ウェスパ椿山から五能線の快速とつがる号を乗り継ぐこと2時間10分、秋田駅に到着。なぜ、特急料金を払ってまで奥羽本線を急いだか。それは、逢いたい名物がここにはあるから。
秋田での滞在時間は1時間20分。予定の列車を逃すと次の目的地に寄ることができなくなるため、700mちょっとの道のりを早足で進みます。駅から歩くこと10分、お目当てのお店である『寛文五年堂秋田店』に到着。すでに数組が待っており、列車に間に合うかちょっと心配。
待つことしばし、何とか入店。ビールを飲みつつ、秋田での途中下車を決定づけた主役を待ちます。そして運ばれてきた、待望の稲庭うどん。稲庭うどんといえば乾麺ですが、このお店では珍しい生麺を味わえます。
ということで今回注文したのは、生麺・乾麺味比べ。食べ比べられるのは麺だけでなく、つゆも普通のものとクルミ入りのごま味噌つゆの2種が付いてきます。
まずは、オーソドックスなうどんつゆで食べ比べ。見るからに瑞々しさを感じさせる乾麺は、つるつるとコシがありながら繊細な食感が魅力的。この稲庭うどんのなめらかな口触りは、何度食べても感動してしまう。
続いて、初めての体験となる生麺を。乾麺よりも太目で丸い断面から、乾麺よりも柔らかい食感なのかと想像しつつひと口。
するとその想像はいい意味で裏切られ、より強いコシの中にも弾力のある食感で歯が跳ね返されるよう。こちらの方が小麦の風味もより感じられ、生麺と乾麺のいいとこどりといった印象。
王道のつゆで2つの麺の違いを愉しみ、続いてごま味噌だれで。クルミが加えられたつゆはまろやかさの中にコクや香ばしさがあり、これがまた艶肌のうどんにベストマッチ。
麺とつゆ、それぞれ2種の組み合わせの妙を味わい比べ、気が付いたらあっという間にもう完食。これでも大盛にしたのに・・・。しなやかなつるすべの稲庭うどんは余りにもするりと食が進んでしまい、いつも食べ終わった瞬間に名残惜しさが襲ってくる。
うわぁ、ギリギリだ!美人さんなうどんの余韻もそこそこに、小走りで駅を目指します。なんとか発車2分前に特定特急券を購入し、愛らしい大きな秋田犬に別れを告げつつホームへ急ぎます。
ちょっと今回は欲張っちゃったかな・・・。普段旅程を詰め込まない僕にとって、これはちょっとばかり忙しかった。今度はゆっくり、秋田に来よう。街も味も、時間と心に余裕をもって味わってこそ。そんな教訓を得つつ、発車間近の秋田新幹線に乗り込みます。
見慣れたE6系、こまち号。この列車の掲げる行先は、もちろん東京駅。ここに来て一気に旅の終わり感が出てしまいますが、まだまだ僕の旅路は終わらない。春の遠さを感じさせる車窓を眺め、今年最後の冬の名残りの情緒に身を委ねます。
秋田からこまち号に揺られること45分足らず、次なる目的地である角館に到着。4年ぶりの再訪に、足取り軽く街歩きへと繰り出します。
まず向かったのは、角館といえばの武家屋敷通り。広い道の両側に延々と連なる、黒塀と枝垂桜。賑わう春を待ちわびるかのような町並みを包む、この季節ならではのひっそりとした静けさ。
晩冬から早春へ。そういえば、前回訪れたときも2月だった。初めて訪れたときの秋の夕刻、盛の夏の勢いある緑。そのどちらも良かったけれど、枯色に染まるこの時期もまた味わい深い。
江戸時代から残る武家屋敷を黒塀越しに眺めつつ進んでゆくと、そこだけ趣の違う一軒の住宅が。昭和10年に建てられたこの旧石黒(恵)家住宅は、和洋折衷の間取りになっているのだそう。
当時の先端をゆく和洋折衷の造りは外観にも表れ、何とも言えぬ独特な表情を魅せています。それは洋の東西のみならず、藩政から近代化への流れをも織り交ぜたかのような渋い佇まい。
冬が終わり、もうすぐ春へ。季節の移ろいの間に漂う静けさを、ひとり噛みしめながら歩く武家屋敷通り。今度は雪のある時期に訪れてみたい。漆黒の塀と純白の雪のコントラストを想像し、早くも再訪の企みが脳裏をよぎります。
かつてお侍も行き交った武家屋敷通りで往時の風情に触れ、お目当てのお店を目指してのんびり街歩き。武家屋敷が有名な角館ですが、街角には様々な年代の建築が点在しているのも魅力のひとつ。
目指すお店の方向を意識しつつ、気が向いた角で曲がり足の向くまま歩く街。新旧の建物が軒を連ねる街並みは、進むごとに新たな表情を魅せてくれる。
江戸から明治、大正昭和を経て現代へ。その歴史が散りばめられたような街の姿からは、人が住み残してきたからこそ宿る息遣いのようなものが感じられる。意図的に往時の姿を封じ込めた街並みも圧巻だけれど、こんな自然体な情緒が僕は好き。
武家屋敷通りから歩くこと約10分、角館に立ち寄った目的のひとつでもある『安藤醸造』本店に到着。渋い黒塀に映える煉瓦造りの蔵が目印の、味噌やしょう油を造る老舗の醸造店。
3月半ば、旧暦の桃の節句まではあと少し。店内へと入ると、お座敷や蔵の入口には雛飾りが。絢爛なお雛様もさることながら、目を引くのが煉瓦蔵に設けられた扉の重厚さ。躍動感ある鏝絵も描かれ、その迫力に思わず見入ってしまいます。
もうあとは、夕飯を食べて帰るだけ。ということでここでちょっとばかりお買い物。
秋田といえばの名物であるいぶりがっこですが、僕は断然この安藤醸造のものがお気に入り。無駄な甘ったるさはなく、それでいて強すぎない程よい塩分。しっかりと干されて燻された大根は、強い食感と鼻へと抜ける香りが堪らない逸品。
そしてもう一つ、自宅へのお土産にしたのがお味噌。様々な種類がある中で、迷いつつ選んだのは特上つぶみそ。帰宅後期待しつつ使ってみると、思ったよりも米麹の甘さが際立つ贅沢な味わい。遠路はるばる1㎏を背負って帰ってきた甲斐がありました。
武家屋敷通りから、味わい深い街並みをのんびり歩き安藤醸造へ。今回はちょっと駆け足だったけれど、乗り換えの途中で角館に寄ることができて良かった。
たまにはこんなよくばり旅も悪くない。そんなことを思いつつ、酒と味噌といった地の名品の詰まった重たいリュックを背負い駅を目指して歩くのでした。
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