりの僕を乗せる小さいディーゼルカーは、グングンと山を目指し登っていきます。
車窓にはどんどん深くなる雪の壁。嫌と言うほど、北国の風情を味わわせてくれる列車旅。鉄道と旅行、この2つを趣味に持っていて本当に良かったと思える瞬間です。
1両編成ののんびり走る列車が巻き上げたとは思えないほどの雪煙。北海道の雪がいかに軽いかを物語るひとコマです。
相変わらずカタンコトンとリズムを刻むディーゼルカー。日本屈指のパウダースノーの楽園、ニセコはもうすぐ。車窓に広がる雪煙に今年の雪質を占いながら、倶知安到着を今か今かと待ちわびるのでした。
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