冬を求めて津軽路へ~ランプのゆらぎ、千の夢。1・2日目⑤~

青荷温泉のロビーを彩るいくつものランプ

部屋に漂う炎の揺らぎに、ただただじんわり揺蕩うひととき。暮れゆく世界とランプの灯りをぼんやり眺めていれば、いつしか現実と幻想の境すらあやしく溶けてゆく。

そんな時の流れのグラデーションを噛みしめていると、気づけばもう夕食の時間。会場へ向かおうとすると、ロビーには幾多ものランプに照らされたねぶたの襖絵が。

あぁ、青森だなぁ。そうえいば、前回は夕餉を味わいながら津軽三味線を聴いたんだ。あのときの感動が、その後の自分を変えた。当時感じた心の火照りが、ランプの灯りに誘われじんわりと甦ります。

冬のランプの宿青荷温泉1泊目夕食
無数のランプが吊るされた大広間へと入ると、まず目に入るのが鎮座する大きな囲炉裏。周囲には岩魚がずらりと焼かれ、ひとり1尾ずつ自分で取ってゆきます。その隣には、大きなジャーとお鍋。ごはんとおつゆも、自分のタイミングでここからよそいます。

そして面白いのが、飲み物の注文システム。大広間の端にカウンターがあり、そこで部屋番号と名前を告げ、飲み物を受け取ります。やっぱりこの雰囲気、好きだなぁ。なんとなく子供の頃の合宿を思い出します。

僕も冷酒を受け取り、自分の席へ。食卓には美味しそうな山の幸がところ狭しと並びます。まずは奥にある大好物のさもだしなんばを。つるりとしたきのこの食感と、ピリリと広がる南蛮の辛味。さもだしは、津軽に来たら絶対はずせません。

そのお隣は、わらびのからし漬け。なぜこうも、山菜の本場は保存が上手いのだろうか。東京で食べる変に臭い水煮とは違い、東北で食べる山菜は季節を外れても本当に美味。未だ残るシャキッとした歯触りと独特のぬめりが、程よくきいたからしの風味と相性ピッタリ。

続いては、いろりで焼かれていた岩魚を。炭火のこんがりとした風味を纏い、余分な油分水分が適度に落とされホクホクとした凝縮感が堪らない。その上の小鉢は、ひらたけの生姜和えと、アカシアの花の甘酢漬け。初めてアカシアの花を食べましたが、ほんのり香る爽やかさは忘れえぬおいしさ。

煮物の巾着にはたっぷりの山菜が詰められ、だしのきいた上品なおつゆがじゅわっと染みています。サーモンのカルパッチョ風も、和食の中のいいアクセント。お鍋には鴨が使われており、久々に食べる赤身感溢れる滋味深い味わいにもう冷酒が止まりません。

そして今夜一番の僕のお気に入りが、イガメンチ。これまでも何度か食べた津軽の郷土料理ですが、ここのイガメンチ、ものすごく好み。まわりはカリッとこんがり香ばしく、中はふんわりとろりとジューシーに。噛めばいかの旨味とキャベツの甘味が、口の中にとめどなく溢れます。

いやいや、本当に大満足。旨い品々片手に旨い地酒を味わい、最後に〆のご飯とおつゆを。今夜のおつゆは、津軽の郷土料理であるけの汁。細かく切った根菜や山菜がたっぷりと入ったお味噌汁なのですが、具材の一つひとつから旨味が染み出し素朴ながら絶品の旨さ。

冬のランプの宿青荷温泉大広間に吊るされた幾多ものランプ
前回訪れたときも思いましたが、ここのお宿はご飯がおいしい。いい意味で山の宿らしい、派手さはないが手作りの旨さ。そんな心の奥底に沁み入るようなおいしさを、一層味わい深くしてくれるランプの灯り。ほろ酔い加減で見上げれば、この瞬間がいつまでも続いてくれたらとすら思えてしまう。

冬のランプの宿青荷温泉夜の薄暗い滝見の湯
大満足の夕食を味わい、ごろりと転がる食後のひととき。満腹のお腹も落ち着いたところで、滝見の湯へと向かいます。浴槽は石造りとなっており、冬季閉鎖中ではありますが奥には滝の見える露天風呂も設けられています。

冬のランプの宿青荷温泉夜のお供に鳴海醸造店自然農法純米酒賜
少々熱めのお湯の火照りを冷ます、夜の空気。部屋への道中で程よくクールダウンしたところで、今宵のお供を開けることに。

黒石のこみせ通りに建つ鳴海醸造店で手に入れた、自然農法純米酒「賜」。全く角を感じさせないまろやかさと、ほんのり広がる自然な甘味。ですがすっきりとしたキレのある、飲み飽きないおいしいお酒。

冬のランプの宿青荷温泉部屋に灯るひとつのランプ
じんわりと広がる、地酒の熱。体の芯へと落ちゆく感覚を、ランプ見上げて味わう静かな夜。昔はこれが、当然の暮らしだった。いや、行灯からランプへと変わったときは、きっとその明るさに驚いたのかもしれない。

たった100年ほど前に普及したという、家庭の電灯。つまり僕の生まれる半世紀と少し前までは、こんな生活が当たり前だった。昼夜問わず活動できる今を生きる自分にとって、それはにわかに信じがたい事実。明るい時は起きて活動し、暗くなったら寝る。動物としての人間にとっては、本当はそのほうがいいのかもしれない。

冬のランプの宿青荷温泉夜の露天風呂
そんな取りとめもない思考に飽きたら、再び湯屋へ。露天風呂には大きな岩風呂と小さな樽風呂が設えられ、それらを照らすのはほんのいくつかのランプのみ。夜の闇、そして湯の温もりに溶けゆく湯浴み。時間の流れに抗わない一体感は、ランプの宿だからこその静かなる贅沢。

冬のランプの宿青荷温泉天井に影を落とすランプの笠
本当は、不便を楽しむつもりでここへ来た。この暗さでは読書もかなわず、充電もできないためスマホもOFF。話す相手もいないひとり旅、もう何もすることがない、何もできない。

きっと、時間を持て余すだろう。不便に感じるだろう。それを体験したくて連泊を決めましたが、到着後数時間ですっかり馴染んでしまった。全く不便に感じない。むしろいま、この瞬間が心地良い。

冬のランプの宿青荷温泉スポットライトのようにランプに照らされる寝床
いろいろ手放してきたつもりだけれど、まだまだ要らないものに囲まれているのかもしれない。見えなくていいものは照らさず、見るべきものだけ映してくれる。ランプの炎には、そんな不思議な力があるのかもしれない。

スポットライトのように、ランプの灯りに照らされる寝床。ここが今夜の、夢の舞台。ぼんやりと温もりを与えるランプのゆらぎに、いつしか身も心も委ねてゆくのでした。

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