予定より遅れつつも何とか奥羽本線に乗り継ぎ、弘前駅に無事到着。この街を訪れるのは2年半ぶり。10年前に初めて訪れて以来、毎年欠かさず来るようになった僕の大好きな街。前回の訪問を最後に、まさかこれほどまでに間が空いてしまうとは。
久々の街の感触を味わいつつ歩くこと約15分、街の中心地至近に位置する『スマイルホテル弘前』に到着。ねぷた旅では何度もお世話になっている、便利なお宿。
早速チェックインし、お部屋へと向かいます。今回頼んだのは、シングルの禁煙ルーム。嫌な臭いもなく、コンパクトながら快適に過ごせるお部屋です。
荷物を下ろしほっとひと息つきたいところでしたが、到着が1時間ほど遅れたためすぐさま夕飯を食べに出ることに。
ホテルの裏手から外へ出ると、目の前には渋い佇まいをみせる弘南鉄道大鰐線の中央弘前駅。川沿いにはかわいい金魚ねぷたが並び、その奥には小さなホームにぼんやりと灯るこけしの灯篭。ゴトゴトとゆっくり入線してくる列車も相まって、どこか違う世界へと誘われるかのような不思議な情緒を漂わせます。
あぁ、弘前はやっぱり弘前だ。八重山と同じく、降り立った瞬間なぜだかすっと馴染んでしまう独特の感覚がある。縁もゆかりもない僕が勝手に思い込んでいるだけなのですが、この感覚は何度味わっても不思議なもの。
2年半ぶりにやっと来ることのできた嬉しさを噛みしめつつ、今宵の宴の舞台である『ろばた焼けん太』に到着。以前好きで毎年訪れていたけん太居酒屋の系列店のようで、入るのは今回が初めて。
まずは冷たいビールで旅の疲れを癒しつつ、お通しをつまみます。なすの味噌煮は程よい甘辛さに味付けされ、夏の東北らしいほっとする旨さ。青森名産のもずくは細くしゃきっとした食感がおいしく、心地よい酸味が一気に食欲を刺激します。
まず注文したのは、海の幸2品。ねぷた旅へと来たら、必ず食べたいホヤ。色々な食べ方を選べましたが、今回はさっぱりと酢の物で。鮮度が良いので臭みがなく、程よい歯ごたえを感じるホヤ。三杯酢の酸味や塩味の後から続く、独特のちょっとした渋みが地酒を誘います。
そのお隣は、深浦産の塩水うに。ひと粒ひと粒しっかりと粒だった、輪郭のはっきりとしたうに。ここしばらくうにの季節には東京から出られなかったので、こんな輝きを目にしたのは一体どれくらいぶりだろう。
そのひとつを、木匙で掬ってつるんと口内へ。新鮮な身はしっかりとしており、勝手に溶けてゆくようなことはありません。文字通り噛みしめるように味わえば、途端に広がる旨味と甘味、磯の香りの洪水。鮮度が大事なものは、東京ではその本当のおいしさをなかなか味わうことはできません。
続いて頼んだのは、ミズの天ぷら。僕の大好物のミズですが、こうして食べるのは初めての経験。どんな感じだろう?と食べてみると、これまた期待を裏切らないバッチリのおいしさ。
山菜でありながら、アクやクセのないミズ。高温で揚げられていてもしゃきっとした食感は失われず、魅力でもあるあの独特なぬめりも健在。一緒に加えられた塩昆布がまた、いい味を出しています。ミズよ、お前はどんな食べ方をしても旨いんだな!
前回訪れたときは着いた日に青荷温泉へと向かったため、こうして弘前の街で飲むのは3年ぶりのこと。久々に味わう津軽の味にエンジンがかかってしまい、地酒がもう進んで仕方ない。そんなお供にと、続いてババガレイの煮付けを注文。
運ばれてきたのは、身の厚い照りのある旨そうな煮付け。煮汁は見た目ほどしょっぱくなく、甘みもくどくない程度の丁度良さ。ほっくりとした身に煮汁を絡め白髪ねぎとともに頬張れば、津軽の酒が欲しくならないわけがない。
3年ぶりの、夏の津軽。待ち焦がれていた瞬間を迎え、僕の興奮も絶好調。その燃料となる地酒をたっぷりと愉しみ、あっという間にもうねぷた出陣の時間直前。〆にと選んだのは、浜の漁師の拘りおじや。土鍋でぐつぐつ、おいしそうに煮えています。
熱々のところを、やけどをしないように気をつけつつレンゲでひと口。鱈が入っているため、全体的には魚の旨味の染みでた優しい塩味。上にはとろろや梅干し、おかず味噌が載せられており、それらを崩しつつ食べ進むと味の変化を楽しめます。
久々となる弘前との再会、そこで味わう旨い料理に旨い酒。その昂りを、穏やかに落ち着かせてくれる優しいおじや。やっぱり津軽は、いいよなぁ。首を長く長くして待ち望んできたこの日を迎え、灯りの洪水を浴びる前から僕の心には大きな炎が灯るのでした。
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