東鳴子で迎える静かな朝。障子から漏れる光で自然に目を覚ますという贅沢こそが、旅の醍醐味。
アラームのノイズのないすっきりとした目覚めは、人間が太陽と共に暮らしてきたという遺伝子が自分の中にもまだ残っていることを教えてくれるよう。
僕の体質や現状にぴたりとくる濃厚な湯。胃腸へのてきめんな効果により、朝風呂後は心地良い空腹感に包まれます。
久々に味わうその感覚をしばらく楽しみ、ボォ~っとしたところでやっと朝食の時間。待っていましたと言わんばかりに、軽い足取りで食堂へと向かいます。
テーブルに並ぶ、素朴な朝食。鮭におひたし、ひじきに温泉玉子。和の中で主張する久々のハムサラダが、いい意味で古きよき旅先での朝を実感させます。
素朴で温かみのある朝食をお腹一杯食べ、部屋へと戻り再びだらだら、ゴロゴロ。近くで鳴き声が聞こえると思ったら、すずめが一羽、軒先を跳ねています。
そう言えば、すずめをこんなに近くでじっくり眺めたのなんてどれくらいぶりだろうか。そもそも近所には、すずめが遊べる環境自体が少ない。
今の暮らしって何なのだろう。子供の頃にすずめを好きで眺めていたことを思い出し、そんなことがふと頭をよぎります。
朝食後のゆったりとした時間の流れを愉しみ、お腹も落ち着いたところで再びお風呂へ。今度はまだ入浴していなかった家族風呂へと向かいます。
一段下がったところに佇む、小ぢんまりとした浴槽。掛け流されるお湯は黒湯に近い印象ですが、それよりもまろやかで優しい浴感。
高い位置にある窓から差しこむ午前の光。その穏やかさに包まれつつ味わうお湯は、じんわり、じんわりと体と心に沁みてゆく。このゆとりこそが、連泊した者だけに許される贅沢。
一旦部屋でクールダウンし、今度は湯治棟にあるもみじ風呂へ。これまたシンプルな浴槽には、にごりは少ないながら大量の湯の花が舞うお湯が満たされています。
でもこれが熱いのなんの!水を加え、混ぜて混ぜて揉んで揉んで、掛け湯を繰り返しようやく何とか入浴。
熱い!非常に熱い!お湯はあっさりめの感触で、熱さとその浴感により、湯上がりはさっぱり爽快。これまでのお湯とはまた違った感覚を味わえます。
激熱のもみじ風呂で汗だくになり、火照った体にビールを投入。喉を伝う強炭酸が、得も言われぬ心地良さを連れてきます。
高友旅館のお湯とビールの健胃効果により、すっかりお腹が減ったところでお昼の時間。当てもなく歩いていると、ラーメンの幟を発見。その文字に呼ばれ、『食堂千両』にお邪魔します。
昔ながらの食堂の雰囲気に身を委ねつつ待つことしばし、注文した辛味噌ラーメンが運ばれてきました。
まずはスープをひと口。妙な濃厚さはなくすっきりとしていながら、味噌のコクや香ばしさを感じる味わい。ピリッときいた唐辛子がいいアクセントに。
たっぷりと載せられたもやしは、食感は残しつつひき肉の旨味を吸った丁度よい火の通り加減。少し柔らかめに茹でられた麺との相性もピッタリで、熱さと辛味で汗だくになりながら一気に完食しました。
気の向くまま足の向くまま、好みのお湯とテレビで過ごす怠惰な時間。一度この感覚を味わってしまうと、もう連泊はやめられない。自堕落という心地良さに、思う存分溺れることにします。
そして迎えた夕食の時。お昼のラーメンも夕刻のビールもすっかり消化し、空腹になったお腹を美味しそうな品々が迎えてくれます。
なめこおろしに鮎の塩焼き、煮物をつまみに地酒をちびちび。メインのお鍋にはきのこがたっぷりと入り、だしに旨味が広がります。
美味しいおかずとご飯で一杯になったお腹を落ち着け、この旅最後の宴を始めることに。今夜のお供は、大崎市は宮城ふるさと酒造の荒雄純米吟醸。
社名の印象とは違い、明治初期創業という古い酒蔵。その当時の銘柄を復活させたというこのお酒は、味わい深いラベルも印象的。
その見た目通り、しっかりと日本酒らしさを感じる飲みごたえある味わい。じっくり傾ける茶碗酒にはもってこい。
二晩目にしてすっかり調子の戻った僕の胃腸。元気な状態で味わうお酒はいつも以上に美味しく、その味と共にお湯の力に酔いしれるのでした。
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