再びやってきました、『大沢温泉自炊部』。前回訪問から半年での再訪。すっかりこの自炊部の虜になってしまいました。
天気はあいにくの雨模様。両手いっぱいに食材とお酒を持っていたため、雨に濡れながらいそいそと玄関を目指します。
これから4泊5日お世話になるのは、中舘2階の二十五号室。前回はこの中舘の1階部分でしたが、作りが若干違います。
1階は窓側に廊下がありましたが、こちらの2階は中央に廊下があり、その両側に部屋が並びます。仕切りも障子ではなくふすま。いったいどのような部屋なのかと、ワクワクしながら入ります。
飲んで食って浴びての贅沢三昧。その舞台となるお部屋がこちら。前回には無かった窓があり、秋色の豊沢川の眺めを独り占めすることができます。
部屋の設備としては大きく変わった部分はありませんが、ひとつだけ、あの専用ガスコンロが見当たりません。
ありゃりゃ、ここには付いていないのかぁ。これから自炊をするつもりなので、ちょっとだけ残念。コンロがある部屋と無い部屋の2種類があることが分かったので、次回以降の予約に役立てることにしました。
早速重たい荷物を降ろし、滞在の準備に取り掛かります。常温で保存できるものはこちらの戸棚へ。食器等は持ち込んでないので、野菜類を入れても余裕十分。前回無くて不便だったラップも今回は持参。これがあとあと重宝します。
お肉やお魚など、冷蔵品は冷蔵庫へ。藤三旅館は冷蔵庫は有料ですが、こちらは無料の冷蔵庫が各部屋に備え付けてあるので持ち込み自炊もばっちり。
ちなみに、冷凍室一体型のこの冷蔵庫。かなり冷えるので温度調整を気に掛けないとガチガチに凍ってしまいます。
部屋を自分仕様に整えたところで、お待ちかねのあのお風呂へ。お風呂については別の回にご紹介したいと思います。
半年振りの大沢のお湯。さらりと優しいそのお湯に包まれ、再訪の喜びを噛み締めます。そして、湯上りにはお決まりのビール。至福の瞬間、その言葉がこれ以上相応しい時など、そうそうありません。
落ち着いたところで、いよいよ自炊湯治の開始。岩手の恵みをシンプルに調理した自炊使用の献立はまた後ほどに。
半年ぶりに味わう、この独特の空気感。遠く離れたこの場所で、旅館の一室で感じるなぜか不思議な落ち着き。ただの温泉旅行では決して味わうことのできない贅沢。
夜の大沢温泉自炊部は、一層艶っぽい表情を魅せてくれる。古き良き木造建築から漏れる、温かい灯り。この建物自体が、夜の闇に浮かぶ行燈のよう。
前回のお部屋には無かった専用の窓。ワンフロア分高い視点から眺める菊水館の建物は、秋の空と木々の彩に包まれています。
部屋の灯りを消し障子を開け放てば、窓いっぱいから溢れる秋色の輝き。黄金色、山吹色と呼ぶに相応しい、眩い光を眺めれば、心の奥底からこの幸せに染まってゆきます。
お湯に浸かって酒を飲み、本を読んで腹が減ったら食べるだけ。滞在中、することと言ったらただこれだけ。遠くまで来て敢えて予定を入れない、何もしない。それをするためにここに来るのです。
のんびり流れる午後のひととき。布団に転がり外を眺めれば、色づく山と高い空。わざわざ景勝地へ行かずとも、自室から飽きるまで眺められることの贅沢さ。
菊水館にある南部の湯へと向かいます。途中で屈曲する曲り橋越しに眺める茅葺屋根。前回の訪問の際は芽吹き前、浅き春の風情でしたが、今回の紅葉に包まれた姿もまたおつなもの。
秋の陽をいっぱいに浴び、全身で輝く豊沢川沿いの山。自炊部の渋く味わい深い木造建築との対比がまた絶妙で、秋の山里の趣を一層深いものとしています。
背中に錦を飾り、きわめて渋い佇まいを見せる茅葺屋根の菊水館。鮮やかな秋の陽射しに透かされた、色付き始めのもみじの葉。自然の作りだす光と色のコントラストにしばし言葉を忘れ見入ります。
昼間の太陽を浴びて輝く姿も美しいのですが、秋の夕暮れ時の風情もまた格別。弱々しく翳りゆく光の下では、木々それぞれの色の違いがより鮮明になり、色づいた木が一層目立ちます。
茅葺の窓に灯り始めた明かり。儚げで、寂しげで、切なくて。それでいて穏やかな気持ちにさせてくれる。昼とはまた違う佇まいで、見る者の心を掴んで離しません。
視線を右へと向ければ、こちらも渋い表情を見せる自炊部。雪の季節の直前に、そして今日という日の最後の光の中で。力いっぱいに色付く木々を眺めるだけで、何故こんなにも胸が締め付けられるのでしょうか。
自室の窓から眺める、秋の夕暮。光が弱くなるごとに溶けるように失われてゆく色彩。その移り変わりを肴に飲むビールは、味覚以外にも何か苦いものを感じさせます。
天気や時刻に伴い、色々な美しさを見せてくれるこの自炊部。この他にもたくさんお気に入りの瞬間がありますが、きりが無いのでここら辺でお終いにします。
大沢温泉で過ごす最後の夜。整然と並んだ障子から漏れる温かみのある灯りを眺めれば、自分の心にまで何か温かい火が灯ったかのよう。そんな優しい気持ちにさせてくれる何かが、ここにはあります。
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