勾配の続く道をゆっくりと歩くこと約1時間半、これから2泊お世話になる蔦温泉に到着。時刻はまだ14時前。チェックインの時間まではまだ余裕があるため、ベンチで一休みをし蔦沼の散策へと繰り出します。
遊歩道に寄り添い流れる清らかな小川。水門を滔々と流れる姿は涼しげで、その透明度と水量からいかにこの森が豊かな水源地であるかが伝わるよう。
流れにより、様々な表情を魅せる水。遊歩道脇には流れのほとんどない淵が姿を現し、繁る木々の緑を美しく映します。
遊歩道の入口から15分、紅葉の名所として知られる蔦沼に到着。今日は風があったためさざ波が立っていますが、波のない日は鏡のように周囲の木々を映すのだそう。でも今日は歩き詰め、水辺を渡る風がものすごく心地よい。木道の縁に腰掛け、奥羽の清涼を全身に受け止めます。
蔦沼の風に汗もひいたところで、その先へと歩みを進めることに。水の豊かなこの地では、覆う木々と苔の緑も一段と鮮やか。以前訪れた奥入瀬渓流もそうでしたが、この目の覚めるような緑という色彩は、そうそう味わえるものではありません。
蔦沼から鮮烈かつ柔らかい緑を浴びつつ歩くこと更に15分、静かに水を湛える鏡沼に到着。この沼は蔦七沼と呼ばれる一帯の沼の中で、唯一人工的に造られたものだそう。非常に浅く溜まった清冽な水は、あたりの緑を穏やかに映しています。
絶えず流れる清らかな水。びっしりと苔むした岩の間を流れる姿は、時を忘れていつまでも見ていたくなるような美しさ。そして耳を楽しませるのは、せせらぎの水音と葉擦れの声。
道沿いには、緑の中に彩りを添えるガクアジサイ。花の中でも、桜と共に格別に好きなあじさい。もうすぐ8月だというのにこの瑞々しい姿に出会え、自分の住む街とは違う速度で季節が流れていることを感じます。
深い原生林を進む遊歩道。沿道にはいくつもの大木が姿を見せ、古からこの地の自然が大切に守られてきたことが伝わるよう。見上げれば、その大きさは一層印象深いものに。根を張り枝を伸ばす姿は、まるでこの場所を何かから守るかのような意思すら感じさせます。
鏡沼から更に進むこと15分程、山のくぼみにひっそりと佇む長沼が姿を現します。東屋周辺は深い木々に覆われ、その合間から覗く雨に煙る姿は幻想的のひと言。
山の天気は変わりやすい。先ほどまで小雨が降っていたかと思えば、一瞬のうちに辺り一面に陽射しが注ぐように。夏の太陽を透かす緑は鮮やかさを増し、流れる水もその清らかさを一層強めるかのように輝きます。
初めて訪れた蔦沼。紅葉の名所は、すなわち盛夏の緑も美しい。心身の隅々まで奥羽の緑に染められ、お湯に出会う前から心はのぼせ気味になるのでした。
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