3月初め、今回の旅の出発点は東武浅草駅。浅草駅がリニューアルしたことは知っていましたが、新しくなってから目にするのは今回が初めて。
これまで僕が慣れ親しんできた浅草駅のビルは、建築当時の外壁をカバーで覆っていた姿。そんな事とはつゆ知らず、あれが改装を重ねた結果の姿だと思っていました。
ある日、新聞の記事で知った、このビルのリニューアル。あの外壁の下に80年以上も前のオリジナルの姿が隠されていたと知り、早くその姿に復元されないかとワクワクしていました。
そして今日、旅立ちの前に初めて目にすることができ、ひと言で言えば感動そのもの。隠されていた昭和初期のモダンな姿があらわになる。節操のない再開発が進む東京の中で、このようなことが行われること自体、貴重で素晴らしい。東武鉄道、良くやった!と心の中で大絶賛してしまいました。
そしてこちらも、リニューアル後初めての乗車となる、特急スペーシア。オリジナルのスペーシアが余りにも完成されていたので、どうもこのリニューアルには感心しません。
でも慣れとは怖いもの。あれだけ違和感のあった紫や水色の塗装もそれなりにアリだと思うようになってきました。そしてエンジからブルーにラインの色が変わってしまった塗装も、こうして見るとそう悪くもありません。
いざ車内へと入ると、大きく変わったのはシートの色だけ。スペーシアの豪華ながら上品な内装が好きだったのでほっとしたのも束の間、やはりシートの色と内装のバランスに違和感を感じてしまいます。僕はやっぱり、オリジナルのスペーシアが好きだなぁ。あれは完璧すぎました。
この日は明番。朝ごはんがまだだったのでもうお腹はぺこぺこ。着席するなり、松屋で仕入れたお弁当を取り出します。
今回購入したのは、深川太郎というお店の深川めし弁当。アサリ好きには嬉しい深川めしもさることながら、美味しそうな厚焼き玉子に惹かれて購入しました。
お弁当箱にはあさりのだしがしっかりと染みた、ちょうど良い濃さの深川めしがびっちり。シンプルな味付けと丁度良い塩梅で、最後の最後まで美味しく頂けます。
そして期待に応えてくれる旨さだった、厚焼き玉子。桜えび入りの方は甘くない塩味。ほんのりと香る桜えびの香ばしさが食欲をそそります。
厚焼き卵の方は、甘すぎず薄すぎずの丁度良さで、甘い玉子焼きでなければ玉子焼きでは無い!と信じる僕にとって、ドンピシャの旨さ。食感ももそもそとせず、卵の心地よい弾力と滑らかさがあります。
旨いお弁当を食べ始めてすぐ、スペーシアはゆっくりと走り出します。浅草駅の特徴ともいえる急カーブを抜け、車内に響く鉄橋の重たい響き。隅田川に架かる橋の数々を見渡せ、これから東京を脱出するという嬉しさをより駆り立てられます。
明けで乾いた喉をビールで潤し、お弁当をつまみながらワンカップを開けます。まずは松屋の酒屋で購入した、広島の成鏡まぼろし。普段は純米系しか飲みませんが、飲んだ記憶の無い銘柄だったので、買ってみました。すっきりとしつつ甘さや香りを感じる、フルーティーな美味しさ。
3月初め。東京では寒さの中にも春を感じ始める季節。車窓に広がる田植え前の田んぼは、若い緑に覆われています。窓から射し込む心地よい日差しとこの長閑な眺めが相まって、心地よい微睡タイムを愉しみます。
ポカポカと日向ぼっこを楽しみながら飲むワンカップ。大人の休日、鉄道旅行の最大の楽しみ。続いても松屋で仕入れた、山梨銘醸の七賢を開けます。こちらはきりりとした、喉越しのよい辛口。車窓から漏れる陽の光で火照った喉に丁度良いすっきりさです。
先ほどまで春の訪れを感じさせるような車窓が流れていましたが、気が付けば白い雪が目立つように。そうそう、これこれ。この旅は冬の名残に逢いに行くことが目的。今年の最後の冬を味わうために、栃木、福島行きを決めたのです。
浅草を出発して約2時間、特急スペーシアは鬼怒川温泉駅に到着。ここでいつものこの電車に乗り換えます。
この6050系も、僕の好きな東武の電車。2ドアと、車内に並ぶエンジのボックスシート、蛍光灯カバー。東武鉄道の路線規模の大きさを感じさせてくれるこの車両は、国鉄やJRの普通列車とはまた違った華やかさを感じさせます。
普通列車なのに、華がある。質実剛健の国鉄形も堪りませんが、民鉄好きの僕としては、こういうところに私鉄の良さを感じます。
この日はひな祭り。野岩鉄道の職員の方がじゅうねんかりんとうを配っていました。後で宿でのつまみとして食べましたが、えごまがたっぷり入っていて、香ばしくて美味しかった。
残雪の川治温泉を見渡し、列車はどんどん山へと向かいます。ここまで来ると季節はまだ冬。空の青さにも、冷たさが感じられるかのよう。
そしていくつかのトンネルを越えると、そこは白銀の世界。ついに冬へと辿りついたのです。
たまたま取れたお休み。これから3泊4日、思う存分雪と湯けむりを楽しんでやる。白い雪のように、これから始まる湯めぐり三昧への期待が心を輝かせるのでした。
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