晩冬、早春、上悦泉。~銀嶺の懐へ 5日目 ①~

栃尾又温泉自在館で迎える最後の朝

栃尾又で迎える最後の朝。障子から漏れる明るさに期待を膨らませ廊下へと出れば、本日の晴天を予感させる青空が。

まだ朝日の届かぬ、谷底の秘湯。青白い雪明かりの漏れる湯屋で味わうぬる湯は、何時間でも入っていたいと思わせる独特の穏やかさ。ここでしか味わえない、きわめて静かな朝の時間。

栃尾又温泉自在館3泊目朝食
栃尾又温泉ならではのゆるりとした朝風呂を心ゆくまで愉しみ、お待ちかねの朝ごはん。今日も食卓には美味しそうなおかずが並びます。

白いご飯の最強のお供であるあじの開きは香ばしく焼かれ、パリッとした食感に魚沼のこしひかりがすすみます。新潟名物の車麩はだしをたっぷり吸った、ジューシーな美味しさ。ほうれん草とベーコンのおひたしも丁度よい塩梅で、案の定ご飯をおかわりしてしまいます。

そして〆はやっぱり卵入りのラジウム納豆で決まり。つやつやもっちもち甘々のご飯に掛ければ、言葉なんていらない、このためにまたここまで来てもいいと思えるほどの幸せ。

栃尾又温泉自在館早春の青空に映える大正棟
こんな日々がいつまでも続いてくれれば。そんな願いも虚しく、とうとうチェックアウトの時間に。11時のチェックアウトから送迎バスまではしばらく時間があるので、宿の近くをのんびり歩いてみることに。

3泊4日、思う存分秘湯の風情を味わわせてくれた大正棟。空の青さと雪の白さに引き立てられた渋い木の色合いは、この建物が大切に守りつづけられてきたという歴史を物語るよう。

春の訪れを感じさせる栃尾又温泉の雪の山
日本屈指の豪雪地であることを実感させる、雪のこんもり積もったうけづ山。でもそれを照らす太陽からは、温かさと共に春の気配が確実に伝わってきます。

春の気配を感じる青空に佇む栃尾又温泉自在館
この景色を愛でることができるのも、今季はこれが最後。これでもかと積もった雪の分厚さを今一度噛みしめ、去りゆく冬に別れを告げます。

8年前に訪れ大切な記憶をくれた自在館。久々に訪れても、その良さは変わらぬままだった。ここならではのお湯があり、そして朝晩の訪れを楽しみにさせてくれる美味しいご飯があり。更に味わい深い木造建築があるとなれば、また来ない訳にはいきません。

今年最後の冬を味わおうと決めた、栃尾又での滞在。やっぱりここで良かった。心からそう思わせてくれた自在館の姿に、再訪を強く誓います。

栃尾又温泉自在館の送迎バスから眺める魚沼の銀嶺
名残を惜しみつつも、とうとう送迎バスの時間に。帰りも新幹線の停まる浦佐駅まで送ってもらいます。

栃尾又を発ち、大湯を過ぎて里へと下りるにつれ少なくなる積雪。少しばかりの寂しさを感じつつも、遠くに連なる白き峰々を眺めれば自ずと心も晴れやかに。

銀嶺、その言葉がこれほどに合う眺めもそうはあるまい。雪の季節に何度も旅してきましたが、この上越線沿線一帯の山の美しさは、他では決して味わえない唯一無二の鮮やかさ。この壮大な光景を目にするたびに、感動せずにはいられない。

雪解けの陽射しに照らされさらさらと流れる魚野川
雪を溶かす春の陽射しを浴び、さらさらと流れる魚野川。広い川幅に満ちるきらめきは、水のもたらす豊かさを感じさせるよう。この流れが、こしひかりをはじめとする魚沼の美味しい恵みを支えるのです。

浦佐毘沙門堂荘厳な山門
晴れやかな魚沼平野をひた走り、送迎バスは浦佐駅に到着。次の列車まで時間があるので、駅の近くにある浦佐毘沙門堂へと向かいます。

1200年以上前に建立されたという毘沙門堂。その山門は日光東照宮の陽明門を模ったと言われるそうで、幾多も散りばめられた見事な彫刻が印象的。

浦佐毘沙門堂山門とお堂を繋ぐ回廊
内部にも彫刻が施された山門をくぐると、その先に続く立派な回廊。太い柱が並ぶ姿からは、豪雪から僧侶や参拝者を守ってきた歴史を感じます。

奇祭裸押合祭翌日の静まり返った浦佐毘沙門堂
回廊を抜け、重厚な佇まいを見せるお堂にお参りを。山里のひっそりとしたお堂といった趣ですが、この前日には日本三大奇祭にも数えられる裸押合大祭が行われていたよう。片付けが行われる様子からは、昨夜の熱気の余韻が伝わってきます。

浦佐毘沙門堂立派な回廊や山門越しの魚沼の山
浦佐の街を見守るように、高台に建つ毘沙門堂。荘厳さを漂わせる渋い回廊や山門越しには、雪解け間近の煌めく魚沼の山並みが。

敢えて余り下調べをせずに出かけた今回の旅。静かな浦佐の街に佇む重厚なお堂との出会いに、現地で知る観る食べるという実体験こそが旅の醍醐味なのだと今一度実感するのでした。