東鳴子で迎える最後の朝。すっきりと目覚め、すぐさま黒湯へと向かい朝風呂を愉しみます。
鼻孔をくすぐる独特な香りと、肌を貫通して染み入るお湯の力。朝一番の空っぽになった体と心に、黒湯を余すことなく吸収します。
やっぱりここの温泉はものすごい。2日前に感じていた胃や食道の不快感はどこへやら、快い空腹感をひっさげて、朝食会場へと向かいます。
テーブルに並ぶのは、宮城名物の笹かまや、納豆、ひじきといった素朴な品々。癒えた体にすっと入ってゆくような、安心感ある美味しい朝ごはん。
温泉、特に濃厚なお湯が好きで、これまで10年ほどかけて行ける範囲で回ってきた僕。記憶に残るお湯はたくさんありますが、これほど自分の今と合致したお湯は初めて。
くどいようですが、高友旅館を訪れたときは胃腸や食道の調子が悪く、それが1年以上も続いていました。
でもたったの2泊3日で治るとは。訪れた2ヶ月後にこの旅行記を書いていますが、おかげさまで再発もせずに済んでいます。
4年前の夏、ねぷた帰りの湯めぐり最後の地として訪れた高友旅館。濃厚な黒湯に、そのときは体が驚き気圧されたことを思い出します。
そして今、やっぱりその力は見かけ倒しではないことを身をもって実感。こんなことって、本当にあるものなんだ。もはや感動すら覚えます。
穏やかな優しさで包んでくれる大沢温泉に、ガツンと元気にしてくれる高友の黒湯。刈り取られた田んぼをぼんやりと眺めつつ、この好対照の余韻に浸ります。
鳴子御殿湯駅からディーゼルに揺られ、小牛田で乗りかえ仙台駅に到着。もう何度目だろうか。この特徴的な駅舎を目にするたびに、仙台へとやってきたという嬉しさに包まれます。
大好きな仙台の街をぶらぶらと散策し、程よきところでこの旅最後のグルメを。お寿司と牛たん、非常に悩みましたが今回は牛たんに決定。駅前のアーケード、入口すぐの『べこ政宗』にお邪魔します。
べこ政宗といえばとろ牛たん!と意気込んで入ったのですが、残念ながらこの日は売り切れ。そこで普通の牛たん焼き定食を注文。
こちらは塩と味噌の2種類から味を選べますが、今回はどちらも味わえるハーフを選びました。
とろ牛たんよりもしっかりとした歯ごたえに、噛めばしみ出る肉汁と旨味。塩はシンプルに、味噌はコクと香ばしさ。それぞれの味の違いを楽しみつつ、食べごたえのある肉を麦飯とともにガッツリ味わいます。
最後の最後まで東北を満喫し、愛する地にしばしの別れを。帰路に選んだのは、『東北急行バス』の運行する、ニュースター号東京行き。
いつもはJRバス東北を利用する区間ですが、時刻が合わなかったため初めての利用。東北急行、名前からして痺れます。
車内は3列シートでもちろん快適。東京駅八重洲口までは5時間半ほどかかりますが、長時間乗っていても苦になりません。そして嬉しい、3000円という破格の値段。
十数年振りに夜行バスで旅立つ決心をした、今回の旅。不安の方が大きかったのですが、いざ蓋を開けてみればそんな心配など杞憂に終わりました。
時代は変化するもの。夜行列車が衰退した傍らで夜行バスは着実に進化し、夜の移動というニーズを支えてきたのでしょう。
鉄道ファンとしては複雑ですが、鉄道本人がその需要を切ってしまったのだから仕方がない。それでもこうして、今でも古きよき夜行の文化が残っている。そのことを体感できただけでも、大きな収穫。
夢見がちな夜の旅路は、バスへと受け継がれた。このことを知った僕は、きっとこの先も夜行を使うことでしょう。昼には無い、夜の旅情を求めて。
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