八幡平散策を終え、非常に爽快な気分で宿を目指します。と言っても、この先の道のりもこれまた気持ちの良い八幡平路。宿までの2kmを、景色を楽しみながらのんびり歩きます。
八幡平レストハウスを後にし、秋田県側の景色を望みながら下り始めます。目の前には、どこまでもどこまでも続く山々の影。遠くへ行くほどにその色は濃くなり、黒い山並みとなり延々と重なります。
柔らかい草とアオモリトドマツの先に聳える、ぽこんと面白い形をした山。畚岳(もっこだけ)といい、名前も面白い、目を引く印象的な山。写真ではなかなか色が伝わりませんが、畚岳の頂も美しい紅葉に包まれています。
畚岳直下を道は左へとカーブし、岩手県側に突入。しばらく進み視界が開けると、雄大に裾野を広げる南部片富士と、今宵の宿である藤七温泉の姿がいきなり眼に飛び込んできます。
ちらりと見えている露天風呂は、遠目でも野趣満点の趣き。あの湯に浸かりたい一心で、歩調は今までにもまして早まります。
うねうねと曲がりくねった道をどんどん下ると、藤七温泉の源泉を抱く噴煙地がすぐ脇に広がります。白いにごり湯が湛えられた湯溜まりや、それを宿へと導くためのパイプが姿を現し、期待は最高潮に。
延々と2kmの道のりを下り続け、今宵の宿である『藤七温泉 彩雲荘』に到着。延々下ったといっても、それでも標高は1400m。東北最高地点の温泉宿だそうで、これぞ山の宿という佇まいの建物と空の近さが、非日常の秘湯感をより一層掻き立てます。
この宿も、豪雪地帯のため冬季休業。かなりの積雪があるらしく、建物はいたるところが歪んでおり、平衡感覚の弱い人なら酔ってしまいそうなほど。
といっても、設備自体はきちんと手入れされており、部屋も清潔感があり気持ちよく過ごすことができます。
浴衣に着替え早速お風呂へ。残念ながら滞在中ひとりきりになることがなかったので、お風呂の写真は撮ることができませんでした。
こちらの宿のお風呂も、ふけの湯同様地獄谷を独り占めするかのようなロケーション。でも全く雰囲気が異なり、より荒涼とし、より地獄谷に近いところにいくつもの露天の湯船が設えられています。
お湯は絵に描いたような白い美しいにごり湯で、肌へのあたりもきつくなく心地よさ満点。源泉に近い上部から下部へと大小様々な湯船が散らばり、自分好みの温度の浴槽を見つけることができます。
お湯は源泉から引かれたもののほか、湯船の直下からブクブクと湧き出している部分もあり、大自然に抱かれながら地球の恵みをダイレクトにに味わうことができます。
浴槽の底はすのこ状になっており、まったり、ねっとりとした泥状の湯の花がたっぷりと沈殿。時折手で掬って肌へと塗れば、天然のパックとなり肌がつるっつるすべっすべに。野趣満点なロケーションの中愉しむ大地の恵み。その飾り気のない魅力に、一瞬で虜になってしまいます。
お風呂を写真でお伝えできないのが本当に残念でしかたありませんが、ふけの湯といい、ここ藤七温泉といい、こんな野性的な温泉を楽しめる宿はそうそうあるものでは無いでしょう。
ここは是非、ご自分の足で訪れ、その魅力を体験していただきたい。最上級のおすすめ温泉であるということは、自信を持って断言できます。
そんなダイナミックなお風呂を満喫し、ビールでクールダウンしていると、もう日は陰り始めました。山の日暮れは早いもの。黄味を増した陽射しに照らされる紅葉した山並みは、今日最後の輝きをこの目に届けてくれます。
この彩雲荘は、秘湯の宿としては珍しく夕食もバイキング形式。よく焼かれた岩魚はひとり1尾が手渡され、それ以外は好きなものを好きなだけ選ぶことができます。
バイキングといっても、やはりそこは山の宿。山菜をメインとした素朴な品々が色々とテーブルに並び、どれを取ろうか思わず目移りしてしまいます。もちろん僕は晩酌メインなので、第1弾はお酒に良く合いそうな品をちょっとずつ色々とチョイス。
姫竹、ぜんまい、ふき、やまくらげ、わらび等の山菜は、炒める、煮る、お浸しなどそれぞれ違った調理法と味付けが施されており、一口ごとに様々な美味しさを愉しむことができます。
右のお椀はきりたんぽ。野菜から出た美味しいだしをしっかり吸ったきりたんぽを口へと運べば、心までほっこりするような温かい美味しさ。じゅんさいやきのこおろし、豆腐の野菜醤油もお酒の間のいい口直しとなり、気を付けなければいくらでも飲んでしまいそう。
第2弾はちょっと目先を変えて和洋折衷に。先ほど食べた中で迷った結果、姫竹とわらびをおかわり。
姫竹の下の見慣れないものは、なんと極太の豆もやし。異様に長いもやしというのはテレビで見たことがありますが、細めのエシャロット程もあるような太いもやしは初めて目にしました。
どんなもんだろうかと一口食べれば、これでもかというほどのシャキシャキ感。豆も硬くはないが適度に食感が残り、これは旨いの一言!このもやし、東京でも売ってほしいなぁ・・・。
その他に冷製チキンや高原野菜のシチューもそれぞれ美味しく、すでに満腹に近付いてきています。
それでも食べ過ぎてしまうのがバイキングスタイルの困ったところ。最後にとろろご飯と山菜そばで〆て、お腹はパッツンパッツンになってしまいました。
正直なところ、藤七温泉はずっと泊まってみたいと思い続けていた宿でした。でも今回実際泊まるとなり調べたところ、夕食がバイキングだと知って最後の最後まで、泊まるかどうか躊躇していました。
それでも温泉が良さそうなので、温泉ありきで予約を決心。ですが、結果は大満足。自分が思っていたバイキングとは全く違い、僕の欲していた山の幸がたっぷり並んでいました。
山の宿らしい素朴な品が並びつつ、山菜以外のメニューも色々とあり、これなら数名と一緒に行ってもそれぞれの好みに応えてくれることでしょう。こんなバイキングなら大賛成。またひとつ、お気に入りの山の宿が増えました。
満腹になったお腹を落ち着け、お風呂と本と、お酒の時間。この日も小瓶を2種類用意しました。
まずは盛岡は菊の司酒造の純米吟醸菊の司。岩手に来た際には良く飲む菊の司は、香りも旨味もありながらすっきりとし、飲み飽きない僕好みのお酒。
こちらもお気に入りの酒蔵、盛岡は桜顔酒造の純米大吟醸南部杜氏。あまり大吟醸は飲まないのですが、フルーティーでありながら嫌な香りもなく、すいすい飲めてしまう美味しいお酒。
お風呂へ向かえば夜空以外に何も見えない自然そのままを味わい、部屋へと戻れば岩手の自然が醸した旨い酒を味わう。これ以上の贅沢はあるでしょうか。
この上なくシンプルに岩手を感じ、岩手を味わう。東北で一番空に近い宿で過ごす夜には、言い表すことのできないほど濃密な時が流れていました。
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