沼の東端にある源太分れから分岐し、源太森を目指します。ここから先はぐっと通行量が減り、木道も途切れて土と石の道になります。そんな道を歩くこと約10分、最後の急な岩場を登れば、一面のパノラマが出迎えてくれます。
360°、見渡す限り、山、山、山。どこまでも続く山並に、ここが奥羽山脈の真っただ中であることを思い知らされます。
どの方向も山並みを見下ろす中、今来た八幡平方向だけこの眺め。これほどの高地に広大な山が横たわっている。まさに「台地状火山」の示すところが手に取るように伝わります。
360°の大パノラマに、源太森にたどり着いた人々は一様に感嘆の声を漏らします。例外なく、僕もその一人。いつまでも佇んでいたい気持ちは山々ですが、この大展望を目に焼き付け、来た道を引き返します。
来るときには気付かなかった、道端を彩る紅葉した木々たち。松や笹の濃い緑の中に、華やかな彩りを与えます。
足元には可憐に揺れる、青紫の可愛い花。たくさん咲いており帰宅後何の花かと思い調べてみると、エゾオヤマリンドウという花だそう。りんどうという名前は知っていましたが、これがその花の一種だとは。その可憐な姿に見とれてしまいます。
源太分れより八幡沼の南側へと進みます。こちらも湿地帯ですが、先ほどよりも草の密度がぐっと高く、犬の毛並みのように柔らかそうな色に染まった草原が、どこまでもどこまでも続いています。
草紅葉の中のびる一筋の木道。山の頂に隠された秘密の場所。そうとでも言いたくなるような、神秘的で、美しい、不思議な風景が続きます。
豪雪と厳しい環境のためか、木々の生育が遅いのでしょうか。僕の背丈よりも低い木々が、ミニチュアのような森を形作っています。これが数十年後には大きな森に成長しているのでしょうか。
一面の曇り空と、青森トドマツを映す八幡沼。この雲との距離感に、標高の高さを今一度実感します。その池の縁取りは余りに低く、今にも溢れてこぼれてしまいそう。今まで体感したことのない景色に、本日いくつ目の溜息をついたことでしょうか。
神秘的な八幡沼に別れを告げ、一路駐車場へと向かいます。
お盆の中に隠された箱庭のような八幡沼一帯。目の前のお盆の縁取りを越えれば、一般的な山並みの広がる姿に戻るはず。ここだけが格別に穏やかで、特別に美しい。何とも言えない自然の造形に、ただただ感動するしかありません。
八幡沼の雰囲気から一転、下界を見渡せる見覚えのある景色へと戻ってきました。八幡平の頂の内と外でこうも変わる景色。このギャップは好対照、八幡平の印象をより強いものとしてくれます。
眼前に広がる、どこまでも続く山々。その中には今夜の宿がぽつんと佇む姿が見え隠れ。付近から立ち上る噴煙に、弥が上にも今宵の湯への期待が膨らみます。
当初は沼を見に行くくらいの気軽な気持ちで歩き始めた八幡平散策。そのスケールの大きさは想像を遥かに超え、忘れえぬ絶景と感動を与えてくれました。
今宵の宿は、そんな八幡平に抱かれた秘湯の一軒宿。湯につかる瞬間を思い浮かべ、足取りは一層軽くなるのでした。
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