奥湯沢、静かな一軒宿で迎える朝。最近では旅先での早起きがすっかり定着し、5時過ぎにはすっきりと目覚めました。
そして向かうは、もちろん朝風呂。ぴりりと締まった朝の空気の中味わう露天風呂。この朝風呂こそが温泉旅の醍醐味。泊まった者だけに許される贅沢。
適温に保たれた露天に浸かりつつ眺める、朝の空の移りかわり。谷底に位置する貝掛温泉まで朝日が差し込むのはまだ先らしく、ほんのりとした青空の予感が色彩の変化となり、刻一刻とその姿を変えてゆきます。
早起きは三文の徳。のんびり二度ほど朝風呂を楽しみ、ようやく朝食の時間に。寝ぼけ眼で食べるより、更に美味しく朝食を食べられる。やっぱり早起きしてみるものです。
食堂へ向かうと、テーブルにはたくさんの美味しそうなおかずたち。のどぐろの干物はさっと炙られ、香ばしジューシーな美味しさ。車麩の煮物もしみじみとした旨さで、ひじきと豆の入ったおからもだしがきいた優しい美味しさ。
そんな美味しいおかずを一層美味しくしてくれるのが、南魚沼塩沢産のこしひかり。やっぱり違う。
おかずに負けることなく、自己主張があり、それでいておかずとのバランスを邪魔しない。存在感のあるお米が好きな僕にとって、ひとつの理想形の美味しいお米。具だくさんのお味噌汁と共に頬張れば、日本に生まれたことを幸せに思わざるを得ません。
いい湯、いい味、いい雰囲気。東京から2時間半足らずでお部屋まで着いてしまう手軽さですが、ここの秘湯感、一軒宿感はものすごい。もうすっかり貝掛温泉に心酔してしまいました。
1年半ぶり2度目の貝掛温泉。次はやっぱり連泊だな。そんな贅沢な野望を胸に、この地を去ります。帰りも歩いてバス停を目指すことに。快晴の空に映える、うっすらと雪化粧をまとった木々。胸のすくような眺めとは、このようなことを言うのでしょう。
貝掛温泉と現世を隔てる役目を担う、清津川。僕は何故かそんな気がしてならない。行きはここを渡るとグッと湯宿の風情に包まれ、帰りはここを渡ると、もう貝掛の魔法は解けてしまう。何だかそんな気がするのです。
その秘湯と現世を繋ぐ貝掛橋から望む、朝の清津川。朝日に照らされ渾身の輝きを魅せる流れとは対照的に、河原や山はもう冬支度の寂しさ。それはこの地を離れる僕の心を映しているかのよう。やっぱり、また来よう。
急勾配の貝掛坂を登りきり、もう国道まではあと少し。車の音も聞こえています。そんなところで見つけた、この光景。雪とすすきを煌めかせる朝日。この時期だからこそ見られる、季節のグラデーション。秋から冬へのバトンタッチの瞬間を見ることができました。
貝掛温泉バス停から『南越後観光バス』で越後湯沢駅へと向かい、上越新幹線へと乗り継ぎます。刈り終えた田んぼと冠雪した越後の山並みが広がり、車窓を鮮やかに彩ります。あの山の懐には、だいぶ前に訪れた『栃尾又温泉』が。あそこも本当に良かった。また行かねば。
6年半前の記憶を呼び起こしているうちに、あっという間に新幹線は長岡駅に到着。ここもその旅で訪れて以来、6年半ぶりの再訪です。
長岡といえばやっぱり思い出すのは花火大会。駅前にはこんな大きな打揚筒が。大正15年に造られて以来、平成12年まで70年以上も現役で使われたというこの打揚筒。その古さもさることながら、この大きな筒を使って揚げられる三尺玉の大きさに驚き。いつかは長岡花火も訪れてみなければなりません。
長岡花火の華やかな姿を思い浮かべたところで、今度は長岡の味を楽しむことに。前回も訪れた『長岡小嶋屋CoCoLo長岡店』で新潟名物を味わいます。
旨い新潟の酒をちびちびとやりながら待つことしばし、お待ちかねのへぎそばが運ばれてきました。見るからに艶々としたそのしなやかな姿に、食べる前からすでに美味しそう。
箸でつまんでみると、その手ごたえからも食感が伝わってくるかのよう。つゆをつけて一気にすすれば、心地良い歯ごたえと喉越し、そしてほんのりとした風味。
つなぎにふのりを使っている越後のへぎそばは、他のそばとは一線を画す食感と風味が身上。この旨さを味わってしまうと、麺好きとしてはへぎそば中毒になってしまうのです。唯一無二、新潟ならではの味にもう大満足。
旨いそばを一気に手繰り幸せ感に包まれたところで、次の目的地を目指します。長岡駅からは、特急しらゆき号に乗車。特急に乗るような距離でも無かったのですが、時間が丁度良かったのと、『乗継割引』という制度により半額で乗れるので利用しました。この制度を使うには、新幹線と特急の特急券を同時にセットで買うことをお忘れなく。知っていないと損な、お得な制度です。
しらゆき号は信越本線を快走。車窓に広がる枯れゆく田んぼと紅葉の名残を感じさせる低い山並み。そこから差し込む昼下がりの温かい陽射しに、思わずうとうとしてしまいます。
次なる目的地は新津。古くから鉄道の街として栄えた歴史を感じるために、途中下車をします。
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