福島駅から2両編成の電車にコトコト揺られること約25分、この旅最後の目的地である飯坂温泉駅に到着。温泉街の雰囲気に合うように改築された和風の駅舎が出迎えてくれます。
飯坂の湯を味わう前に、まずは飯坂の味を楽しむことに。ここ飯坂温泉は円盤餃子と飯坂ラーメンが名物らしく、そうとなれば麺好きとしては食べない手はありません。ということで今回は駅のすぐ近くにある『麺飯酒家万来』にお邪魔してみることに。
まずはビールセットでグイッと一杯。ビールにキムチ、飯坂温泉名物のラジウム玉子、そして餃子5個がセットになっています。キムチは本格的でとても美味しく、それだけで瓶ビールが進みます。
そして写真を撮り忘れましたが、びっくりしたのが飯坂のラジウム玉子。ただの温泉玉子だろうと思って食べてみると、白身は嫌な水っぽさはなく、黄味は固すぎずゆるすぎずの凝縮感。普通のものとは一線を画す濃厚な食感と味わいに、更にビールが進んでしまいます。
美味しいつまみ相手にビールを楽しんでいると、お待ちかねの餃子と万来めんが。餃子が名物というだけあり、こんがり焼かれた皮はとても香ばしくパリッとした食感。餡も野菜がたっぷりと入っており、いくつも食べたくなる優しい美味しさ。
万来めんは醤油と塩を選べ、今回は醤油を注文。たっぷりの野菜とえび、豚の入った広東麺風のラーメンですが、醤油がそれほど強くなく穏やかな味わい。あんには野菜の甘味、旨味がたっぷりと溶けだし、それがスープへと広がって優しい美味しさが全体を包みます。
麺は飯坂の製麺所が作っているそうで、細く滑らかな食感が特徴的。コシが強すぎず適度にしなやかなため、あんかけスープとの相性もバッチリ。広東麺とは似て非なるもの、全体的にホッとするような穏やかさを感じる美味しさです。
麺も具もボリュームたっぷりの万来めんでお腹一杯になり、腹ごなしの飯坂温泉散策を。ここ飯坂の街は旅館がずらりと並ぶ温泉街というよりは、民家やお店に宿が入り混じる街並み。
建物が密集する味わい深い街並みを歩いていると、白漆喰になまこ壁が美しい立派な建物が。どうやら温泉宿のようで、壁には登録有形文化財のプレートがかかっていました。こんな宿で一泊、いいだろうなぁ。
味わい深い蔵造りの向かいには、飯坂温泉発祥の地とされる鯖湖神社が。周囲を味わい深い木造建築に囲まれ、ここが古くから温泉場として栄えてきた歴史を感じるよう。
そしてすぐ隣の共同浴場鯖湖湯で、待望の飯坂の湯を味わうことに。ここ鯖湖湯は飯坂温泉で一番古い浴場だそうで、松尾芭蕉も入浴したとのこと。現在の建物は平成5年に改築されたものですが、すでに木が味わいを帯びそれ以上の風格をまとっています。
中に入ると番台横に券売機が。入浴券は次の浴場で使うため、ここで200円のチケットを買い下駄箱へ靴を置いて中へと進みます。内部は鍵付きロッカーや籠が並ぶ脱衣所と浴室が一体となった、これぞ共同浴場といった造り。
浴槽は御影石でできており、そこへ飯坂の熱いお湯が掛け流されています。そう、飯坂のお湯は熱いのです、本当に。温度計は47℃をさしており、お湯から上がった人々の肌にはくっきりと赤いラインが。
これ、入浴券は買ったけど雰囲気だけ味わうパターンかなぁ。半ばあきらめつつ意を決して足先からゆっくりと入湯。うぉ、熱い熱い!でもあれ?意外と入れるかも。
時間をかけて、ゆっくりゆっくり体を沈めます。うん、これは平気。ビリビリとした熱さではなく、慣れれば大丈夫な熱さ。温泉とは不思議なもので、同じ温度でも入れるものと入れないものがあるのです。
熱い、とにかく熱い、でも心地良い。これが飯坂名物熱い湯か。高い天井を支える立派な柱や梁に窓から射し込む午後の光、御影石の滑らかな肌触り。そんな新しいながらも古きよき共同浴場の風情を熱さと共に味わっていると、地元のおじちゃんたちのこんな会話が。
この温度計壊れてるよ。47℃は無いよ。飯坂じゃここが一番ぬるいんだもんな。え?嘘でしょ?ここが一番ぬるいだなんて、飯坂温泉恐ろしすぎる・・・。熱い湯が苦手な僕には湯めぐりは難しそうです。
熱い鯖湖湯を堪能し、湯上がりの火照りを感じつつ再び飯坂散歩へ。鯖湖湯のすぐ近くにある旧堀切邸へと入ってみることに。
こちらは江戸時代から続く豪農・豪商であった堀切家の建物を復元したものだそうで、園内は広く蔵や建物が点在しています。それでも明治時代の敷地の半分とのこと。いかに大きなお屋敷であったかがうかがえます。
中へと入ると広い座敷がいくつも並びます。中にはこんな美しい曲線を描く見事な天井も。この建物が贅を尽くして造られたことが感じられます。
天井も普通の日本家屋より高く、重厚ながら開放感のある雰囲気。目の細かい障子の上には見事な彫刻が施され、大工の手仕事による昔ながらの木造家屋の良さが随所にちりばめられています。
日本家屋ならではの贅沢を味わい、続いて外に並ぶ3つの蔵へ。それぞれ中に入れるようになっており、小道具や堀切家に関する資料が数多く展示されています。
中にはこんな歴史を感じさせる立派な金庫が。金庫を単なる重たい箱としない、当時の美意識を感じさせる重厚なデザイン。いつから日本はこの素晴らしい感覚を手放してしまったのでしょうか。
この金庫は大日本東京三木製造という会社が作ったもののようで、金具にはにこやかな大黒様が描かれています。こんな立派な金庫に納めるべきものがある、そりゃ大黒様も笑顔になりますよ。
こちらの金具には、金庫火災保険附の刻印とそろばんをはじく恵比寿様が。中途半端なお金持ちには羨む気持ちも芽生えますが、このお屋敷にこの金庫、ここまで来ると清々しい気持ちにすらなります。お金持ち、凄いなぁ。
憧れの日本家屋に住む夢は来世に託すことにして、主屋を出て園内を歩きます。主屋の近くには立派な土蔵が。十間蔵と名付けられたこの蔵は、福島県内最古の土蔵だそう。渋い土壁に白い雪の対比が一層味わいを深くします。
旧堀切邸で豪農豪商の力を存分に感じ、再び飯坂温泉の街へ。民家と旅館の並ぶ街並みには、こんな味わい深い木造の酒屋さんも。軒下に掲げられた渋い大看板やショーケースが目をひきます。
ぐるりと飯坂の街をひと回りし、駅前へと戻りこの旅最後の一浴を。この波来湯は入浴料が300円のため、ここで電車のチケットに付いてきた入浴券を使います。
この日は日曜、駅前という立地もあり中は大混雑。波来湯自体の歴史は古いそうですが、建物は2011年にできたもの。先ほどの鯖湖湯とは違い脱衣所も浴室も近代的な造りとなっています。
浴室は石造りで、ぬるめと熱め、ふたつの浴槽が並びます。まずはぬるめのほうへ。飯坂温泉は無色透明、アルカリ性の単純温泉のためさっぱりとした浴感。肌にさらりと馴染みます。
続いて熱めの浴槽へ。温度計は46℃を表示していたため、鯖湖湯よりもぬるいから平気だろうと完全に油断していました。ところがどっこい、これが入れないタイプの熱さ。ビリビリきてしまい、足先だけで断念しました。
いやぁ本当に面白い。同じ飯坂で、見た目も同じような無色透明のさらりとしたお湯。泉質もアルカリ性単純泉と変わりはないのに、この違いはどこから来るのでしょうか。鯖湖湯のおじちゃんが言っていた通り、温度計壊れてるのかな?と思うほど。
高湯、小野川、白布と巡ってきた旅も、ここ飯坂で締めくくり。仕上げにふさわしい小ざっぱりとした熱い湯を楽しみ、この地を離れることにします。
最後に波来湯の目の前にある十綱橋の眺めを。大正時代竣工の鋼鉄アーチ橋は、飯坂温泉のシンボルとして今なおたくさんの往来を支えています。
早くも弱まり始めた太陽にこの旅の終わりを感じつつ、駅へと向かいます。今回利用したのは飯坂電車のフリーきっぷ。福島へと戻る前に、もう1ヵ所だけ寄り道します。
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