愉しい時間というのは、本当にあっという間に過ぎてしまうもの。濃厚なお湯と戯れているうちにあたりはすっかり暮れ、もう夕食の時間に。
一体今日はどんな山の幸を味わえるのだろうか。そんな期待を抱きつつ会場へと向かうと、これまたおいしそうな品々が迎えてくれます。まずは前菜の海老や子持ち昆布で地酒をくいっと。温泉で空っぽになったお腹が刺激され、より一層食欲が湧いてくるのを感じます。
続いては、それぞれどんな味なのだろうと想像を掻き立ててくれる小鉢たち。黄色い小鉢のクリタケのからし和えは、しっかりとしたきのこの旨味や食感を引き立てる辛子の風味がお酒にバッチリ。隣の紅白なますは上品な味付けで、口をさっぱりとさせてくれます。
その右側、青い小鉢はハナイグチのぬた。つるんとしたきのこのぬめりに味噌が絡み、これまた吞兵衛殺しの逸品。その上の籠にのっているのは、菱の実。こうした食べかたは初めてですが、ほっくりとした食感に詰まるじんわりとした素朴な風味が山の秋を感じさせます。
今夜のお造りは、サーモンに北寄、そして大好物の岩魚といくら。こりっとした岩魚に宿る淡水魚ならではの滋味、黄金に輝くその卵に詰まる豊潤な旨味。山の贅沢。その言葉しか浮かばない旨さ。
その右隣は、里芋となめこの煮物。ねっとりとした里芋の食感と、ぬめりの豊かななめこの味わい。上品な味付けに引き立てられた素材の旨味に、これまた山の秋を噛みしめます。
続いて、山の湯宿へと来たらやっぱり食べたい川魚。今日の焼魚には鮎の塩焼きが用意され、程よい塩加減をまとった柔らかい身にお酒が一層進んでしまう。
口代わりには、初めて聞くニカワチャワンタケ。みどり酢にのった小さな黒いきのこを食べてみると、コリコリぷるぷるとしたビーズのような食感。天然のきのことは思えぬ食感に、思わず愉しくなってしまう。
そして今夜のお鍋は、つなんポークの豚しゃぶ。柔らかく脂の甘いつなんポークを、ロースとバラ、二種の部位で楽しめます。更に目を引く鯛の兜揚げはカリっと香ばしく揚げられ、締まった身に詰まった旨味が堪りません。
これはどんな味なのだろう。あれはどうかな?土地の食材を活かしたバリエーション豊かな献立に、食べ進めるごとに愉しさ増すばかり。そんな贅沢な夕餉の〆は、やっぱりご飯。
昨日の晩、そして今朝もうわっ!と思った地元松之山産のコシヒカリ。ふっくら、もちもち、濃密な甘味。そんなおいしいご飯をより進ませてくれる、キノコ汁。上品なおすましには様々なきのこから出た旨味が凝縮され、この時期ここへ来て本当に良かったと思わせてくれるしみじみとした味わい。
旨かった。本当に旨かった。越後の秋をこれでもかというほど味わわせてくれる夕飯にお腹も心も満たされ歩く、部屋への道。飴色に輝く木の温もりに抱かれ、もう1泊したいと贅沢な我儘が脳裏に浮かんでしまう。
あとはもう、ひとり静かにお湯とお酒を愉しむのみ。そんな夜のお供にと開けたのは、小千谷市は新潟銘醸のめだかの宿純米吟醸生貯蔵酒。もうこれは、もはや水。そう言いたくなるほどきれいな飲み口で、すいすいいってしまいそうな旨い酒。
きれいな新潟の酒を味わい、ふと思い立ち夜の湯へ。濃厚な湯力に包まれほくほくになれば、体だけでなく心の芯まで温もるよう。そんな静かなる贅沢を一層味わい深いものにしてくれる、古き良き旅館に宿る木の力。
宮大工の手掛けた贅沢な宿に抱かれ過ごす、静かな夜。続いて開けたのは、湯沢町の白瀧酒造が醸す上善如水純米吟醸ひやおろし。水の良さを思わせる清らかさの中感じる、落ち着いた酸味。ひやおろしの味わいに、夏を越え秋のはじまりを感じます。
お湯良し、部屋良し、食事良し。東京から乗り換え1回で来ることのできる、湯力満ちる山の里。今度来るときは3連泊だな。またひとつ危険な宿と出逢い、旅の魔力の深淵へとはまってゆくのでした。
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