黒磯の街歩きと二晩のお供の仕入れを終え、そろそろバスの来る時間に。ロータリーで待つことしばし、『関東自動車』の那須線、那須ロープウェイ行きが到着。あれ?でも東野交通が来ちゃったんだけど。このときはそう不思議に思っていましたが、あとで調べてみるとどうやら8年前に経営統合したのだそう。

那須街道をたどるバスに揺られること15分足らず、チーズガーデン前で下車。そのまま進行方向へと歩き出せば、大きく枝を広げて咲く桜。その可憐な花越しには、独特な山容をもつ那須岳の主峰、茶臼岳が。

眼前に茶臼岳の威容をとらえつつ歩くこと約5分、この旅の目的地である『那須温泉グランピングNenn(ネン)』に到着。人生二度目のグランピング。これから2泊、いったいどんな時間が待ってくれているのだろう。

敷地内へと入ると、ずらりとならぶ白いドームテント。その隣には1室に1台ずつ、ワーゲンバスを改造したヴィンテージバスが。あ、これ、映えるやつ。インスタもやってないおじさんひとり、大丈夫かなぁ。

いや、これまで何度ひとり旅を重ねてきたんだよ。堂々としていればいいんだよ、堂々と。四十半ばで手を出した未知なる領域にちょっとばかり気圧されながらもフロントへ。そこで丁寧な説明を聞きつつチェックインを終え、いざこれから2泊過ごす僕の城へ。

今回予約したのは、直径7mのラージテント。ひと回り小さい6mテントでもいいかなと思いましたが、5周年の特別プランで1泊あたり2千円も違わなかったのでちょっとばかり贅沢しちゃうことに。

生まれてはじめて足を踏み入れる、ドームテント。大きな窓からは春の陽光が存分に注ぎ込み、そのそばに置かれたハンモックにはやくも僕の幸せな時間が確約される。冷蔵庫やエアコンも設置され、寒い時期にはうれしい床暖房も。

非日常感あふれるテントにはやくもこころを射抜かれ、ひとりしずかにはしゃぎつつ荷物をおろし隣のスパ棟へ。中へと入れば、まず出迎えるのがおしゃれなラウンジ。こんなの、いい歳したおじさんでもテンション上がっちゃうよ。

これまでの人生であまりかかわってこなかった世界観に圧倒されつつ、旅の汗を流すべく大浴場へ。ここには敷地内から湧くという源泉が引かれており、ふわりと漂う独特な湯の香が。
肩まで浸かれば、肌をやわらかく包む弱アルカリ性のナトリウム塩化物泉・硫酸塩温泉。ちょっとばかりとろみを感じるやさしい湯に四肢を投げ出し、じんわりのんびり湯の温もりに染められます。

身体もこころもすっかり火照ったところで、フロントに併設の売店でビールを購入。自室のデッキに置かれたハンギングチェアに身を委ねれば、ときおり過ぎゆく高原の風。冷たい金星片手にメニューブックを眺め、今宵の調理の予習。もうこの時点で、死ぬほど愉しいんだが。

人生二度目の非日常感にすっかり日々のあれこれから解き放たれていると、あっという間にもう夕刻に。まずはフロント棟へと向かい、ずらりと置かれた野菜やきのこから好みのものをいくつかピックアップ。チェックイン後に持ってきてくれた食材と合わせ、いざ調理開始。

ハンギングチェアで妄想していた手順に沿って、赤ワイン片手に切って焼いて。アウトドアって、これまで本当に縁がなかったな。バーベキューを何度かと、会社の仲間で行ったコテージ泊くらい。じゅうじゅう焼ける音が、自分のなかのこれまで気づけなかった領域を目覚めさせてゆく。

日中はほんのり汗をかくほどだったのに、日が暮れると風が吹き出しちょっとばかり肌寒く。そんなときに活躍するのが、このワーゲンバス。向かい合わせのベンチシートの中央には、なんともうれしいこたつが。もう本当に、至れり尽くせりだな。

ウキウキでコップのワインを進めていると、まずは鶏もものグリルが完成。もともとおいしい桜姫、味付けは塩とコショーでもう充分。ふっくらジューシーな焼きあがりに、本場アメリカ製というこのバーベキューグリルが欲しくなってしまう。

つづいて出来上がったのは、この2品。なすは皮が焦げるまでしっかりと焼き、じゅんわりジューシーな焼きなすに。塩コショーオリーブオイルでシンプルに、そしてキットに入っていたジャパニーズソースとも好相性。
アスパラと舞茸、大ぶりな肉厚のしいたけは塩コショーオリーブオイルを振ってからホイル焼きに。封じ込められたきのこの豊かな香りと旨味、アスパラの瑞々しくもとろりとした魅惑の食感。うん、適当に自作したがこれは呑めと言っている。

鶏と野菜の旨さですっかり上機嫌になり、つづいて焼いたのは那須郡司産の牛ロース。しっかりとした赤身の旨味、乳臭くはないがミルクを感じさせる香りと甘味のおいしい白身。
皿ににじみ出す肉汁に合わせるのは、ホイルに包んでじっくり焼いたじゃがいも。牛の旨さを絡めたほっくりしっとりの味わいに、思わず旨っ!とひとり声を出して笑ってしまった。

焼いて、食べて、飲んで、そしてこの世界観に酔いしれて。そんな至福の時間を過ごしていると、だんだんと強まる夜の気配。ここで活躍するのが、室内に準備されていたランタン。一気に深まる情緒が、こころのより深い部分までをも焦がしてゆく。

鶏に牛ときて、最後に焼いたのは那須郡司豚の肩ロース。しっかりと濃い旨味を感じられる赤身、豚好きにはたまらない甘味の込められたぶりんとした白身。塩コショーで味わうシンプルさが、豚の良さを引きたてる。

グリルの隣、カセットコンロで煮ていたアクアパッツァがいい具合に。カサゴやアサリ、ドライトマトにオリーブが入っていたところに、ズッキーニにピーマン、玉ねぎを追加。穏やかな塩梅ながら、旨味の詰まった上品なスープ。そこに染み出た野菜の甘味を吸った、ほくほくの白身がたまらない。

そんなおいしいアクアパッツァに合わせるのは、自分で作るホットドッグ。切込みの入ったパンに玉ねぎピーマン、ソーセージをはさみ、ホイルに包んでグリルでしばし。仕上げにケチャップとマスタードをかけて頬張れば、かりっとこんがり熱々ジューシーな旨さに自ずと笑みがこぼれてしまう。

いやぁ、喰った喰った大満腹。調子に乗って野菜をとりすぎたかも。そんなパンパンなお腹にもかかわらず、デザートは別腹。スキレットに切ったバナナとチョコ、パンケーキを並べ、マシュマロを載せてグリルへ。しばらく待てば、魅惑のスモアの完成。
前回のグランピングで焼きマシュマロのおいしさに目覚めてしまったが、これもまた想像を越えてくる旨さ。焼けたマシュマロの表面はパリパリで、その下はとろりと溶けてソース状に。
実は好きではない、いや、苦手の部類であったマシュマロ。昔は生で食べるしか知らなかったからな。これは絶対焼いて食べるべきものだ。この旨さを知ることができただけでも、グランピングに手を出して正解だったと思えてくる。

いやぁ、それにしても食べすぎだ。床暖房のきいたテントでごろごろと食後の怠惰を愉しみ、お腹を落ちつけたところでふたたび温泉へ。身体にまとったバーベキューの名残りをしっかりと洗い落とし、とろりとしたここちよい温もりに抱かれます。

あとはもう、酒と世界観に揺蕩う時間。1.5ℓのフロンテラの半分は明日に残し、栃木の地酒を開けることに。今宵選んだのは市貝町の惣誉酒造、惣誉辛口特醸酒。ひと口含めば、とろりと広がる甘酸っぱさ。濃い味わいながらしっかりとした辛さがあり、またあらたな下野の酒の魅力を思い知る。

はぁ、控えめに言って最高だよ。ここちよい酔いに身を任せ、あたたかい床にぺたりと座り見上げるドーム。こんなの知ってしまうと、あとあとやばいことになるに間違いない。前回のトレーラーハウスとはまた違った魅惑の世界観に心酔し、那須での静かな夜はゆったりと更けてゆくのでした。



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