初の酒田で明治の風に触れ、海辺を離れ内陸へと向かうことに。酒田駅から乗車するのは、陸羽西線を走る快速最上川。ただでさえ列車本数の少ないこの路線、日に1往復だけ運転される快速列車は結構な混雑。運よくロングシートに席を見つけ、新庄までの時間を過ごすことに。
最上川に寄り添い走る陸羽西線に揺られること50分ちょっと、新庄駅に到着。ここで陸羽東線を走る臨時快速、リゾートみのりに乗り換え。伊達政宗の兜や稲穂、紅葉といった沿線のイメージを取り入れた外観は、他のジョイフルトレインと比べても抜群の存在感に溢れています。(写真は降車時撮影)
先程乗車した陸羽西線の愛称は、奥の細道最上川ライン。それに対しこの陸羽東線は、奥の細道湯けむりライン。車窓に寄り添う川は清流として有名な小国川へと変わり、行く手を阻むであろう奥羽山脈を見据えどんどんと標高を上げてゆきます。
河岸段丘上から見下ろしていた川や田んぼとの比高も縮まり、いよいよ列車は奥羽の山懐へ。眼下を流れる小国川には簗場が設けられ、その近くには釣りを楽しむ人々の姿。山形県内で唯一ダムを持たない天然河川であるこの川は、豊かな鮎の漁場として知られています。
深い緑と清流の織り成す夏の車窓を楽しんでいると、まもなく瀬見温泉駅への到着を知らせる車内放送が。目を凝らして見てみると、瀬見の温泉街の中ひときわ目を引く喜至楼の姿が。もうあれから5年かぁ。あの旅も本当に夏だったけど、今辿っている旅路もものすごく夏。東北の夏を一度感じてしまうと、もうそれなしでは生きてはいけない。
毎年ねぷたに誘われ辿る、東北での夏の旅路。その思い出に浸っていると、一層鮮やかさを増す車窓を染める緑。大きくとられた窓は豊かな景色を映し、車内に並ぶ座席には有名な鳴子峡の紅葉が描かれる。まさに陸羽東線を走るために改造されたこの車両。国鉄生まれのキハ48は、いつまでこうして頑張ってくれるのだろうか。
大きな車窓一杯に広がる、夏景色。青々とした田園の先に煙る、黒い山。9年前、この道を一緒に辿ったいとこももうすぐ成人。あの後震災があり、自分の中でも数々の変化が起き。でもこうして毎年東北の夏を浴びることのできる幸せ。この豊かな車窓だけで、何故か不思議と満たされる。
毎年積み重ねてきた東北での夏の記憶を回想しつつ列車に揺られること35分、赤倉温泉駅に到着。4年前のねぷた旅の幕を開けたこの駅も、この旅では最後となる宿泊地。始まりと終わり、その心持ちだけで印象が変わるのだから不思議なもの。今眺める姿には、達成感に交じりちょっとだけの感傷がちらつきます。
事前にお願いすれば駅から送迎して頂けるのですが、4年前と同様に山村の夏を浴びつつ歩いて宿を目指すことに。小国川の支流を渡る橋の欄干には、羽を休めるトンボの姿。僕の夏休みには欠かせない、季節を彩る名脇役。
大きな国道から分かれた県道は、山手を目指し上り坂に。夏の暑さに汗が吹き出しますが、それすら心地よく感じてしまう。東京で感じる暑さ寒さは不快なのに、旅先で味わう季節というものは何故にこうも違うのだろうか。
もしかしたら、変わってしまったのは東京の街だけではなく僕自身なのかもしれない。今なお東京で暮らし働く僕は、いつしか故郷の季節を受け止める心を忘れてしまった。それを思い出したいからこそ、夏に冬にと、季節を極める土地へと旅に出るのかもしれない。
夏の暑さと勾配に汗を掻きつつ歩いていると、これからお世話になる宿の姿が。簗場が設けられるほど川幅のあった小国川も、ここまで来ればこの細さ。日本の背骨に近づいたことが伝わるよう。
奥羽山脈に抱かれる、静かな湯宿で過ごす時間。待ち構えるいで湯との戯れに心躍らせ、歩みは一層速まるのでした。
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