大自然と雪に包まれた静かな宿で過ごす午後。お湯と本をのんびり楽しみ、お待ちかねの夕食の時間に。テーブルごとに暖簾の掛かる、プライベート感のある食事処で頂きます。
先付はぜんまい一本炒め。太く食感の良いぜんまいと油の相性が良く、味付けも丁度良い塩梅。前菜はうるいや網茸、わらびやアイコなどの山菜がそれぞれ違う味付けや調理法で少しずつ楽しめます。
そして僕にとっての王様、ミズもいらっしゃいます♪ミズは茎と玉を醤油漬けにされており、飲兵衛殺しの間違いない旨さ。山菜、どれも個性的で旨いなぁ。
そして山の宿だからこそ楽しめる、川魚のお造り。岩魚のお造りと、桜鱒のたたきの二種類を楽しめます。どちらもしみじみと広がる、川魚ならではの控えめな旨味。噛めば噛むほど口と心に幸せが広がります。
奥の炊き合わせもだしのきいた上品な味付け。茶巾の中にはきのこが詰められ、噛めばだしときのこの旨味がジュワっと染みだします。
これだけ美味しいものが並べられたら、もちろん頼まないわけにはいかない地酒。お酒メニューの中から選んだのは、地元白河の大谷忠吉本店の造る、じゅんまい白陽。水とお米の良さを感じさせるすっきり辛口のお酒は、後味もすっきりで料理を引き立ててくれます。
続いて焼き立てあつあつの岩魚塩焼き。ホクホクとした身を頬張れば、説明不要のあの旨さが楽しめます。
海の幸の美味しさももちろん好きですが、山の幸の懐の深い味わいもまた大好き。このような味覚を味わいたくて山の温泉にまた来てしまう。山の宿での楽しみは、お湯だけではないのです。
そしてこちらは、サーロインしゃぶしゃぶときのこ茶わん蒸し。見るからに美味しそうな色をしたサーロインは、期待通りの旨さと口どけの良さ。すっきりとしたポン酢がお肉と野菜をさっぱり美味しく食べさせてくれます。
きのこ茶わん蒸しは、掬っても掬ってもさじにきのこが載るたっぷりさ。色々なきのこから出るエキスが、とろとろの茶わん蒸しにしっかりと溶け込んでいます。
美味しい食事の〆は、ご飯と野菜の呉汁、お漬物。水に浸した大豆をすり潰したものが入ったお味噌汁である呉汁は、ちょっとした粒々の食感と大豆のまろやかさが美味しく、これとご飯だけでもいくらでも食べられそう。添えられたお漬物も美味しく、最後の最後まで美味しく平らげました。
もうお腹一杯ですが、いちごと栃餅大福を食べて大満足。特にほんのりと渋さを感じさせる栃餅大福が美味。こちらのお宿は本当に料理が美味しい。どれも丁寧に作られており、地元の美味しい食材を美味しく食べられるよう工夫されています。本当に満足。心ゆくまで山の恵みを楽しめた夕食でした。
こんな山奥で出会えると思っていなかった美味しい夕食に大満足し、部屋へと戻ります。窓の外はすっかり闇に包まれ、山の宿での静かな夜が幕を開けます。
そんなこの旅最後の夜のお供に選んだのは、南会津町は開当男山酒造の、特別純米夢の香。福島県産の酒造米夢の香を使ったというこのお酒は、お米の旨味をそのままお酒に反映したようなふくよかさ。旨味はしっかり感じますがクドさは無く、余韻も含めて優しさを感じさせるような柔らかいお酒。
本とお酒と温泉と。僕の旅先での楽しみであるこの三種の神器を、気分に合わせてひとつひとつ楽しんでゆきます。
奥甲子の、深い山に抱かれた一軒宿。周囲に明かりなどあるわけも無く、ここだけが幻想的に光に浮かび上がる、露天風呂。
いつしか風が強まり、周りの木々が音を立てて吹かれて揺れる。漆黒の闇の森から聞こえるその声をBGMに、ゆっくりと温かい湯に浸かれば、奥甲子の自然に抱かれる感覚に自ずと包まれてゆきます。
ゆらゆらと揺れるお湯と、聞こえる木々のざわめき。暖かい灯りに染まるオレンジ色の雪を眺めれば、名残の冬の冷たい風も心地よく感じられる。
奥甲子に佇む一軒宿で過ごす夜。夜の底とでも呼びたくなるその時間は、深い自然と闇、そして深い喜びに溢れているのでした。
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