11月下旬。ひょんなことからお休みを取れることになり、諦めかけていた秋の旅に出かけられることに。
いつも秋旅といえば紅葉を期待して10月に行くのですが、今回は晩秋、冬の一歩手前という時期。ある意味、中途半端とも言える季節。
でもそれが良かった。この旅で僕は、秋の終わりと冬の始まり、そのふたつを一度に楽しめた。紅葉が秋のメインだとすれば、僕が今回眼にした景色は間違いなくメインではない。
しかしそこには、日本の四季の移り変わりの美しさ、儚さ、そして心に訴えかける何かがあった。東京では感じられない、秋から冬へのバトンタッチ。今回は、そんな季節のグラデーションを漂う旅へと出かけます。
今回は時間の都合上、大宮駅から新幹線に乗車。乗車時間も短いし、Maxは席数も多いからと、珍しく自由席に乗車することに。
すると車内は7割方席が埋まり、辛うじて通路側が空いている程度。平日のお昼過ぎだし空いているだろうと思っていたので、正直びっくり。
でも僕はちょっと嬉しい気分に。北陸新幹線の開通により上越新幹線の今後を心配する声をちらほら聞きましたが、実際に乗車し賑わう車内を見ると、何となくほっと安心してしまいました。やっぱり鉄道は、活気がなきゃね。
ということで、今回は車窓の写真は無くいきなり目的地に到着。新潟の入口である越後湯沢駅は、大宮からだと1時間を切る近さ。それなのに季節は一歩先を進んでいる。駅前の紅葉した木々を縄で囲う光景に、そのことを強く実感させられます。
越後湯沢は本当に東京から近いのに、旅に来た感を味わえる場所。スキー以外で来たのは去年の冬以来2度目ですが、そういえば雪のない越後湯沢自体、初めてのこと。もうすぐ訪れる銀世界の気配を感じさせる風に、駅の中へと戻ります。
ひやっとした風に吹かれて冷えた体を温めるため、駅ビルの中の極楽へと向かうことに。そう、極楽とはもちろん『ぽん酒館』♪入り口横に並べられた地酒のラベルは、何度見ても圧巻の姿。あぁ、見ているだけで気持ち良くなりそう・・・。
数々の銘柄に圧倒されつつ入口を入ると、すぐ右手に潰れたオヤジたちがお出迎え。それこそが、酒のみの楽園、『利き酒越乃室』。
このオヤジたちの気持ち、思いっきり分かる!というより、気がつけばあと20年もしたら、僕もこんな風になってしまうのだろうか。自分のことを棚に上げて人をオヤジ呼ばわり。自覚のないオジサンは嫌ですね。はいすみません。
中へと入れば、そうそうこれこれ!!と否応なしにテンションが上がってしまう圧巻の眺め。延々と並ぶ地酒自販機には、新潟県内の酒蔵が全部詰まっています。
入場料は500円。コインを5枚渡され、好みのものを試飲できます。ものによっては2枚、3枚と必要ですが、基本的には小さいおちょこ一杯分でコイン1枚、つまり100円相当。もうお得感満載♪
90以上ある県内の酒蔵の酒を集めたというだけあり、ラベルを見るだけでもひと苦労。そんな中で好みのお酒を探す手がかりになるのが、地域と造りの表記。
圧倒されるほど並ぶ自販機ですが、上越、佐渡、魚沼など、地域ごとに整理されて並んでいます。そして銘柄ひとつひとつに、吟醸や特別純米などのお酒の造りや、味の特長なども丁寧に書かれています。それらを自分の好みに照らし合わせながら選んでいくとお酒選びがはかどります。
でもこれだけ種類があれば、悩むのも楽しみのひとつ。時間が許せば思いっきり悩み、そしてせっかくなのでいつもなら飲まないようなタイプのお酒を試してみるのもいいでしょう。後の行程がなければ、コイン5枚では絶対に足りません。それほど違うお酒の個性。やっぱりここ、楽しすぎる♪
小さいおちょこで越後の酒をちびちびと味わいつつ、次のお酒を吟味する。それ自体ものすごく楽しいのですが、ここにはもうひとつ、呑兵衛のツボを心得すぎている一角が。
以前にもご紹介した、この塩コーナー。利き酒利用者なら無料で味わうことができ、隣には越後の味噌もスタンバイ。別売りで冷えたきゅうりもあるので、もうここだけでできあがる自信があります。
思い切り飲んでしまいたい。そんな欲求を振り切り、おちょこ5杯で試飲は終了。世間一般の適量って、きっとこういうことを言うのでしょう。体の中心からほんのり温まった感覚が、とても気持ちいい。やっぱり僕は、いつも飲み過ぎなんだ。
ほろ酔い気分で駅の外へと出ると、火照った頬を撫でる風。その冷たさが心地良く、ここがもう冬へと向かいつつある地であることを感じさせます。
そしてそれを一層強くするのが、遠くに見える山並み。この日の前日、11月の東京に積雪をもたらした雪雲は、ここでもしっかり冬化粧をして去っていったのでしょう。上越国境の険しい山並みは、すでに冬の姿になりつつあります。
行く秋と来る冬の世界に浸っていると、今宵の宿へと僕を運ぶバスが到着。越後湯沢駅前より『南越後観光バス』の浅貝・西武クリスタル行きに乗車します。
バスは三国峠を目指す国道を走り、湯沢の町を抜けると急勾配で山へと挑み始めます。
標高が上がるにつれて変化する車窓。眼下には、上越線の鉄路と刈り終えた晩秋の田んぼ、そして雪化粧をした国境の険しい山が見え隠れ。
この瞬間、僕の心は秋から冬に。なかなか旅する機会のなかった、晩秋と初冬のはざま。自分では選ばないこの季節のこの光景を目にし、新たな季節の良さを知る。これから出会う季節のグラデーションに心躍らせ、バスと共にに僕の気持ちは一気に駆け登るのでした。
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