8泊の滞在中、4日も通った竹富島。あまりにもこの島で過ごす時間になじみすぎて、明日はもうここへ来ることができないという現実が俄かに信じがたい。一年に一度の、僕にとって大切な八重山での夏休み。今年もかけがえのないあおさを、本当にありがとう。
寂しくない。そう言えば、嘘になる。でも今年の別れは、これまでとはちょっとばかり違う気がする。それは8泊も愛する地に滞在できたという時間的余裕だけでなく、心揺さぶる幾多もの感動に出逢えたから。
港を離れ、一気に加速を始める『八重山観光フェリー』あやぱに。高鳴るエンジン音に比例するかのように、どんどんと遠ざかりゆく地上の楽園。今年も本当に、お世話になりました。また来年、必ず戻ってきます。
この旅最後の碧い船窓を噛みしめ、ホテルミヤヒラで預けた荷物を受け取りバスターミナルへ。滞在中、何度も乗った空港線。この街に別れを告げる決心をし、スカイとマリン、二色のブルーに彩られた『東運輸』のバスに乗り込みます。
竹富のみならず、小浜や黒島といった初めてのあおさへの玄関口となった離島ターミナル。今年もありがとうございました。たくさん、たくさん、良い夢を見させてもらいました。
もう何度通ったか分からないほど歩いた、730交差点。夕暮れどきにほろ酔いでぶらついたこの街に、空港行きのバスから別れを告げるこの寂しさ。でも大丈夫、次があることを確信しているから。また逢える、その日まで。来年絶対、戻ってきます。
真栄里、大浜、宮良、白保。次々と集落を走り抜け、人家がまばらになったらもうすぐ終点の合図。南国らしい街路樹に、風になびくさとうきび畑。車窓を流れる豊かな緑に、今日までの日々の記憶を重ねてみる。
ぱいーぐる君、今年も本当に良い時間をありがとう。抱えきれぬほどの南国の熱量と、零れんばかりのあおさをもらえたよ。これを糧にして、また一年頑張ろう。
あまりに長すぎた、今年の八重山旅。たった35分の道のりでは、なかなか気持ちの整理が付けきれぬ。でも確実に近づく、その瞬間。愛する八重山の出口である南ぬ島石垣空港に、ついに到着してしまった。
シーサー君、今年もあり得ないくらいに愉しかった。すっと馴染むような時間もあれば、また新たな八重山の表情にも出逢え。なんだか今年の夏は、分厚かったな・・・。そしてまた、来年ここで逢いましょう。
もう間もなく訪れる、八重山との別れ。その前にもう一度この空気を全身で受け止めるべく、青空と碧い海を望む展望デッキへ。
全身を撫でる島の風を浴びつつ、しみじみ眺める360°。今日は雲が多いながらも、於茂登岳が頭までその姿を見せてくれている。そんなことを考えつつ滑走路を眺めていると、轟音とともに飛び立つ鶴丸。あともう少しで、僕らも機上の人か。
暑いしもうそろそろ、行こうか。その前にもう一度だけ、眼にこころに灼きつける八重山のあお。アクリル越しではなく、この眼でこの鮮烈を確かめられるのは今年がこれで本当に最後。
今年はだいぶ、人が戻ってきたんだな。今までにない手荷物検査場の列にそのことを実感し、早めに検査を済ませてぼんやりと待つ時間。旅の終わり特有の空気に身を任せていると、僕らを乗せるJTAがスポットへ。
機内の整備を終え、ついに始まってしまった搭乗。意を決して機内に乗り込み、出発のときをただ静かに待つばかり。しばらくはまた、お別れか。しみじみとその寂しさを噛みしめていると、ドアが閉まりゆっくりと後退する飛行機。
あぁ、空港設備からすら切り離されてしまった。いま石垣島と僕を結ぶのは、B737のタイヤだけ。そんなことを思っていると飛行機は自走を始め、ついに滑走路の始端に到着。
翼の先には、陽の弱まりはじめた空と碧い海。絶妙なその色合いに旅の終結を重ねていると、程なくして滑走を始める737。ゴトゴトと続く振動が消えたその刹那、飛行機は那覇に向けて離陸。本当に、石垣島から離れてしまった。
機窓に広がりゆく大空、それに圧されて小さくなりゆく島の大地。9日間過ごしたこの島から、どんどんと離れていってしまう。眼下へと遠ざかるさとうきび畑を、ただただ窓に顔を付けて見送るのみ。
そんな僕の未練を断ち切るかのように、一心不乱に高度を上げ続けるうちなーの翼。何度味わっても、この瞬間は慣れることなど決してない。やっぱり僕には、この島での時間が必要なんだ。
豊かな緑に染まる島、得も言われぬ碧さに彩られる珊瑚礁の帯。その宝のような島を囲むのは、どこまでも広がる青い大海原。切なくも美しい色彩の三重奏に、思わず息を呑んでしまう。
大空目指し上昇を続ける飛行機は、意を決して北へと向け大きく旋回。だめだよ、こんなことしちゃ。石垣島をなぞるように、最後まで余すことなくその美しさを見せつけるなんて。
なんだよ、勝手に涙が出てきてしまった。それは切なさ、悲しさというよりも、もっともっと温かいもの。機窓に寄り添う島影に、これまでに経験したことのない感情がこみ上げる。
9日間も過ごした、愛する八重山の地。ひとつひとつしまったはずの感動が、ついに堰を切って胸から溢れてきてしまった。寂しくないわけではない。でもそれ以上にこころを満たす、豊かで穏やかな充足感。石垣島の終わりを告げる平久保崎に、再訪を強く強く誓うばかり。
人間って、自分で感情を処理しきれなくなると涙が出るんだ。思いがけず勝手に零れた涙に戸惑いつつ、自分では抱えきれぬほどの感動の余韻に揺蕩う夕刻の機内。あぁ、幸せだった。そんな旅の終わりの感傷に身を委ねていると、機窓には煌めく海に浮かぶ黒々としたいくつもの島影が。
旋回を続け、ふらりふらりと降下する小さな飛行機。金色に染まる那覇の街が一段と近くなったかと思えば、轟音とともに無事着陸。
金色に染まる誘導路を、飛行の惰性で静かに進む737。仕事を終えたエンジンの響きが、僕の感傷を一層掻き立てる。そんな旅の終わりを強く印象付ける、輝く夕陽。あまりの眩さに、そっと眼を閉じこの情景を噛みしめる。
八重山の地は離れてしまったけれど、あともう少しだけ続く沖縄での時間。飛行機の乗り継ぎの間に夕食をとるため、那覇空港の1階、JAL側に位置する『空港食堂』へとお邪魔することに。
セルフサービスの店内は、観光客よりも地元や職員の方が多いといった印象。メニューも沖縄の家庭料理が揃っており、空港にしてはお手頃な値段も相まってまさに日常使いの食堂といった雰囲気。
色々並ぶメニューの中から、迷いつつ選んだタコライスと沖縄そばのセット。そういえば、タコライスってきちんと食べるの初めてかも。そう思いつつひと口頬張れば、想像以上のご飯との好相性。
フレッシュなトマト、加熱しないシュレッドチーズ、しゃきしゃきのレタス。一見ご飯と合うの?と思える組み合わせを、見事にまとめるタコミートの旨味と爽やかなサルサソース。これは暑いなかオリオンとともにガツガツいきたいやつ。
続いて沖縄そばを。食べる前から漂うだしの香りと載せられた紅しょうがに、そうだここはもう沖縄なんだと今一度実感。わしわしとした麺の食感に共通項は感じつつ、かつお感の強いスープに沖縄のそば事情の深さを感じます。
旅の最後に沖縄の味を満喫し、瓶のオリオンに誘われ若干の眠気を感じつつ待つ出発ロビー。あとはもう、本当に東京へと飛ぶだけ。僕らを連れ戻すA350が機内整備される様を、ただぼんやりと眺めます。
35歳にして初めて知り、それ以来毎年通うようにまでなってしまった八重山の地。もう僕は、この地なしでは生きてはゆけない。そう思えるほどの感動は、逢瀬を重ねるごとに深まるばかり。
7度目にして、過去最長となった今回の旅。ゆるやかに揺蕩う日々と、まだ見ぬ新たなあおさとの出逢いの鮮烈な対比。今年の夏は、今まで以上に深かった。
でもさすがに、8泊9日はやりすぎたかな。それは決して滞在が間延びしたというわけではなく、あまりここでの時間に染まりすぎると危険だということを察知したから。
胸を焦がすほどの眩いあおさ、心身の力がほどけるような溶けゆく時間。そんな日々の緩急は、いとも簡単に僕のこころを支配してしまった。
八重山は、用法と用量の厳守が必要らしい。これ以上の長期滞在は、きっと僕の人生を変えてしまう。
いつかはと頭から決して離れることのない妄想の輪郭に触れ、より深化してしまった自分の八重山病。満を持してその時を迎えるまでは、こうして毎年通い続けるに留めておこう。そう改めて思わされるほど、今年の八重山はあまりにも濃く、そして深くこころへと訴えかけるのでした。
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