いい湯だった。そして今回も、本当にいい旅だった。体に熱い飯坂の湯の火照りを、そして心にこの旅の余韻を宿しつつ飯坂電車に乗り込みます。
2両編成でのんびり走る小さな列車。車窓に流れるのは、枯色に染まる果樹畑と遠くに連なる山並み。弱まり始めた冬の陽射しがこの旅の終わりを告げるようで、少しばかりの切なさを感じてしまう。
明るいうちに福島駅に着き、居酒屋で郷土の味で一杯。そんなふうに企んでいましたが、チェーン店以外はみんなお休み。気持ちを切り替えて駅弁を買い込み、やまびこ号に乗車します。
やまびこ号は後ろにつばさ号を従え、定刻通りに福島を出発。東京までの2時間、最後の宴を愉しみます。まずは僕の大好きな銘柄、榮川の純米にごり酒で乾杯。続いて、郡山は福豆屋の調製する会津を紡ぐわっぱめしを開けることに。
会津木綿柄のかわいい掛け紙の裏側には、この駅弁に込めた会津のこだわりがびっしり。その内容に期待しつつ蓋を開ければ、ご飯が見えないほどのたくさんの具が現れます。
会津でよく食べられる身欠きにしんはふっくらと天ぷらにされ、衣の中から染み出すじんわりとした旨味が美味。だし巻やそぼろには会津地鶏の卵が使われ、濃い黄身の味わいを感じます。
その隣には会津地鶏のそぼろが載せられ、ぎゅっとした鶏の凝縮感がご飯にぴったり。きのこやぜんまいといった山の幸もふんだんに盛られ、一口ごとに食感や風味で楽しませてくれます。
そんなおかずたちを受け止めるのは、会津産のコシヒカリ。冷めてももちもちした食感で、お米の甘味をしっかり感じます。本当に駅弁のご飯、美味しくなったよなぁ。子供の頃からは考えられません。
おいしい会津の恵みを味わい、食後の余韻のお供にもう一本。天栄村の松崎酒造、廣戸川純米吟醸を開けることに。お米や水の良さを感じる、飲み飽きないおいしいお酒。
地酒片手にぼんやり眺める車内の様子。この車両で、一体どれほど旅しただろうか。かれこれ20年以上、僕を北へと誘ってくれた想い出の詰まったE2系。あとどれ位、一緒に旅できるのだろうか。そんな想いが、これまでの想い出と共に脳裏に浮かぶ。
今回も、本当に良い旅だった。在来線を乗り継ぎ会津入りし、鉄路を繋いで福島まで。2年ぶりに再会できた東北の冬、そして初めて出逢えた会津の冬。この旅で目にした冬は、純白に輝く銀の世界だった。
ようやくこうして旅が僕のもとへと戻ってきてくれた。これまでも旅できることが当たり前だとは思ってはいなかったつもりだけれど、一度引き離されてみるとその大切さが身に沁みる。そんな乾いた僕の心を、いで湯で、この時季ならではの輝きで、そして豊かな郷土の味で福島は満たしてくれるのでした。
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