新白河駅から車で走ること1時間以上、山の中に位置する天栄村は二岐温泉に到着。二岐温泉へは予約制のバス『湯ったりヤーコン号』で行くことができ、僕もそれを予約していました。
ですが、バスが不具合だったそうで、わざわざ宿の方が新白河まで迎えに来てくれました。たった一人の宿泊客のためにこんな長距離を。申し訳なくなってしまいます。
ということで、送迎の車を降りてからすぐチェックインしたため、残念ながらお宿の外観の写真はありません。今回お世話になったのは、『柏屋旅館』。
早速浴衣に着替え、川の対岸に位置する露天風呂へ。川を渡る橋は細い木橋。雪の積もったその橋を滑らないように慎重にわたります。それにしても寒い。福島の山の奥では、3月初めといえどもまだまだ冬なのです。
雪に埋もれる中、そこだけ温もりを湛える川岸の露天風呂。そうそう、こんなロケーションでお湯に浸かりたかったから、ここまで名残の冬を追いかけて来たんだ。その目論見通りの素晴らしさに、浸かる前からにやけてしまいます。
空気の冷たさに浴衣を脱ぐのもまどろっこしい。だからこそ、湯に浸かった時の喜びは倍増する。
無色透明の柔らかいお湯がドボドボと掛け流されたお風呂は適温。お湯の落ちるその先には、川を埋め尽くさんとばかりに降り積もった真っ白な雪。その大量の雪は周囲の音を吸い込み、聞こえるのはお湯と川の音だけ。
晩冬と言えども春の足音を感じさせる温かみのある青空と白銀との対比を、飽きることなく湯に浸かりながら眺める幸せ。あぁ、本当に幸せ。露天風呂の良さは四季折々ですが、雪見露天はその中でも別格であると確信する、幸せな時間。
求めていたものそのままの幸せな時を過ごし、逆上せ気味になったところで部屋へと戻ります。その帰り道、橋の上から上流へと目をやれば、どこまでも続く、こんもりと積もった雪の姿が。
宿の方の話によれば、例年のこの時期はここまで積雪は無いそう。数日前に振った、東京も麻痺させた大雪が、この美しい雪景色をもたらしました。僕にとってはまさに絶妙のタイミングで訪れることができました。
火照った体を冷たいビールでクールダウン。部屋の窓からは雪に埋もれるように佇む露天風呂が見え、冬の風情を思う存分満喫することができます。
暑い時には暑さを、寒い時には寒さを楽しむ。東京にいるときは暑さ寒さを嫌がるはずなのに、なぜ旅先ではこうも楽しいのか。
きっと、東京の暑さ寒さには無い、「意味」や「意義」がそこにあるから。季節感が無くただ無駄に暑くて寒い東京とは、何もかもが違うから。そう思えて仕方がありません。
雪景色に癒され、落ち着いたところで再びお風呂へ。こちらには男女別の大浴場や露天風呂の他に混浴の巌風呂があり、今度はそちらへ。雪に覆われた渓流に沿って延びる通路の先にどんなお風呂が待っているのか期待しつつ、冷たい空気の中を進みます。
そして現れた、この宿自慢というこのお風呂。100年以上も前からここにこうやってあるというこの湯船は、足元から温泉がぷくぷくと湧いています。まさに新鮮そのもの。自然そのままの自噴泉。
宿の方に熱いですよ、と言われたお湯は本当にちょっと熱め。この時期ならば肩まで浸かれますが、夏ならばちょっと厳しいかもしれません。
でも、その熱さも一つの味であるかのように、体の芯にぐいぐいと来る力強さがあるこのお湯。無色透明の見かけとは異なり、一旦浸かれば強いパワーを感じます。
何だろう、このお湯の感じが堪らない。出たり入ったりを繰り返しながら、地球の恵みを心ゆくまで味わいます。
贅沢そのものの湯浴みを満喫し、日が暮れたところで待ちに待った夕食を。馬刺しや鰊の山椒漬けといった会津らしいものや、岩魚の塩焼き、きのこおろし、なめこ豆腐などの山の幸が並びます。
さくっと揚げられた山菜のてんぷらの中には、天栄村特産と言うヤーコンのてんぷらが。大根のような食感ですが、ほんのり甘味があり淡白ながら独特の味が印象的。
どれも手作り感のある、しみじみと美味しい夕食。山の温泉に来たからにはこんな食事がしたい、そう期待してきた僕の心を満たしてくれる、美味しい時間が流れます。
山の幸に舌鼓を打ち、これからはお酒と本とお湯の時間。今宵の友に選んだのは、白河は大谷醸造の純米吟醸五平どん。地元で育ったお米で作ったというこのお酒は、濃いめの飲み口で酸味を感じる辛口。
お酒と本に飽きたら、思い立ったように温泉へ。最近では定番となった旅先での過ごし方を、一層盛り上げてくれる積もった雪。白熱灯に照らされた雪は、昼間とはまた違った表情を見せます。
静かな夜に、静かに浸かる熱いお湯。すっかりこのお湯が気に入ってしまいました。湯船の底のあちこちから湧き上がる新鮮なお湯。熱いので長湯は出来ませんが、その分温まり方はバッチリ。出たり入ったりを繰り返し、雪に包まれた夜の静けさを心ゆくまで愉しみます。
雪見露天を楽しみたい。そう思って訪れた二岐温泉で出会った、力強いお湯。どうしても特徴のあるにごり湯に目が行きがちな僕ですが、温泉の持つ力を今一度感じさせられた、そんな幸せな夜を過ごすのでした。
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