吾妻山麓、高湯で迎える2度目の朝。今日も6時前に目が覚めたので、そのまま起きてしまうことに。まだ明けきらぬ夜の余韻を残す空。純白の雪はその青さに染められ、幻想的な雰囲気に包まれています。
さっそく朝の爽やかな空気の中で雪見露天を楽しみ、湯上がりの火照りに包まれつつぼんやり、のんびりと贅沢な時の流れを愉しみます。そしてお待ちかねの朝食の時間に。食卓には昨日とは打って変わってこれぞ和朝食、という品々が並んでいます。
焼鮭におひたし、ふきとさつま揚げの煮物や納豆、海苔など。それぞれがほっとするような美味しさで、朝風呂と朝飯のコンボに日本人に生まれてよかったとしみじみ思います。
朝食をお腹一杯味わい、お腹が落ち着いたところで最後の高湯の恵みを。滞在中何度も通ったこの道ももう見納め。
清らかな白さと緩やかな曲線に彩られる、うずたかく積もった雪。こんな景色が見たいというこの旅の動機を充分過ぎるほど満たしてくれる、冬の雪国ならではの文字通りの絶景。
これとお別れかと思うと、とても寂しい。連泊のいいところは、のんびりできて十分に楽しめるところ。でも、連泊したがゆえのこの離れがたさは、如何ともし難いもの。
高湯の源泉をたっぷりと湛える広い湯船。青白い湯からは湯けむりが空へと立ちのぼり、その姿はゆらゆらと、おいでおいでと誘うかのよう。
冷えた体をお湯へと浸せば、あぁぁ、と心からのうれしいため息が溢れてくる。硫黄の香りが鼻をくすぐるお湯には細かい湯の花がたっぷりと溶け込み、それらが全身を包んでくれるこの感覚。
何度入っても、いいお湯といい景色は飽きることがない。シルキーなお湯に抱かれつつ眺める雪景色も、これで最後。絶対に、また絶対にここに来よう。その思いを胸に、最後の一浴を味わいます。
旅館玉子湯に来て、僕が感じたこと。それは「丁度良い」=「心地良い」ということ。
玉子湯という名前から、もっと硫黄臭く、もっとどろっとしたにごり湯を想像していました。なので一番最初にこのお湯と対面したときは、あぁそれほど濃そうではないなと感じました。
でも濃さだけが、温泉の良さをはかるものさしではない。そんな当たり前のことを僕に教えてくれました。丁度良い温度、丁度良い酸性、丁度良い温まり方。本当に心地良い温泉だった。
そして旅を続けていると、より遠くへ、より山深いところへと思考がいきがち。でもここは東京から2時間半で着ける場所。こんな近くにこんないいところがあったなんて。遠からず近すぎずの距離感も、丁度良い。
さらに旅館も丁度良い。秘湯が好きになってくると、どうしても木造の旅館へと足が向いてしまう。なのでここ旅館玉子湯の近代的な建物に、秘湯感が薄れてしまうのでは、という心配を密かに抱いていました。
でも蓋を開ければ、そんなことは杞憂に終わった。旅先での楽しみは、どんな建物に泊まるかではなく、どんな時間を過ごさせてくれるかが重要。本当にこんな当たり前のことも忘れかけていたなんて。つくづく自分に呆れてしまう。
もっと遠くへ、もっと秘湯へ、もっと古い旅館へ。ここ最近の僕は、自分が一番嫌う「手段が目的になってしまう」傾向があったのかもしれない。そんな僕にブレーキを掛けてくれた旅館玉子湯は、丁度良い=心地良い宿だった。
絶対にまた来よう。冬という季節の最上の過ごし方を味わわせてくれた玉子湯に再訪を誓い、この地を離れます。
宿の送迎バスに揺られ、再び福島駅に到着。新幹線の改札内コンコースには、わらじまつりに使われる大わらじが飾られています。天井まで届くその大きさ。実際目にするとその迫力は想像以上のもの。
福島駅からは山形新幹線に乗車。子供の頃から慣れ親しんだ銀と緑の配色から塗装が変わり初めての乗車。独特な表情になったE3系はなかなかのインパクト。側面はかっこいいんだけど、前面はなぜこの塗り分けなんだろうか。慣れるまでは時間が掛かりそう。
やっぱりつばさはシルバーに緑なんだよなぁ。子供心に衝撃を受けた、新時代の新幹線、新しい姿。400系つばさのデビューは、斬新で鮮烈で強烈だった。
そんな回想に耽っていると、つばさはいつしか標高を上げ福島盆地を見下ろすように。山形新幹線とは愛称で、実際は山形線、奥羽本線の特急列車。急勾配急カーブの在来線をえっちらおっちら登る様子は、時速275km/hで駆けているときと同じ車両とは思えません。
よくこんな山深いところに鉄道を通したものだ。そう思うほど連続する急勾配、急カーブ、そしてトンネルの数々。明治時代から続く鉄道の難所をつばさは駆け抜け、日本の背骨を越えてついに山形県へ。
向かうは米沢、初めての街。まだ見ぬ景色とお湯に思いを馳せ、一層深さを増した積雪とその眩さに目を細めるのでした。
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