海峡の女王に往時の冬景色を重ね少しの感傷に浸りつつ、次なる目的地へと向かうことに。駅前でもひときわ目を引く独特な建物、『ねぶたの家ワ・ラッセ』へと入ります。
この施設はその名の通り、青森の誇る光の祭典であるねぶたの展示館。入口にはこの先に広がる幻想的な世界へと誘うかのように、幾多もの金魚ねぶたがお出迎え。一気に胸に、夏の熱さが広がります。
巨大な空間に並ぶ、いくつものねぶた。ここに展示されているねぶたは、実際に前回のお祭りで運行されたもの。夜空を思わせる暗い館内には、半年の時を超えて祭りの熱が未だに充満しているかのよう。
ひらひらと和歌の舞う、幽玄な風情を漂わせるねぶた。こちらは令和元年度の最優秀賞、ねぶた大賞を受賞したもの。和歌の力をもって鬼を退治したという伝説がモチーフとなっています。
強烈な印象を放つ光の矢と、躍動感ある立派な鳶。静なる立像に動きを与える、立体感と光の陰影。今にも動き出しそうなほどの迫力が、見る者の心を一瞬で射止めます。
その裏側には、美しく舞う天女と羽ばたく鳩の姿が。しなやかなに飛び立つ白鳩の姿に、平穏を願わずにはいられない。ふつうの暮らしができるということの大切さを、記事を書いている今非常に痛感しています。
美しく咲き乱れる桜の下で微笑む、木花咲耶姫。春の桜に、黄金の稲穂。日本的な美しさの象徴が、このねぶた一台に凝縮されているかのよう。
背後には、縁起もの尽くしのおめでたい光景が。弘前で僕が包まれた、令和到来を祝うあの熱さ。同じ夜、青森にも同じ熱さに溢れていたに違いない。これからの時代が、どうか穏やかでありますように。そんな人々の願いが、ねぶたの灯りに込められています。
ねぶたとねぷた。お囃子の旋律からテンポ、掛け声まで全く別物。青森のねぶたが動の世界観だとすれば、弘前のねぷたは言わば静の世界。でもやはり、似ている部分もある。台座に描かれた牡丹もそのひとつ。
ねぶたの中を覗いてみれば、見事に組まれた緻密な骨組み。ねぶたを作る際には、設計図というものは存在しないのだそう。頭に完成図を描きながら、現場で骨を組んで紙をはり、色を塗ってゆく。職人技としか言いようのない想像の具現化に、見る者の心は動かされるのかもしれない。
闇に光が生まれる瞬間を切り取った、天の岩戸伝説が題材のねぶた。太陽が昼間を明るく照らすように、ねぶたの灯りが心へと広がりゆくのを感じます。
こちらは昔のねぶたを復刻させたというもの。骨格は竹で造られ、台座の部分には青海波が描かれています。起源は同じというねぶたやねぷた。青森に弘前、五所川原や黒石など。幾多もの郷土で、それぞれの進化を遂げてきました。
ずらりと並ぶ、迫力に溢れる面。絵師により表情は様々で、眼光鋭い幾多もの眼に思わず射すくめられてしまいそう。
いつかは本番に立ち会いたい。まだ見ぬ青森の夏の熱気に想いを馳せ、ねぷたとねぶたのはしごを強く胸に誓うのでした。
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