南部と津軽、夏めぐり。~呼べば幸来るヤーヤドー 4日目 ①~ | 旅は未知連れ酔わな酒

南部と津軽、夏めぐり。~呼べば幸来るヤーヤドー 4日目 ①~

8月上旬夏の東北旅 弘前で迎える爽快な朝 旅の宿

弘前で迎える1年ぶりの朝。漏れる光に期待しつつカーテンを開ければ、窓一面を染めあげる津軽の青さ。今日もいい夏になりそうだ。そんな予感を抱かせる空色に急かされ、いそいそと朝風呂へと向かいます。

8月上旬夏の東北旅夏空の弘前快晴の下佇む弘南鉄道大鰐線中央弘前の渋い駅舎
とろりとした追子野木のお湯と戯れ、すっかり頭もこころも目覚めたところで活動開始。今回予約したのは素泊まりプラン。朝ごはんを食べがてら、半日の弘前観光へと繰り出します。

8月上旬夏の東北旅快晴の弘前夏空に頂きを魅せる津軽富士岩木山
再来年の3月をもって運転休止となる、弘南鉄道大鰐線。始発駅である中央弘前の渋い佇まいに心を奪われつつ、来た道をふと振り返る。するとそこに聳えるのは、黒々とした岩木山。その特徴的な山頂が、真っ青な夏空にくっきりと浮かんでいます。

8月上旬夏の東北旅弘前大正10年築レンガ造りの弘前昇天教会
レトロな駅舎の隣には、大正10年築という弘前昇天教会が。この本州最北の城下町に、いかに早く西洋の風が吹き込んだのか。そんな弘前の歴史を、築105年の重厚なレンガ造りがいまへと伝えます。

8月上旬夏の東北旅弘前朝食を食べるため弘前駅やバスターミナルの近くに位置する虹のマートへ
弘前での朝食は駅の1階に位置するこぎんでおそばを食べるのが定番ですが、今回ははじめてこの街を訪れて以来ずっと気になっていた『虹のマート』にようやく潜入。

8月上旬夏の東北旅弘前朝食を食べるため弘前駅やバスターミナルの近くに位置する虹のマート麺屋コルトンの濃厚煮干しらぁ麺とまぐろの源ちゃんの筋子納豆巻きで朝ごはん
昭和31年開業、定休日の日曜日以外は朝8時から開くこの市場。場内の様子は撮影禁止のため写真はありませんが、地元の人々や僕のような朝食を求める観光客で大賑わい。

魚に肉野菜、惣菜に麺やパン、お菓子まで。たくさんのおいしそうなものがずらりと並び、買った品は場内の決められたスペースで飲食可能。そんななか、下調べして目をつけていた『麺屋コルトン』へ。するとなんともうれしい、他店の品物持ち込み可。すぐさま斜向かいの『まぐろの源ちゃん』でお寿司を買い、食券を買って着席します。

ということで、これが即興で組み立てた僕的虹の朝定。まずはコルトンの濃厚煮干しらぁ麺から。丼が到着したときから、鼻をくすぐる煮干しの香り。期待に胸を膨らませ、スープをひと口。うわぁ、やっぱり津軽の煮干しはすげぇや。

ちらりと銀色の粉が見える通り、たっぷりと溶け込んだ煮干しが主張する味わい。旨味も風味もばっちり濃く、それでありながら臭みや苦味などどこを探しても見当たらない。濃厚ながら腹にすっと沁みてしまうようなスープは、まさに煮干しの善き部分のみを引き出したといった印象。

つづいてストレート麺を啜れば、つるりとしていながら心地よい歯触りとしっかり香る小麦感。この濃厚なスープにも埋もれぬ存在感で、でも重たさはなくしゅるしゅると箸が止まらなくなる絶妙なバランス。

魅惑の煮干し感に圧倒されつつ、ふと我に返り巻物を開けることに。店名のとおりまぐろのおいしいお店のようですが、こんなのを目の当りにしたら買わないわけにはいかんだろう。選んだのは僕の大好物の共演、筋子納豆巻き。もうこれ、食べる前から勝ちが決まっている。

ひと口頬張れば、ぷちじゅわっと舌の上に広がってゆくすじこの旨味と塩気。これだけたくさんすじこが入っているにもかかわらず、思いがけずしょっぱすぎない。魚卵を食べる街には旨い魚卵が集まり、そしてその魚卵をおいしく食べる技が伝承されているのでしょう。

しつこいようだが、僕はいくらよりも断然すじこ派。そんな僕のこころのど真ん中を射抜く絶妙な塩梅のすじこをより旨くしてくれるのが、ひきわり納豆。粒のものよりなじみやすい粘りが、全体をまろやかにまとめてくれている。

濃厚でありながらしつこくなく、一杯をおいしいと思いながら最後まで味わえる上限ライン。そんな絶妙な線をゆく煮干しラーメンと、筋子と納豆の魅惑の一体感。朝から贅沢が過ぎるだろこれ。そう思いつつあっという間に平らげ、大満足で虹のマートを後にします。

8月上旬夏の東北旅弘前バスターミナルから弘南バス岩木山線岳温泉前行きバスで岩木山神社へ
そのまま道路を渡り、真向いにある弘前バスターミナルへ。

正直言って、東京ではいい思い出のない煮干しラーメン。煮干し感=クセや臭みだと思っている節すらあるのではと頭をよぎるほど。でも津軽で食べるものは、しっかりと主張はありながらダシであるという本分を忘れていない。これがきっと、古くから焼干しや煮干しに慣れ親しんだ地が創る味なんだろうな。

はぁ、旨かった。案の定喰いすぎた。ぱつんぱつんのお腹を抱えつつ余韻に浸っていると、これから向かう地へと僕を運ぶ『弘南バス』の岳温泉前行きが入線。この表記だと福島の温泉地が想起されますが、バスの終点である温泉地は嶽の字が使われています。

8月上旬夏の東北旅弘前バスターミナルから岳温泉前行きバスに揺られ岩木山神社へ車窓からは雄大に裾野を広げる津軽富士岩木山の優美な姿が
バスターミナルを出発し、駅を経由し土手町からお堀端へ。弘前の市街地を抜け緑が増してゆく車窓を眺めていると、雄大に裾野を広げる岩木山。あまりに優美なその山容、その手前に広がるのはりんごの畑。津軽の夏が両手を広げて迎えてくれたようで、思わず胸がいっぱいになる。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社鳥居越しにご神体である岩木山を望む
嶽の高原へとつづく道を登るバスに揺られること約45分、岩木山神社前で下車。歩いてすぐのところに、津軽国一の宮である岩木山神社が。岩木山を御神体とするこの神社。鳥居が一直線に並ぶ参道の先には、「山」という漢字の成り立ちを体現したかのような津軽富士の山頂が。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社樹齢五百年という五本杉
ゆるやかに登る石畳を歩いてゆくと、立ち並ぶ木々のなかひときわ目を引く杉の巨木。ひとつの根から5本の幹に分かれて天を目指す五本杉は、500年もの長きにわたり津軽の風雪に耐えてきたそう。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社楼門
木々に護られた参道の突き当たり、姿を魅せるのは荘厳さに包まれた楼門。いまから1200年以上前、岩木山頂に社殿が創建されたことに起源をもつという岩木山神社。1000年ほど前にこの地に遷り、岩木山の噴火により全焼した建物を津軽のお殿様が四代にわたり造営・寄進したものが現在の社殿だそう。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社玉垣に上向きにしがみつく狛犬
いまから400年ほど前に建てられたという楼門へ。石段を登り歩いてきた道を振り返ろうと右手を見ると、玉垣を登るような姿の狛犬が。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社玉垣に下向きにしがみつく狛犬
右にいるということは、きっと左にも。そう思い反対側を見てみれば、さきほどの上向きと対を成すように下向きにしがみつく狛犬。前回お参りしたときには、まったく気づかなかった。何度も愛する津軽を訪れたご褒美に、ここにいるよと知らせてくれたのかもしれない。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社端正な表情に緻密な彫刻が目を引く中門
明治時代の神仏分離以前は、百沢寺という寺院であった岩木山神社。さきほどの楼門はそのお寺の山門として、そしてこの中門は本堂の門として建てられたものだそう。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社中門を彩る見事な彫刻
朱一色の楼門に対し、黒漆を基調に見事な装飾が施された中門。築後300年以上も厳しい風雪に耐えたとは思えぬ、極彩色をまとう繊細な彫刻が印象的。拝殿の脇から垣間見える本殿も絢爛豪華な造りで、その姿から奥の日光との異名も。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社の荘厳な拝殿にこうして毎年津軽へと帰ってくることのできるお礼を伝える
そしていよいよ、拝殿へ。初代藩主の為信公が再建に着手し、37年という歳月をかけて三代藩主義信公の代に完成。鮮やかな朱と大屋根が荘厳さを漂わせる拝殿に、こうして毎年毎年津軽へと帰ってこられることへのお礼を伝えます。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社清冽な湧水が絶えず落ちる御神水
8年ぶりとなるお参りを終え楼門の外へと出ると、そのすぐそばに清冽な水の流れる禊所が。

三つの龍の口から落とされるのは、岩木山に降った雨や雪が200年もの歳月をかけ湧きだす伏流水。手を洗えばひんやりと心地よく、口に含めばとてもまろやか。夏の暑さに火照った心身の奥底へ、すっと冷涼が沁みわたってゆく。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社かつての百沢寺の本坊または客殿として建てられたという茅葺屋根の社務所
鮮烈な青空と緑に囲まれた朱塗りの社殿に別れを告げ、バス停へと向け歩く帰り道。すると左手に重厚な茅葺屋根を発見。現在は社務所として使われているこの建物は、百沢寺の本坊もしくは客殿として建てられたもの。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社社務所羊歯が生え自然と融合する茅葺屋根
内部は上段に御座ノ間を設けるなど、藩主の参拝を想定した造りになっているそう。築後180年ほどの長きにわたり刻まれてきた歴史が、木や茅の風合いからにじみ出るよう。

8月上旬夏の東北旅弘前岩木山神社前バス停から弘南バスで市役所へ
はじめてきちんと津軽を訪れた、14年前のあの旅。嶽温泉への途中で立ち寄るつもりが、バスがこの一帯を通る時だけバケツをひっくり返したような雷雨に。あのときは、きっとそのタイミングではなかったんだな。その後こうして二度目のお参りを果たし、そして三度目を誓い『弘南バス』で市街地へと戻ります。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園入口
バスに揺られること約30分、市役所前公園入口で下車。来た道を少しばかり引き返し、お城のすぐ隣に位置する『藤田記念庭園』を見学することに。ちなみにこの後弘前城の本丸にも入る予定のため、お得な共通券を購入。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園重厚な佇まいの和館
もとは大正時代に造られた、弘前出身の実業家藤田謙一氏の別荘。弘前市が市制百周年を記念してリニューアルし、1991年に開園。広々とした芝生の脇には、昭和12年築という和館。板柳の実業家の邸宅を、昭和36年にこの地に移築したそう。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園別荘時代当時からのものだという岩木山を借景とした高台部の庭園
13mという崖地の高低差を活かし、二部構成とされる庭園。和館に面した高台部の庭園は別荘当時からのものだそうで、西側からは岩木山の見事な眺望が。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園池泉回遊式庭園の低地部に落ちる涼やかな滝
岩木山を借景とした高台部から、崖を伝う道をくだり低地部へ。こちらは1991年の開園時にリニューアルされた池泉回遊式の庭園となっており、その高低差を利用した涼しげな滝が。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園池泉回遊式庭園の低地部のうつくしい曲水
滝から落ちた水は、鮮やかな緑のなかさらさらと流れる曲水に。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園池泉回遊式庭園の低地部の中心をなす池
その水のたどり着く先は、庭園の中央を潤す大きな池。まわりには巨石や大きな木が並び、ここが弘前の市街地にあることを忘れてしまう。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園池泉回遊式庭園の低地部の池に設けられた浅瀬と石灯籠
さまざまな水辺を表現する池泉回遊式庭園。ごつごつとした岩場や池に架かる橋、波打ち際を思わせる浅瀬とその表情は豊か。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園池泉回遊式庭園の低地部のうつくしい芝生
水辺を離れさらに奥へと進めば、きれいに手入れされた広々とした芝生。本当に、夏だな。力漲る旺盛な緑に、津軽の短い夏が凝縮されているよう。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園池泉回遊式庭園の低地部の茶屋から眺める景色
池のまわりをぐるりと歩き、茶屋の軒下でしばしの休憩。日陰から眺める鮮烈さ、肌をなでてゆく涼しい風。一幅の絵のような夏色を、今夏の想い出として持ち帰ろう。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園高台部への道から見下ろす低地部の池泉回遊式庭園
水辺の情景を味わわせてくれた低地部から、ふたたび高台部へ。その道中、目に飛び込むこの情景。津軽の夏をやさしく見守る、優美な裾野を広げる岩木山。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園大正10年築の洋館
自然の高低差を活かした庭園をひと回りし、そろそろお昼を食べることに。庭園の出入口の脇に建つのは、大正10年築の洋館。

8月上旬夏の東北旅弘前藤田記念庭園大正10年築の洋館正面
この庭園の顔ともなっている、渋いモルタルに大屋根、赤い塔屋が印象的な洋館。内部はアップルパイがおいしい大正浪漫喫茶室となっており、10年前に訪れたときとは比べ物にならないほど大賑わい。

8月上旬夏の東北旅弘前大正14年創業の津軽百年食堂来々軒
混雑のため洋館内部の見学は見合わせ、お目当てのお店へ。庭園横の通りを南下してすぐ、大正14年創業の『来々軒』。今年で101周年を迎える、本物の津軽の百年食堂。

8月上旬夏の東北旅弘前大正14年創業の津軽百年食堂来々軒ワンタンメン
ここはいわゆる町の中華屋さんで、麺にどんぶり、炒飯といろいろ目移りしてしまう。でもここは初志貫徹、狙っていたラーメンを食べることに。昨日に引き続き、ちょっとばかり欲張りしてワンタンメンを注文します。

カウンターで調理の様子を眺めながら待つことしばし、お待ちかねの丼が運ばれてきます。まずは善き色をしたスープから。

煮干しや焼干しでとったというスープは、おだやかな魚介の旨味とじんわりとした野菜の甘味が融合。ちょっとばかり濃い目のしょう油がきりりと引き締め、胃へとたどり着く前に沁みこんでしまうようなやさしい旨さ。

つづいて、自家製という麺を。つるりとしていながらしっかりと小麦を感じ、適度な縮れがおいしいスープを適量口へと運んでくれる。チャーシューは、無駄な脂っぽさのない昔ながらの味わい。ワンタンはつるりとした口当たりがうれしく、コリコリとしたメンマを時折はさめば啜る手が止まらなくなる。

8月上旬夏の東北旅弘前来々軒の前から眺める津軽富士岩木山
朝もラーメンだったのに、そんなことも忘れて一気に完食。スープ一滴残さず平らげ、大汗掻きつつお店を後にします。

やっぱり津軽の中華そばは、じんわり素朴で滋味深い。大正時代から守られてきた味に満たされ眺める津軽富士。今年もいい夏だ。照りつける津軽の陽射しを全身に浴び、しみじみそう噛みしめるのでした。

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