東京から出られない日々を越え、久々に豊かさというものを実感させてくれた秋の岩手路。そんな旅の最後は、『回転寿司清次郎フェザン店』で三陸をはじめとする東北の海の幸で締めくくることに。
まず頼んだのは、三陸産の真鱈白子軍艦。口の中でとろけたかと思えば、同時に広がるまろやかさの波。舌を包むコクある旨味に、あぁやっぱり白子は堪らん!と幸せに浸ってしまう。
そしてこの時期やっぱり食べたい、宮城産の鮮かつお。しっとりとした赤身に詰まった旨味と、適度に載った脂が地酒を誘います。
こちらのお店は駅ビルに位置し、新幹線の時間ギリギリまでお寿司つまみに地酒を楽しめるのが嬉しいところ。ということでハイペースですぐに満腹になってしまってはもったいないので、すじこ巻をつまみにちびりとやることに。
小さい頃から、僕はいくらよりすじこ派。大ぶりな卵がプチっと弾けるいくらもおいしいのですが、すじこの持つ独特な凝縮感が何とも好きなのです。それを巻物にしたら・・・。もう説明不要の最高のつまみです。
お次は閖上産の活赤貝三貫盛りを。肉厚な身はぷりっとした弾力と、嫌みのない磯の香りが堪りません。そしてお気に入りが、赤貝のひも。ほたても北寄もそうですが、何故こうも貝ひもは旨いのでしょうか。貝の一番旨い部分と言っても過言ではないと僕は思っています。
貝愛に火がついた僕は、続いて蝦夷石陰貝を注文。これは前回このお店で初めて食べ、一発で好きになった貝。噛めばコリっとした活貝らしい歯ごたえと共に広がる、三陸を思わせる海の味わい。この小さい身に、強い食感と風味が詰まっています。
続いては、白身の三点盛り。右の活〆すずきは、白身らしい適度な弾力とじんわりとした旨味が感じられる上品な味わい。中央の真鱈昆布〆は、ねっとり、もっちりと凝縮された身の中に宿る滋味深い味わいが堪りません。
そして左は、とろ銀たら。初めてお寿司で食べる食材に、どんな感じだろうと思いつつひと口。すると、じゅわっと一気に広がる脂と旨味。ですが脂っぽさや生臭さはなく、程よい食感もあり言わば白身の大トロといった雰囲気。これ、間違いなく僕の好きなやつ。
どれもおいしい海の幸ばかりで、ついついお皿とお酒が進んでしまう。もうそろそろ満腹に近いので、好物で〆ることに。まずは三陸産の天然本鮪中とろを。僕はまぐろは中とろが一番好き。しっとりとした赤身の強い旨味と、甘い脂のバランスの妙。そのいいとこどりに、思わず笑みが零れます。
もう次の一皿で〆ようと思ったのに、メニューにはない活ほっき貝のひもを発見。これは頼まない訳にはいきません。コリっとした食感に、北寄ならではの甘味溢れる旨さ。やっぱり北国の貝は、旨いなぁ。
そしてこれが本当に最後の一皿。いくら軍艦で締めくくります。先ほどすじこ派とは言ったものの、やっぱりいくらの旨さも捨てがたい。プチプチと一粒ひと粒から溢れる旨味の洪水に、いつまでもこうして溺れていたい。
いやぁ、満足、満足。三陸を中心としたお寿司をたらふく味わい、満腹で眺める夜の盛岡駅。もう少しここに残りたい。いつもならそんなことを思ってしまいがちですが、今夜は満たされた気持ちで帰京できそう。
わんこきょうだい、今回も愉しい岩手の旅をありがとう。2年前、やはり秋の盛岡を訪れたときは、しばしの別れになるとは思わなかった。でもようやく、今回もこうして戻って来ることが叶った。愛する東北と引き裂かれた分、僕の想いは強まるばかりだった。
ずっとずっと、来たかった。来ようと思えば、来ることはできた。でも自分の中でなかなか整理が付けられなかった。そう思わされてしまうほど、自分の故郷かつ現住地が東京であるという事実と対峙することを強いられる日々だった。
4月から、再び現役として公共の足を支えている僕。かつての活況を知っているからこそ、久々に目にした現場の惨状は堪えるものだった。あれほど必要とされ増強を望まれていた輸送力が、一瞬にして無用の長物になってしまうなんて。だからこそ、僕は乗ることで愛する鉄道を応援したい。
夜の盛岡駅を滑り出し、故郷へと向け夜闇を疾走するはやぶさ号。夜行列車が無くなってしまった寂しさはあるけれど、320㎞/hという強い味方があるからこそ働きながらもこうして旅立てる。
あと2時間半もすれば、見慣れた街へ。それまでの間、南部美人の酔いとともに、心地よい旅の余韻に心酔していたい。
4月に大きく環境が変わり負荷のかかる中、旅という心のバランスを保つ大切な儀式すら叶わぬ日々。それでも今の僕は知っている。願えば旅路の日和あり、と。
自分的節目で自然と足が向く大沢温泉から始まり、大地から生まれる恵みそのままの野性的な魅惑の湯へ。その道中、錦に輝く秋色や早くも訪れた銀世界と、四季という豊かな天然色で岩手は僕を染めてくれた。
久々に、色彩を取り戻した僕の芯。やっぱり僕にとっては、旅というものが欠かせない。旅立つということが当たり前だと思ったことは一度もないつもりだけれど、その有り難さや幸せというものを、改めて思い知ることができた。
何度通っても、東北は良い。いつ訪れても、岩手は僕を包んでくれる。よし、明日から、また来るべき「次」を目指して頑張るか。掛け値なしにそう素直に思える気持ちを、岩手の大地はお土産にと持たせてくれたのでした。
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