大沢温泉自炊部での楽しみといえば、やはりこの空間での調理。独特な雰囲気を持つ調理場で好きなものを調理し、誰にも気兼ねせずゆっくり自室で食べる、まさに自炊湯治の醍醐味。
前回は自炊するつもりのないまま衝動に駆られて体験した自炊湯治ですが、今回はその時の経験を踏まえ、イトーヨーカドーで必要なものをあらかじめ調達。
最低限の調味料とラップ、あとは地の美味しい食材を蓄え、これから4日間、旅館料理では決して楽しめないシンプルな贅沢を味わうこととします。
本日の材料は、三陸の生ほたて、岩手産原木しいたけ、地元の白菜漬けに長ねぎ、せんべい汁用せんべい。調味料はこれから4日間、しょう油と生タイプのわかめ汁用味噌を使い回し。
記念すべき初日のメニューは、ほたてとせんべいの味噌煮としいたけ焼き、白菜漬け。大根のお漬物は、調理場で一緒になった方に頂きました♪
ほたてとせんべいの味噌煮は、生ほたてと長ねぎを味噌汁の素を溶いた水で煮て、仕上げにせんべい汁用せんべいを加えて染ませたもの。
三陸産の大ぶりのほたてはしっとりぷりぷり、噛めば磯の香りがじゅんわり出てきます。ほたての旨味とねぎの甘さを吸ったせんべいは独特の食感で、もちもちとしたすいとんのようでもあり、初体験の美味しさ。
原木しいたけは肉厚で、香ばしく焼けばしょう油を掛けただけでご馳走に。頂いた大根漬けは歯ごたえが心地よく、地元花巻のメーカーの作る白菜漬けも丁度よい塩梅で、お酒に合わない訳がありません。
今回も幕を開けた、食べて飲んでの極楽自炊湯治。その始まりの宴を飾るのは、やはり地元岩手のお酒。宮古の菱屋酒造店のフェニックス復興弐号です。こちらは東日本大震災の津波で被災したそうですが、その後復活された酒造会社とのこと。
これまで見たことのなかった千両男山という銘柄が気になり購入しましたが、これがまた好みのお酒で大当たり。キリリと辛い、というタイプではなく、辛さと甘さ、香りの強さがバランスよく、食事と一緒にすいすい飲んでしまうようなお酒。
岩手の酒ははずれが無い。何度来ても新しい美味しいお酒に出会える、こんなところも東北の大きな魅力のひとつですね。
2日目のメンバー紹介。塩鮭のあら、岩手産生わかめ、二子の里芋、にんじん、大根、長ねぎ、納豆、かやきせん。調味料は、しょう油の他に昨日明けた白菜漬けの漬け汁。
今夜のメニューは、鮭とわかめの三平汁風、しゃきしゃきわかめ納豆と白菜漬け。
鮭とわかめの三平汁風は、鮭の塩分と旨味をメインに、わかめの磯の香りをプラス。白菜漬けの汁をほんの少しだけ加えて味を調整したもの。
二子いも、にんじん、大根、ねぎといった根菜の風味がシンプルな味付けで引き立ちます。加えたせんべいもいい具合につゆが染みています。
そして僕の好きな花巻納豆。今回は風味と食感のアクセントに生わかめを加え、つるしゃきで頂きました。シンプルだけどとっても美味しい。自炊湯治でなければ作らないようなメニューですが、この質素な感じがまた心地良い。
今宵の友は、お気に入りの酔仙。陸前高田市にあった酒蔵は被災してしまい、今は同じ岩手県内の玉の春という酒を造る酒蔵で酒造りをしています。
8月には大船渡に新酒蔵も完成したそうで、いよいよまたオリジナルの酔仙が飲めるのかと思うと今から待ち遠しい気持ちでいっぱいになります。
僕にとって、未だに北海道への玄関口のイメージが残る八戸。そこでこの酔仙酒造と初めて出会うこととなった、活性にごり酒雪っこ。甘くて濃くてとろりとした魅惑の美味しさにビックリして以来、白鳥車内では雪っこを飲むのが恒例となっていました。
そんな雪っこを作る酔仙ですが、この特別純米酒は全く違った雰囲気。嫌な辛さや強いかおりのない、すっきりとした飲み口。変な後味もなく、気が付けばどんどん飲んでしまうお酒。
近所のスーパーで一升瓶を初めて買って以来、何度深酒したことか。懐かしい自在鉤のラベルを見ながら、またこのお酒が飲める喜びを噛み締めます。
前回は夜のそばと朝食付きのプランでしたが、今回は完全素泊まり。ということで、朝食は毎日お気に入りの花巻納豆と決め込んでいました。あとはお漬物と味噌汁、パックご飯だけ。お風呂に入るか食べるか飲むか。そんな生活を1日中送っていると、こんな程度の朝食で十分なのです。
そんな生活も3日目、調理場でパックご飯をチンしていると、嬉しいおすそわけが。手作りのお赤飯ときゅうりの漬物、笹かまを頂きました。お赤飯はほんのり甘く、ほっと心が和むような味付け。
反面僕と言ったらこれと言ってお返しできるようなものもなく、申し訳ない気持ちになります。一人旅なので多くの食材は用意できませんが、自炊湯治では何かおすそ分けできるようなものがあった方がいいのかもしれません。
自炊湯治3日目の材料はこちら。いわて遠野牛のもも切落とし、シーチキン、二子の里芋、にんじん、大根、長ねぎ、卵。調味料はしょう油と味噌汁の素の他に、朝食で食べた納豆のたれを使わずに取っておいたもの。
今日は一転、お肉がメインの献立。二子いも煮、シーチキン卵味噌、大根とシーチキンのサラダ。
なんといっても抜群のほくほく感と甘さが絶品な二子いも。北上のおそば屋さんで食べてびっくりしてしまい、イトーヨーカドーで真っ先に購入を決めた材料。そんな里芋を甘辛醤油の芋煮風に。
二子いもは皮を剥いてラップに包み、電子レンジでチン。電子レンジは無料で使えるので、下ごしらえに活用すればガスを使う時間も短くて済みます。
鍋に具材を入れ、水と納豆のたれ3個分、足りない分はしょう油を加えて煮るだけ。甘くてねっとりほくほくな里芋に染みる、遠野牛の赤身の旨味。柔らかく煮えたねぎも絶品です。
何か食材を買い足そうと、宿の売店で買ったシーチキン。大きい缶しかなかったので、2つの料理に使うことに。
フライパンにシーチキンの油をひき、細かく切った大根、にんじん、長ねぎとシーチキンを一緒に炒め、味噌汁の素で味付けして卵を加えるだけ。いつも作る卵味噌とは違いますが、これはこれで一層お酒に合う出来栄えに。
旅行を続けているとふと食べたくなる生野菜。大根を細切りにしてシーチキンを載せ、しょう油を掛けるだけという、いたってシンプルな食べ物ですが、しゃきっとした食感と大根のさっぱり感がいい箸休めに。
一緒に合わせるお酒は、釜石の浜千鳥純米酒。辛さと甘味旨味のバランスの良い、ふくよかな飲み口のお酒。僕の勝手な思い込みですが、岩手内陸のお酒は芯を感じるきりっとした辛口で、沿岸部のほうはバランスのとれた飲み口の良いお酒というイメージがあります。
僕はそのどちらも大好き。ガツンと来る辛口も堪りませんし、口の中を日本酒の香りでほんわりと満たしてくれるようなお酒もまた然り。岩手は本当に旨い酒ばかりです。
適当過ぎて人様にお見せするのもどうかと思うような、それでいて自分としてはこの上なく贅沢で。そんな自炊湯治も最後の夜。
列車旅なので、食材を余しても持って帰ることは出来ないため、ギリギリの分だけ用意しました。が、最終日はこの有り様。残った根菜を整理するだけのメニューとなりました。
といっても、これも実は計算の内。最終日は軽めに済ませ、やはぎで〆に何かを食べようと思っていました。
最後の夜を飾るのは、紫波町の廣田酒造店、特別純米酒杜氏の独りごと。こちらも辛みはありますが、ガツンと辛口というのではなく、旨さすっきり、爽やかな辛さといった感じ。
つまみが少ないながらも、お酒単体でもどんどん飲み進められるタイプのお酒なので全然OK。根菜納豆ひと口でぐいぐい飲んでしまいます。
通常のレシピ記事には決してアップできないような、適当、手抜き、いい加減なつまみの品々。それでも、その中には地元の食材がいっぱい。
地元の幸を集めた旅館の料理には勝てませんが、自分の気に入った食材を、限られた食材と設備で好きなように調理する。
その出来上がりも重要ですが、何より遠く離れた湯治場で、こうやって現地のものを大きな調理場で調理している。その体験自体が貴重で、楽しくて、愛おしい。
旅に出てまで炊事なんて。僕も最初はそう思っていました。が、この有り様。ハマる人はハマってしまう、それが自炊湯治。
あぁ楽しかった・・・。書いているうちに、もうすでに次はいつにしようかなんてことを考えてしまう。ここでしか味わえない魅力が、ここには詰まっています。
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