落ち着いた和室でぐっすり眠り、気持ちよく目覚めた後はお待ち兼ねの朝食。ここ田事の名物は、せいろめっぱ飯。
実は若松に来るたびにお邪魔していた「田季野」は、この田事で修行をして暖簾分けをしたお店。僕が始めてわっぱ飯を食べたのがここの旅館で、それ以来その美味しさが忘れられず虜になってしまいました。
今回は鮭、しらす、ぜんまいの3種類から選ぶことができ、僕はぜんまいをチョイス。
程よい具合に味付けされたぜんまいが載ったご飯は、蒸されることによりその味が程よく浸みこみ絶妙な味加減になっており、さらにモチモチほくほく感が増しています。せいろめっぱ、本当に美味しい!
おかずの方も凝っていて、ふきのとうの若い茎の部分、つまり生えたてのふきのきんぴらは初めてお目にかかる食材。見た目は細いふきなのに、味はしっかりふきのとう。初めての感覚に驚きつつも美味しくいただきました。
また、僕がこれまた好きなのが、揚げ卵の甘酢。周りをカリッと揚げられた卵(ゆで卵状ではなく目玉焼きを揚げたような形)の香ばしさとさっぱりした甘酢がベストマッチ。薬味のたっぷりのネギと共にいただきます。
せいろめっぱと揚げ卵は十数年前と変わらぬ味。懐かしい思い出が蘇るようです。美味しい朝食にお腹も心も満たされて大満足。旅館の皆さんも親切にしていただき、帰りは駅まで送っていただきました。本当にまた来たい、そう思える旅館です。
会津若松駅からは、地元の観光関係の協議会が主催する観光バス、「アシノマキバオー」(運行終了)に乗車し、塔のへつりと大内宿を目指します。車体に描かれたマキバオーとあかべこがかわいい。
このバスは東山温泉や芦ノ牧温泉の宿泊者の送迎と観光地めぐりを兼ねたバスで、宿泊者以外でも芦ノ牧温泉の観光協会に電話で申し込めば乗車することができます。
季節や時間帯により経由地は若干異なりますが、春~秋の午前便ならたった1500円で塔のへつりと大内宿を巡ることができます。
東山温泉、芦ノ牧温泉と経由し、最初の目的地である塔のへつりに到着。会津では有名な景勝地です。まさに塔のように聳え立つ岩と、川の浸食によって刻まれた窪みが印象的。
写真に写る吊橋を渡って対岸へ。段々と巨大な岩壁が近付いてきて、その迫力に圧倒されます。
水は深いエメラルドグリーン。下を見ても全く見通せません。その水深たるや、考えるだけでぞっとします。そして岩壁に刻まれた深い溝。水の力が気の遠くなるような時間を掛けて造り上げたものです。
水面に目を落とせば、そこも同じように深くえぐれており、現在も浸食は進行していることを実感。今見ている水面も、数千年後には塔の一部になっていることでしょう。
そして驚きなのは、目の前にある溝が一時期街道として人々の往来に利用されていたということ。詳しく調べたわけではありませんが、どうやら会津と日光を結ぶ主要街道の一部だったそう。「へつり」とはこのような岩に沿った細い道をへばりつくように歩くことを指す言葉だそうです。
印象的な塔のへつりに別れを告げ、次の目的地である大内宿へと到着。この大内宿は江戸時代の街道筋にあった宿場町がそのまま姿を残しているもので、茅葺屋根の大きな古民家が軒を連ねています。
この大内宿、実は路線バスなどが無いようで、最寄り駅からタクシーを利用すると片道数千円掛かる距離なんです。なので以前若松に来た際も泣く泣く諦めた、来たくても来れなかった場所。その大内宿に来ることができ本当に感激しました。
古民家はそれぞれそば屋やお土産屋、民宿などになっており、軒先ではさまざまな食べ物が売られています。その誘惑に負けて食べ歩き。まずは蕎麦のおやきをいただきました。
中身はいろいろありましたが、僕はふき味噌を選択。生地にそば粉が入っているので普通のおやきよりも皮はモッチリとフカフカしており、中のほろ苦いふき味噌との相性抜群。縁側にはお茶と座布団が用意されており、雨を気にせずのんびりいただくことができました。
お次は会津の郷土料理、しんごろう。太い竹串に楕円のご飯を握り付け、これまた会津名産のじゅうねん(エゴマ)味噌を塗って炭火で焼いたもの。
味噌の焼けた香ばしい香りと、エゴマのプチプチ感がたまりません。五平餅よりもご飯粒が残っているので、イメージ的には串に刺した焼おにぎりといったところ。
ここでも軒下を貸していただき、お茶もごちそうになりました。会津の方々は温かいという言葉がしっくりきます。
若松市内のお店に行っても、このような観光地でも、さらっと親切をしてくれます。それが他の観光地にありがちな商売っ気たっぷりな感じではないのがまたいい。人よし、味よし、景色よし。会津、本当にいいとこだぁ。
道端にはたくさんの花が咲いていました。小さいながらも一生懸命に咲く水仙と茅葺屋根。まさに日本の原風景、さりげない美しさ。
ここでは桜も今が見ごろ。バスから降りて驚いたのがその肌寒さ。4月も終わりとは思えない寒さです。ここへ来る途中の道々でも、たくさんの桜が咲いていました。
大内宿の最奥部まで歩き、振り返るとそこはまさに江戸時代。一体どれほどの長い時間、この場所はこの姿で居続けたのでしょう。まさに奇跡と言っても過言ではありません。そして、古き良き日本の風情を感じさせるこの街並みを、この先永遠に残していって欲しいものです。
滞在時間に余裕があったので、ここで昼食をとることに。今回入ったのは『山本屋』。軒下では自家製の漬物や味噌類を販売しており、奥にそば屋の入り口があります。
入り口には古民家らしい農作業道具が。もちろんそこは土間になっており、昔の農家はみんなこうだったんだろうなぁ、と思いを馳せてしまいました。
室内に入ると暖かい囲炉裏が出迎えてくれます。火のそばでは美味しそうな川魚たちが香ばしく焼かれています。この部屋の左手にも大きな続きの部屋があり、とても広い。昔はきっとここで親戚が集まったりしたことでしょう。
ここでいただいたのが、岩魚の塩焼きと高遠そば。僕は川魚の塩焼きが大好物。鮎も好きですが、大ぶりでしっかりとしている岩魚も大好き。一口ほお張れば、炭火焼独特の香ばしさと、ホクッと崩れる身から染み出す香りと甘味、旨味が広がります。
もちろんこれには地酒、ということで花泉という純米酒を楽しみました。岩魚に負けないしっかりとした味わい、それでいて飲み口はすっきりとしています。
そしてメインのおそば。この高遠そばというのは、大根のおろし汁に薬味を加え、自分でしょう油を好みの分量入れ、それを付けて食べるというもの。おそばは昨日とはまた趣の違う、芯のしっかりしたそばで、こちらの方がよりシコシコ感が強い。どちらのおそばも僕好み。
そして絶妙なのが大根のおろし汁。辛いかな?と思いきや嫌な辛味は無く大根のいい香りが口いっぱいに広がります。
だしも何も入っておらず、味付けはしょう油だけなのにこの旨味は何なのでしょう。シンプルなのに驚くほど美味しい、そんな大内宿の素朴さを現すかのようなおそばに大感激しました。大内宿、来て良かった。
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