7年ぶりの国宝天守としっとりとした城下町の情緒を愉しみ、そろそろ犬山を後にすることに。帰りも名鉄犬山線の快速特急に乗車します。

そのまま神宮前まで乗車し熱田神宮にお参りするつもりでしたが、途中バケツをひっくり返したような大雨に。こりゃしばらく無理そうだ。名鉄名古屋で下車し、雨脚が収まるまでお土産を下調べ。

なんだかんだで、時刻はもう16時前。このままなんとなく名駅の中で時間をつぶすのももったいないよな。そう思い太閤通口の外を見ると、あいかわらず傘は必要なものの雨は小降りに。

よし、それなら久しぶりにと思い立ち、名古屋から桜通線と名城線を乗り継ぎ名古屋城へ。地下鉄の駅を出ると、すぐ出迎えるのが広々とした空堀と重厚な石垣。その傍らの紅葉には、はやくも秋の気配が。

そういえば、名古屋城の中に入るのは8年ぶり。前回訪れたのは、きそとの出逢いとなったあの旅だったか。そんなことを思い出しつつ、端整な表情の石垣の合間を東門へと進みます。

東門を入ると、右手に緑豊かな一画を発見。前回来たときはまったく気付かなかった。時計とにらめっこしつつも惹かれてしまい、足の向くままそちらへと歩いてゆくことに。

二之丸一帯にはかつて巨大な庭園が広がっており、その規模は藩主の居住する城内の庭園としては日本一だったそう。明治に陸軍の用地として転用されましたが、その後発掘調査が行われ往時の姿へと復元が進められました。

軍用地として多くの部分が改変されましたが、この北御庭と呼ばれる一画は江戸時代の様子を色濃く残しているそう。小高い築山に豪快な石組、そして深い谷といった急峻な地形が再現されています。

この空模様も相まって、深山幽谷の世界を思わせる北御庭。その近くに建つ二の丸茶亭の脇を抜けてゆくと、これまた趣深いお庭が。かつてここには陸軍の将校集会所が建っており、その前庭として明治期に作庭されたものだそう。

前回は夜行バス疲れと連休の人の多さで、二之丸庭園にはまったく気付けなかった。これはまた、絶対再訪せねばだな。迫る閉門時刻を考慮し、後ろ髪を引かれつつ早足で本丸へ。

すると空堀沿いに現れる、白亜の東南隅櫓と表二之門。どちらも慶長17年頃に完成という、名古屋城に現存する貴重な建物。戦火も免れ、400年以上もの長きにわたり生き証人としてこの城の在りし日の姿をいまへと伝えています。

空襲前は櫓式の一之門と多門櫓が建っていたという堅牢な桝形を抜けると、重厚感あふれる本丸御殿がお出迎え。前回訪れたときは、復元工事の完成間近。あのとき薫った白木も、8年という歳月を経てすっかり落ち着いた面持ちに。

残念ながら、本丸御殿の見学は16時まで。庭園とともにまたまた宿題を胸へとしまい、ついに名古屋城天守とご対面。

本丸からこうして天守を眺めるのは8年ぶり。この近さで仰ぎ見る輝く金鯱、その存在感に目を奪われる。

地下1階、地上5階建ての大天守。史上最大の延床面積をもち、設けられた破風も22と日本最多。この天守が現存していたら。考えても仕方のないことだとは解っていても、お城と対峙したときそう思わずにはいられない。

8年前に訪れたとき、すでに木造で復元するという構想が報じられていた。その数日後に一時閉館となり、現在に至るまで立入不可。今考えれば、あのときは本当に良いタイミングで登れたんだな。

次また逢うときは、この姿なのか木造なのか。どちらにせよ、この威容は名古屋城だからこそ。大天守と小天守の雄姿を今一度眼にこころに灼きつけ、そろそろ出口へと向かうことに。

在りし日の天守と同時期に建てられたという西南隅櫓を眺めつつ西之丸へ。熊本城を築城した加藤清正公が手掛けたという、名古屋城の天守台。ここから眺める石垣、その独特な勾配に目を奪われる。

駆け足で見て回ること30分ちょっと、閉門時間も迫ってきたため名残惜しくも退城することに。名古屋城はこれで3度目のはずなのに、全然しっかり見ることができていなかったんだな。

これだから、旅を重ねることをやめられない。あらたな発見や出逢いがあるからこそ、何度も訪れる理由となる。これはまた、名古屋に来る善き口実ができてしまった。名古屋市役所と愛知県庁の荘厳な姿に再訪を誓い、地下鉄の駅へと吸い込まれます。

帰りも名城線と桜通線を乗り継ぎ名古屋に帰還。行き交う人々で混雑する駅構内を抜け、太閤通口側にあるうまいもん通りへ。名古屋の味でこの旅を〆るべく、『味仙JR名古屋駅店』へと向かいます。

時刻は17時過ぎ。駅直結という立地もあり、出張帰りの人で結構な行列。飲む時間減っちゃうかな。そんな心配をしていましたが、意外と回転も速く15分ほどの待ち時間で無事入店。
注文してほっとひと息ついたかと思えば、あっという間にお皿が到着。まずは、濃い色味が食欲をそそる青菜炒めから。
しっかりとした中華スープの旨味、気持ち濃い目の塩気。そこにたっぷりと加えられたにんにくの旨味がぶわっと香り、しゃきっしゃきっとひと口ごとに旨いなぁと感嘆の声が漏れてしまう。
つづいて、見るからに辛そうな子袋を。僕は勝手に炒め物を想像していましたが、しょう油だれに漬け込まれた冷製仕立て。ぷりんとした子袋はクセや臭みなどまったく無く、こりっとした食感とじんわり広がる滋味が堪らない。
たれには粗挽きの唐辛子がたっぷりと入っており、華やかな辛味が冷製ながら額に汗を滲ませる。そして何より、生にんにくの破壊力たるや。粗みじんのかけらを噛めば、口から鼻へと抜けてゆく背徳の味。このあとのぞみで隣になる人、ごめんなさいだな。

うまいつまみに誘われ、ビールから紹興酒に切り替え。まだちょっとばかりお腹に余裕があったので、せっかくだからと手羽先も追加。
名古屋の手羽先といえば揚げたものが有名ですが、こちらのお店では煮込んだもの。台湾料理らしい、食欲をそそる甘辛い醬油煮込み。そこにこれまたピリリと辛味が顔を出し、ほっくりと凝縮された身を頬張るたびに紹興酒をくいっといきたくなる旨さ。

そして〆にはもちろん、味仙といえばの名物台湾ラーメン。まずはスープをひと口。そう、これなんだよ。7年前、生まれて初めて出逢った本場の台湾ラーメン。そのときの衝撃と変わらぬ旨さが、いま口の中を駆けてゆく。
ベースは、素朴さを感じさせるおだやかなしょう油のスープ。そこに加わるミンチの旨味や辛味が、すっきりとしていながら奥行きのある味わいへと昇華させる。
つづいて、辛さにむせないよう注意しつつ麺を。いわゆるラーメンといったつるつる寄りではなく、しっかりと小麦を感じさせるもの。旨辛スープとの相性は抜群で、パンチのある辛さのなかに感じる小麦の風味が堪らない。
麺を啜ってはひき肉とスープを含み、それらの奏でる一体感を噛みしめる。辛い、確かにすごく辛い。でも、それをも超える確たる旨味がそこにある。濃厚なわけでも、ただひたすら辛いわけでもない。この奇跡のバランスが、味仙だからこそ味わえる唯一無二の味。

念願の味仙呑みをこころから愉しみ、大汗掻きつつ新幹線のホームへ。取っていた指定席は、奇しくも立ち食いきしめん屋さんのすぐ近く。だしの香りのする夜風に吹かれ汗も引いたところで、乗車予定ののぞみが入線。
去年初めて手を染めてしまった、0泊4日という狂気の沙汰。あの旅で僕は、またあらたなパンドラの箱を開けたことを自覚した。そして案の定、1年後にこうしてまた発作を起こしてしまった。
今回の旅では、思い付きで初めての個室に挑戦。これまでの船旅とはまた違った良さが、そこには待っていた。
そのときの気分で居場所を選び、見知らぬ船客とほんのり時間や空間を共有する。そんな交通機関だからこその旅情と、ちょっとばかりの心地よい手間を愉しむカプセルタイプでの旅。
それに対し船という巨大なのりものだからこそ叶う、個室という自分だけの快適空間。それぞれのもつ魅力は甲乙つけがたく、ひと口に船旅といってもまったく異なる性質のもの。
これはもう、取り返しのつかないことをしてしまった。必ずまた、僕はこの衝動に駆られるだろう。そのときはきっと、カプセルにするか個室にするかで頭を悩ませるに違いない。
長年蓋をしていた船旅への想いを解き放ってしまった、8年前の旅。目的地に泊まることすらしないという、禁忌に手を出してしまった去年の旅。そして今回、柄にもなく贅沢をして知ってしまった個室の世界。
船とは本当に罪な奴だ。乗るたびごとに、その深い旅情でどんどん引きずり込んでゆく。航海の浪漫を一度知ってしまうと、湧き上がる欲求に抗うことなどできなくなる。
もう断言してしまおう、船こそが最大の目的地だと。大洗から苫小牧を経て名古屋まで、2,084㎞の海原を4日かけて渡ってきた今回の旅。あまりに濃密で、そして豊かな味に恵まれた日々だった。
フェリーが僕を誘う限り、船旅への想いは続いてゆく。よし、また逢いにゆこう、去りゆく航跡に。パンドラの箱を開けた先に待ち構えていた誘惑に絆され、さらなる航海の夢を描くのでした。




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