晩秋の寒さにはかなわず、早い時間ながら今宵の宿である『ホテル丸松』(HP音が流れます)に到着。ロビーでチェックインの時刻まで待たせて頂こうと思ったら、ご厚意で早めにチェックインさせて頂けました。
通されたのは日当たりの良い広い和室。午後の陽射しがたっぷりと降り注ぎ、寒いこの時期にはありがたい暖かさ。
早速浴衣に着替え、お待ちかねのお風呂へ。僕が今回咲花温泉に宿泊を決めたのは、このお湯に入ってみたかったから。
浴室のドアを開けるとたちまち感じる硫黄の香り。掛け湯をしていざ入ってみると、驚くのはその浴感と特徴的な色。
泉質は弱アルカリ性の単純硫黄物泉。入った瞬間に感じるとろみと、肌をすべすべにさせる滑らかなぬるぬる感。美肌の湯と言われる温泉はいくつか入りましたが、このぬるぬるすべすべ感はかなりのもの。
そしてやはり咲花温泉の特徴といえば、独特なその色。日によって色が変わることもあるようですが、この日はエメラルドグリーンに抹茶を混ぜたような、しっかりと目で分かる緑色。
湯船に体を浸せば、その色も一層際立ちます。まるで自分がシュレックにでもなってしまったかのような緑色に、思わず笑ってしまいます。
源泉掛け流し、色も香りも浴感も存在感抜群の咲花の湯を楽しみ部屋で一服。前泊の貝掛温泉でもらったワンカップで一息つきます。
貝掛温泉では、新酒の時期に鶴齢の本醸造でこの特製ワンカップを造ってもらうそうで、いい時期に訪れました。すっきりとした鶴齢、やっぱり美味しいなぁ。
本とワンカップと温泉と、のんびりとした時間を過ごしお待ちかねの夕食の時間に。囲炉裏テーブルと掘りごたつの個室でいただきます。
まずは前菜。海老やいんげんなど、4種の味を少しずつ楽しめます。特に驚いたのが左のいくら。一見普通の醤油漬けのようにも見えるのですが、何やら色がいつもと違う。
なんだろう?と思いつつひと粒食べてみると、これまでに体験したことのないもっちりとした食感。え?なに?何これ?と、もう頭の中ははてなだらけ。
お料理を運んで来てくれた宿の方に聞いてみたのですが、「今年獲れた新物のいくらですけど?」と逆に不思議そうな顔をされてしまいました。
不思議に思いつつ、その美味しさに二粒三粒と食べ進むうちに、自分の中であ!と繋がる瞬間が。あぁ、これがととまめなんだ、と。
だいぶ前、テレビで見たととまめ。火が少し通り白濁したいくらを見て、僕は絶対ありえない!生臭そう!と思ったことを思い出しました。
ですがいざこうして食べてみると旨いのなんの。いくらの嫌な生臭みはすっかり消され、魚卵の持つ旨味が程よく凝縮。そしてやっぱり、そのもっちりとした食感がたまらない。
宿の方にはきっと、いくらも分からないなんて変な奴だなぁと思われたでしょう(笑)でもこれが当たり前だと思うほど、地元ではこの食べ方が浸透しているのかもしれません。僕も生よりこっち派。イメージとのギャップにすっかりやられてしまいました。
こちらはぶりの照り焼きと酢の物。ほどよく甘辛い味付けとぶりの脂を、菊やもずくの酢の物がさっぱりとさせてくれます。
地酒片手にお料理を楽しんでいると、遠くで響く汽笛の音。この日は土曜日、SLばんえつ物語が運転されていました。新潟までもうひと踏ん張り。心の中で思わずC57にエールを送ってしまいます。
続いて運ばれてきたのは焼鮭。焼きたて熱々で香ばしく、分厚い身はふっくらジューシー。そうだ、新潟は酒も鮭も美味しいところだったんだ。
コンロでぐつぐつ煮えているのは海鮮鍋。かにやあんきも、かすべに団子など、たくさんの海の幸から出た旨味が詰まっています。味付けも塩ベースで丁度いい塩梅。
こちらも卓上で焼かれた牛の陶板焼き。脂と赤身のバランスが良いバラ肉を、野菜と一緒にぽん酢でいただきます。
焼き魚からお肉、お鍋と結構なボリュームのある夕食。そうだ、でもここはお刺身は無いのかな?と思っていたところ、こんなにたっぷりの盛り合わせが運ばれてきました。
まぐろにぶり、たいにえんがわなど、それぞれ新鮮で脂の載りもバッチリ。食事も進んだところでこの刺し盛りに驚いてしまいました。この後の温泉がなければ、間違いなくお酒をおかわりしているところです。
さらにびっくりしたのが、このあんころもち。もうここまでかなりお腹一杯だったので食べられるかな?と思いました。でもそこは米どころ新潟。もっちもちののびるお餅と甘さ控えめのあんこは相性ピッタリ。
そして〆はかに釜めし。もうお腹一杯!!ムリかも!と思いましたが、ふっくら炊かれた薄味のごはんとおこげが美味しく、何とか平らげました。
味も種類もボリュームも満足な夕食を楽しみ、苦しいお腹を抱えて部屋へと戻ります。布団でごろごろし何とかお腹を落ち着けたところで、いつもの本とお酒とお湯の時間。まずは吉乃川米だけの酒ワンカップから。お米の味を感じつつ重たさを感じない、美味しいお酒。
つづいては越後鶴亀純米吟醸。といっても普通のお酒ではなく、ワイン酵母で仕込んだもの。湯のみに注ぐと、すでに感じる華やかな香り。味わいも甘酸っぱく、それでいて日本酒のアルコールっぽい後味はなくすっと消えていく。
これは独特で美味しい。日本酒が苦手な方でも、これならきっと飲めるのではないでしょうか。そしてもちろん、日本酒好きも納得の旨さ。
本を片手に、新潟の旨い酒をちびちびと。気が向いたところでお風呂へと足を運べば、そこには鼻をくすぐる硫黄の香りと、独特な色彩を持つお湯が待っている。
大浴場は時間により男女入れ替え制。夜は露天風呂付きの正鬼の湯が男湯になっています。
夜の冷たい空気の中、肌に感じるお湯の温もりとぬるすべの感触。風が静かに木の葉を揺らす音を聞いていると、踏切の音が鳴り出す。しばらく待てば、近付くディーゼルの響きと車輪のリズム。新潟で過ごす素朴な夜に、体だけではなく心まで温まるのでした。
コメント