冬を感じたい。たっぷりと積もった、純白の雪に逢いたい。雪を愛でるならば、その舞台は露天風呂しか考えられない。
沖縄と東北で限りなく熱い夏を過ごしたのに反し、冬に関しては全く楽しめなかった去年。あの白い雪に埋もれる快感を最後に味わったのは、一昨年の酸ヶ湯、貝掛、万座が最後だった。
一度そう思ってしまうと、居てもたってもいられなくなる悲しい性。せっかく生まれた日本という国、四季を味わなければ損というもの。思いきってお休みを取り、久しぶりに冬に染まりに行くことにしました。
そんな冬旅のスタートはここ、宇都宮駅。新宿から湘南新宿ラインに乗ってしまえば、乗り換えなしの楽々アクセス。ここで名物に舌鼓を打ってから北の国へと向かう寸法です。
そう言えば、宇都宮駅から外に出て街へと向かうのは初めてのこと。まだ見ぬ街への期待を胸に降りたつと、駅前では有名な餃子像が出迎えてくれます。
駅前からのびる大通りをまっすぐ歩くこと約10分、中心街に位置するドンキホーテ地下にある『来らっせ 本店』に到着。こちらは市内各店の餃子食べくらべができるお店で、この本店は常設店舗と日替わり店舗、2ヶ所の店舗で構成されています。
僕はよりたくさんのお店の食べくらべをしてみたいと、日替わり店舗の方にお邪魔。こちらでは市内33店舗の餃子が日替わりで提供されており、曜日ごとにメニューが決まっています。
この日は水曜日。それぞれの店舗単体の餃子もありますが、僕は盛り合わせを注文。A盛り、B盛りと名付けられた盛り合わせは、5店舗2個ずつの一皿10個入り。AB両方を頼めば、10店舗の餃子をここ1ヵ所で味わえます。
盛り合わせは焼き餃子のみの提供。焼き上がった餃子は見分けがつきませんが、店員さんがメニューの並び通りにテーブルに置いてくれるので、それを見ながら食べれば問題ありません。
僕が注文したのはA盛り。左から、高橋餃子、らーめん武蔵、雄都水産、三栄飯店、美雪乃の順に並んでいます。
美味しそうな焼き色に、生ビール片手にさっそくひと口。うん、やっぱり宇都宮餃子は旨いねぇ♪
奇をてらわない実直な美味しさ、とでも言えばいいのでしょうか。新興勢力のB級グルメには到底出せない、愛され続けて人々の暮らしに根付いた旨さ。
各店2個ずつあるので、そのままとたれをつけてと2つの食べ方で味わえるのも嬉しいところ。それぞれ餡や皮に違いがあり、海老や韃靼そばを使った個性あるお店も。
本当はA盛りで終わらせて別のお店にはしごするつもりでしたが、こうしてこの場で食べくらべするからこそ感じる味の違いにすっかり楽しくなり、調子に乗ってB盛りも追加注文してしまいました。そしてもちろんビールもね♪
程なくしてお待ちかねのB盛りも登場。左から、宇都宮ねぎにら餃子、龍門、味一番、中国飯店、幸楽の順に並んでいます。
こちらもお店ごとに味や皮の食感がそれぞれ違う。僕は餃子マニアではないので詳しい感想を書くことは控えますが、素人でもあっ!と分かるほどの違い。
たかが焼き餃子、されど焼き餃子。僕にとって餃子はラーメンのサイドメニューという立ち位置をなかなか超えない存在なのですが、宇都宮に来てこうして食べてみると、その美味しさにぐっとくるのです。
お店によって薄皮だったり、もちっとした食感だったり。野菜の甘味が主の優しい味付けのものもあれば、これぞ餃子、というしっかりしたものまで。
焼き餃子だけでこのバリエーションなのだから、これに水餃子、揚げ餃子が加わったらもう無限大。きっと地元の方々は自分の贔屓のお店を持っているのでしょう。餃子の食べくらべがこんなに楽しいとは、恐るべし!宇都宮。
そして食べくらべてみて一番感じたこと、それは宇都宮餃子はやっぱり野菜が主役だということ。お店ごとに個性はありますが、野菜の味や食感がしっかり感じられるということが共通して言えます。
調子に乗って一度に餃子20個、生ビール2杯。夕飯までにお腹がすくかどうか、かなりの満腹に半分あきらめていました。ところが宿に着く頃には程よい空腹感。野菜たっぷり効果が、美味しさだけではなくこんなところにも表れます。
「餃子らしい餃子」「個性の強いガッツリ餃子」を期待していくと、宇都宮の餃子は少し物足りないかもしれません。僕も実は一番最初に食べた時の印象がそうでした。美味しいんだけど、何かあっさり、意外と普通?という感想。
ですが、それこそが宇都宮餃子の最大にして最高の特長なのではないでしょうか。たくさん食べても食べ飽きない。何度食べてもまた食べたくなる。この素朴な美味しさが、一番の魅力なのです。
その証拠に、いつ訪れても餃子のお店には地元の方がたくさん。それだけ生活の一部になっている、これこそが真のご当地グルメだと思うのです。
いやはや、美味しい餃子についつい長文になってしまいました。それだけの魅力が、宇都宮餃子にはあるということ。
美味しい餃子をお腹一杯食べくらべ、腹ごなしに初めての宇都宮の街をのんびり散策。まずはドンキホーテの目の前に位置する立派な神社へ。
下野国一之宮、宇都宮二荒山神社。周囲は宇都宮の中心地であり、大きなビルに囲まれているにもかかわらず、ここだけは荘厳な空気に包まれています。
古い歴史を持つというこの神社。宇都宮という街自体がこの神社の門前町として栄えてきたそうで、この地に遷座されてからすでに1200年近くも経つのだそう。都市部とは思えない深い鎮守の森に、その長い歴史を感じます。
ちなみに同じ栃木県内に有名な日光の二荒山神社がありますが、あちらは「ふたらさん」、こちらは「ふたあらやま」。祭神も由来も違う、全く別の神社だそう。こうして実際に訪れてみて初めて知ることがある、これも旅の楽しみのひとつ。
初めて歩く宇都宮の街。大通りから一本入れば、古きよきのんびりとした街並みが。市内には大きな川が流れ、ビルに囲まれつつも門前町、宿場町としての香りをほんのりと残しています。
そんな奥州街道の宿場町としての生き証人、旧篠原家。江戸時代から街道口のこの地で商いを続けてきた豪商だそう。
この建物は明治に入ってから建てられたもの。黒漆喰の重厚さもさることながら、宇都宮名産の大谷石が巧みに使われた壁の美しさが目をひきます。
何でこれまで来なかったんだろう。僕の好きな雰囲気の街がこんな近くにあったなんて。初めての宇都宮にすっかりご機嫌になり、大満足で新幹線へと乗り込みます。
餃子も旨いし街並みも好き。そして新幹線代まで節約になるなんて、我ながらこの旅のスタートは完璧。東北の近場に行く際は、宇都宮で途中下車もいいかもしれない。
灯台下暗し、関東に居ながらにして小旅行気分を味わい、いざ東北へ。車窓には冬晴れの青空が広がり、その下には薄化粧をした那須の山並みが。その白さに、これから向かう地への期待が高まります。
新幹線は北上を続け、車窓を白が占める割合が段々と増えていきます。
これから向かうは奥羽山脈、吾妻山。その麓に佇むいで湯の里は、僕にどんな景色を見せてくれるのだろうか。雪に埋もれての湯浴みを想像し、その期待は雪のようにどんどんと積もってゆくのでした。
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