塩原那須甲子自噴泉めぐり ~湯にけむる、名残の冬。3日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

塩原那須甲子自噴泉めぐり ~湯にけむる、名残の冬。3日目 ②~

秘湯甲子温泉大黒屋 旅の宿

新白河駅から宿の送迎バスに揺られること約50分、ずっと来たいと憧れてきた温泉宿、甲子温泉『大黒屋』に到着。

この大黒屋は、ほんの数年前まで冬季休業の宿でした。と言うのも、ここへ通ずる酷道と揶揄される旧国道が冬季通行止めだったから。

この宿は温泉ファンだけでなく、酷道ファンにも有名な宿だったようで、この宿が旧国道の事実上の終点でした。そして、この宿の敷地から、テレビなどでも紹介された「登山国道」が始まっていたのです。

秘湯甲子温泉大黒屋木の温もりを感じる落ち着いた客室

そんな秘境とも言えたこの宿ですが、今では通年で通行可能な高規格の国道が開通し、四季を通じて楽々アクセスすることができます。

そして、その道路が開通する際に一念発起し、こちらの宿も改築して通年営業に切り替えたそう。まだ新しい匂いの残る気持ちの良いお部屋からは、これからを活きようとする秘湯の宿の心意気が感じられます。

僕がこの宿へ泊まりたいと思ったのは、建物を改築する以前から。でも交通の便などを考えると、車を持たない僕には来づらかったのもあり、やっと訪れることができました。

写真のみで知る以前の鄙びた感じの建物から一変、床暖房も入るバリアフリーの最新設備の宿に驚きます。部屋へ通される前は、そのきれいさに秘湯気分が若干萎えていましたが、この部屋を見てもうすっかり気に入ってしまいました。

誰もが快適に過ごせる設備を持ちつつ、山の宿の雰囲気を壊すことなく盛り上げてくれる。館内は木の建具に包まれ、部屋は真新しいにもかかわらず、嫌みな和モダンを決して感じさせない。

それは、和モダンでは無いから。これまで訪れた山の宿の素朴さをそのままに、現代の設備を盛り込んだこの部屋は、きっと経年によってもっと渋く良い表情になることでしょう。

秘湯甲子温泉大黒屋大きな窓に広がる雪景色

大きく取られた窓の外に広がる雪景色。あぁ、やっぱり温泉は冬だなぁ。道路が新しくならなければ決して見ることのできなかったこの景色を前に、雄大な自然を感じ溜息が出ます。

今の流行りに流されず、山の宿に必要な風情を現代の建築技術で造り上げたこの部屋を独り占め。そして、もちろんこの景色も。新しい道路で繋がったとはいえ、この山深さを味わえる幸せに、お湯に入る前からどっぷりと浸かってしまうのです。

秘湯甲子温泉大黒屋お風呂へと続く長い階段

早速浴衣に着替え、僕をここへと誘ったあのお風呂へ。谷底へ降りる長い長い階段を、逸る気持ちを抑えつつ一段一段下りてゆきます。

秘湯甲子温泉大黒屋橋を渡りお風呂へ

階段を下りきって外へと出れば、川に架かる橋の先に大きな湯屋が現れます。最後のアプローチは屋根も無い鉄板の橋。滑らないようにと足元を注意しつつ、冷たい空気の中を進みます。

秘湯甲子温泉大黒屋渓谷を渡る橋

橋上に立って目を横へと向ければ、深く切れ込んだ谷を流れる清らかな流れ。灰色の世界に輝く真っ白な雪。山中にひっそりと佇むこの温泉らしいモノクロームの風景に、しばし時を忘れて見入ります。この景色も、通年営業になったからこそ。訪れられたことの幸せを、今一度噛み締めます。

秘湯甲子温泉大黒屋混浴の大岩風呂

そしていよいよ、憧れ続けたこのお風呂へ。混浴の大岩風呂は、その名の通りちょっとしたプールほどもある大きさ。木で組まれた湯屋の中、ほとんどの面積を湯船が占めています。

秘湯甲子温泉大黒屋大岩風呂源泉

この鳥居の奥の岩からは、勢い良く源泉が流れ出してきます。ここから出てくるお湯は、少しだけ熱めの45℃程度。そして湯船の底からは、30℃位のぬる湯が自噴しているため、それらが混ざって丁度良い温度になっています。

いつまでも入っていられそうな、文字通りの適温の源泉掛け流し。これだけの大きな湯船を満たしても足りないほど湧き続ける温泉に、贅沢を感じずにはいられません。

そして不思議なのは、その浴感。単純泉で癖が無く肌への馴染みの良さもありますが、静かに浸かっているととても不思議な感覚になってくるのです。

これまで入った温泉は、体に温泉が浸みこんでくるような力強さを感じるものもあり、体の中から何かがお湯へと溶け出してゆくような感覚の、ほぐされるような温泉もありました。僕が感じる浴感は大体この2つに分けられました。

ところが、このお湯はそのどちらとも違う浴感。目をつぶって静かにしていると、何かが入るでも出るでもない、宙に浮かんだような不思議な心地よさに包まれるのです。それは体への負担を全く感じさせない、絵に描いたような優しさ。未だにあの感覚は忘れられません。

秘湯甲子温泉大黒屋雪景色をつまみに湯上がりのビール

いつもなら、「火照った」体を癒すビールとなるところですが、このお湯は芯から温まりつつも火照りは感じないのです。そんな不思議なお湯の満足感と余韻に包まれながら飲むビール。外の寒々とした景色が、一層喉越しの良さを演出します。

やっぱり寒い時には寒さを楽しみたい。名残の冬を追いかけてここまで来て良かった。四季を感じられることのありがたさを、冷たいビールと一緒に飲み込みます。

秘湯甲子温泉大黒屋恵比寿の湯内湯

初めての甲子温泉に早くも感動しつつ、一段落したところで次のお風呂へ。こちらの恵比寿の湯と名付けられた大浴場は、先ほどの大岩風呂の源泉とはまた違う泉質のお湯が掛け流されています。

秘湯甲子温泉大黒屋恵比寿の湯露天風呂

カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉のお湯は、先ほどの岩風呂とは違いさっぱりとした浴感。同じ無色透明でも源泉が違えば浴感も違う。当たり前のことですが、どうしても色や濃度に特徴のあるお湯に走ってしまいがちな僕にとって、忘れていたことを気付かせてくれます。

奥甲子の地にひっそりと佇む一軒宿、大黒屋。これから1泊を掛けて楽しめる幸せに、到着早々満足するのでした。

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塩原那須甲子自噴泉めぐり~湯にけむる、名残の冬。~

二岐温泉柏屋旅館露天風呂からか眺める銀世界
2014.3 栃木/福島

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●1日目(東京⇒塩原温泉)
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●3日目(二岐温泉⇒甲子温泉)
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●4日目(甲子温泉⇒那須湯本⇒宇都宮⇒東京)
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