早速浴衣に着替え、憧れのあのお風呂へと向かいます。お風呂があるのは谷底。ホテルからは長い長い道のりを辿ります。
通路は建物から外へと飛び出し、辛うじて山肌にへばりつくようにくねくねと下ります。なんだろう、このワクワク感。なんだか探検をしている、そんな気分にさせられます。
そしてやっとたどり着いた、この露天風呂。川と対峙するように位置するこのお風呂は、そのロケーションや素朴な造り、そして見るからに濃そうなにごり湯で、期待を大幅に上回る秘湯感に包まれています。
川沿いの秘湯を体現したかのようなこのお風呂は、その画力の強さからか、これまで数々のメディア等に取り上げられてきました。僕もテレビで見て憧れたひとり。
でも、ここのお風呂の良さは、写真や映像では伝わりきらないほど。やはり実際に訪れ、生でその空気感触れてこそなのだと、今一度思い知らされます。
ここにはいくつかの浴槽があり、それぞれ温度が違います。川に面した四角い浴槽2つは熱め。谷底の空気は3月というのに冷たく、そんな山の空気の中お湯に入る瞬間がたまりません。
ナトリウムやカルシウム、硫酸塩などなど、多くの成分が詰まったこのお湯。見た目の通りの濃さで、入ると体にじんわり浸透してくるような力を感じます。このお湯にもうぞっこん。関東の比較的来やすい場所に、こんなに良いお湯が湧いていたなんて。
熱いので出たり入ったりを繰り返していましたが、川の上流側の湯船が適温だったので、そちらへ移動。熱い湯船はお湯の力をガツンと感じられるような浴感でしたが、こちらは温度が若干低い分、のんびりじっくりと湯浴みを楽しめます。
流れる川の音を楽しみつつ入る自然湧出の温泉。視界を横へとずらせば、成分の濃さを物語る析出物。堪らなく幸せな瞬間。
じっくりお湯を楽しんだ後に待ち構える、長い階段。あめとムチ、そんな言葉が自然と思い浮かびます。それでも、余りにも好みのお湯と雰囲気なため、一泊で何度も何度も、この道のりを通ってしまいました。
良い湯で心地の良い汗を流し、帰路でまたまた汗を流し。うん、初っ端から最高の休日だ。そんな満足感を抱き、部屋へと戻り冷たいビールを喉へと流します。これだから、温泉旅はやめられない。
ビールと読書でクールダウンし、再びお風呂へと向かいます。今度は内湯の大浴場へ。奥の小さい浴槽には露天風呂と同じお湯が掛け流されています。そして手前の大きい湯船に掛け流されるのは、東日本大震災の後に発見されたという新しい源泉。
単純泉のようですが、薄らと黒く濁った温泉は、肌へ吸い付くようなさっぱりとしつつも柔らかく心地よい浴感で、こちらもまた好み。ひとつの宿で色も泉質も違うお湯が楽しめる、贅沢なことです。
お風呂を楽しんだ後は、お待ちかねの夕食の時間。お部屋でのんびり頂くことができます。岩魚やヤシオマスなどのお刺身や、湯葉、鴨ときのこのうどんなどが並びます。特に川魚のお刺身が美味しく、山の宿へやってきたという実感が深まります。
そんな夕食時を一層楽しくさせるのは、もちろんお酒。今回は古河の青木酒造、御慶事を注文。ここは栃木なのに、なんで茨城のお酒なんだろう、ということはさておいて、きりっと辛口のすっきりとした飲み口を楽しみます。
こちらは、前菜や山女の揚げ物や豚しゃぶなど。豚しゃぶはポン酢とごまだれの両方を楽しめ、お肉も美味しくしっかりとしたボリューム。どれも美味しくすっかりお腹一杯、満足な夕食でした。
重たいお腹を落ち着け、再びお風呂へ。ここからはもう、お湯とお酒と本の繰り返し。何もしないをしたい。だから、一人旅に出かけるのです。
そんな夜のお供に選んだのは、大田原市は天鷹酒造の、天鷹辛口純米しぼりたて生酒。僕の好きなフレーズの詰まったラベルに惹かれて購入。すっきりとした飲み口で文字通り辛口ですが、フルーティーさも感じる美味しいお酒。
お酒と本に飽きたら、あの長い階段を下り、漆黒の闇に包まれる別世界へ。川音だけが響く夜の露天はまた格別。熱めのお湯に静かに身を任せれば、日常の全てが融けて流れ去ります。
初めて泊まる、塩原での夜。旅の初日から自分の中で100点満点のお湯に出会い、存分に幸せに浸るのでした。
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