初めて訪れる、冬の弘前。例年に比べ雪が圧倒的に少ないとはいうものの、慣れ親しんだ季節とはまた違った心地よい冷たさに、心はあっという間に冬色に。
そういえば、このルートで弘前城へと向かうのは初めてかもしれない。西堀を春陽橋で渡り、北の廓へ。いつもと違うルート、違う景色だと、違ったお城にさえ感じられるから不思議なもの。普段歩くコースより高低差があるため、石垣や本丸の存在感が一層感じられるよう。
鷹丘橋を渡り、いざ本丸へ。最初にこの場所に橋が架けられたのは、350年ほど前。弘前城は古くは鷹岡城と呼ばれ、その由緒ある旧名から橋の名が付けられたそう。
それにしても、弘前城ってこんなに高台にあったっけ。これまでの見慣れた、歩き慣れた姿からは想像つかない「お城らしさ」に、一層心は昂るばかり。
上り坂の行く手には頑強な石垣が聳え、道の両脇には力強い雪囲い。この屈強な雪囲いを見るだけでも、いかにこの地が雪深いかが容易に想像できるよう。
普段は履かないブーツでの上りに少々息を切らしたところで、本丸内へ到着。冬のこの時期は無料開放されており、城内は朝の散歩を楽しむ地元の方がちらほら。
そんなのんびりとした雰囲気の中歩いてゆけば、突如眼前に現る岩木山。薄晴れの空の下、その優美な裾野まで惜しげもなく見せてくれている。逢うたびに、魅かれてしまう津軽富士。圧倒的な気高さに、思わず言葉も忘れただただ見つめるのみ。
振り返れば、堂々と聳える天守。冬の弱い太陽を背負いここに建つ姿は、曳屋され移設されている今だからこそ見られる光景。今は細い枝だけを垂らす桜も、きっと数か月後には鮮やかな春色で天守を彩ることでしょう。
こうして天守を近くで見るのは、3年半ぶりのこと。夏の暑さの中、夜のねぷたの熱さに思いを馳せつつ眺めたことが、つい昨日のことのように思い出される。毎年こうして、津軽の地へと来ることができている。9年重ねたその実績が、僕の中では生きるための強い力になってくれる。
元々の天守台に設けられた展望台へと登れば、美しい岩木山を背後に凛と立つ天守の姿が。この競演は、移設中の今だけ。前回は隠れていた岩木山も、今日はその雄大な姿を惜しげもなく見せてくれています。
後ろを見れば、立派な松を守る大きな雪つり。津軽氏の家紋である卍を頂き、冬曇りの空を刺すかのように凛々しく立っています。
200年以上もの長きに渡り、津軽の風雪に耐え続けてきた天守。その小さくも力強い姿に別れを告げ、本丸を後にします。その前に、下乗橋で振り返りもう一度。よし、またここへ、戻って来よう。その決心を胸へと刻み、歩みを進めます。
初めての冬の弘前城。もう何度も歩いたこの道も、枯れた気配と冷たい空気に包まれれば、自ずと見える景色も変わってくる。今度はこの頑丈な雪囲いが力を発揮する姿も、見てみたい。訪れるごとに、こうして宿題が増えてゆくのです。
弘前城と、岩木山。津軽を象徴するあの光景を見られただけでも、ここへ来た甲斐があった。到着後数時間で、この充実感。だからこそ、夜行の旅はやめられない。思い返せば、初めて弘前を訪れたときもあけぼの号で降り立った。充足感と懐かしい記憶に包まれつつ、追手門をくぐります。
お城を後にし、駅へと歩く土手町通り。半年前、まさにこの場所で呑まれた色彩の洪水。次にねぷたに逢えるのは、いつになるだろうか。また逢えるその日を楽しみに、今を粛々と生きてゆこう。必ず絶対戻ってくる。そう固く誓い、静かな朝の街を進むのでした。
※今年(2020年)のさくらまつり、ねぷたは中止となりました。
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