3月頭、東京ではようやく寒さが緩み春の気配をほんのりと感じられる季節。そうだ、今年の冬は自ら迎えに行ったんだったっけ。そんなことを考えると、もう居てもたってもいられなくなる。
心に芽生えた次なる旅への欲求。それが形を成すまでにそう時間は掛からず、案の定冬の〆を味わう旅へと出発。その起点となるのは、群馬県の一大ターミナルである高崎駅。今では新宿から一本で来られるため、昔よりもずっと来やすくなりました。
立派な駅ビルの下、ひっそりとしたホームに佇むこの電車。いかにも地方私鉄といった趣のある『上信電鉄』に乗り込みます。
東京西部や埼玉の方には馴染みのあるであろう、元西武の電車。3扉特有の長いロングシートや丸めの戸袋窓など、僕の好きな古き良き西武の雰囲気が車内には詰まっています。
ところでこの電車、ガッタンガッタン揺れる揺れる。子供の頃炎のチャレンジャーという番組の、終点まで掴まらずに立っていられたら100万円という企画で放送されていたのを覚えています。
当時とは車両は変わりましたが、それでもこの揺れはかなりのもの。弘南鉄道といい、上信電鉄といい、このダイナミックさが堪らない。車内の乗客は繰り返す横揺れに、みんなフェス状態。
揺れる電車に身を委ねつつ上州の山並みを眺めること30分ちょっと、渋い駅舎が印象的な上州福島駅に到着。目的地の駅はまだ先ですが、ここで下車し寄り道します。
今回利用したのは、「富岡製糸場見学往復割引乗車券」というお得なきっぷ。高崎からの往復乗車券と入場券がセットとなり、通常よりも440円安くなっています。途中下車も往復それぞれ1回ずつ可能で、使い方次第ではさらにお得に。
温かい陽射しの中、のんびり歩く甘楽の町。長閑な田園と住宅地の広がる中ゆっくりと歩いていると、春の訪れを予感させる美しい梅の花が。
駅からのんびり歩くこと30分、町の雰囲気が一変しそこだけ時が止まったかのような一画が。ここは養蚕農家のお屋敷が建ち並ぶエリア。立派な土蔵や門が、往時の繁栄ぶりを思わせます。
その横にさらさらと流れるのは、雄川堰という用水路。古い石垣の護岸からは、江戸時代より生活や灌漑用水として大切にされてきた歴史が感じられます。
渋い街並みからのびる参道を進むと、立派な杉木立に守られた小さなお社が。この小幡八幡宮は城下町の守り神として遷座されて以来、370年以上に渡りここ小幡の町を見守り続けています。
山へと伸びる長い石段と、目をひく野面積みの荒々しい石垣。その先には小さいながらも彫刻の施された朱塗りの拝殿が建ち、まさに山の神社そのものといった佇まい。
この街を歩くのはこれが2度目。再び訪れることができたお礼をし、振り返ります。すると広がる、この景色。城下町から養蚕、そして近代化への原動力と、様々な変化を遂げたであろうこの地域。それでもこの眺めには、無性にほっとするような里の風情が詰まっています。
古きよき町並みに、素朴な佇まいの神社。昔はどこにでもあったような風景かもしれませんが、僕にとっては手にしてみたかった故郷というものの姿。
これまであまり訪れることのなかった、上州群馬。同じ関東だと思っていたら、こんなにも旅に出た感を味わえるなんて。灯台下暗し、旅情は距離に比例しないということを今一度実感しつつ、甘楽の町歩きは続きます。
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