錦零れる秋いわて ~いで湯ともみじに染められて 6日目 ④~ | 旅は未知連れ酔わな酒

錦零れる秋いわて ~いで湯ともみじに染められて 6日目 ④~

岩手県交通達谷窟経由厳美渓行きバス 旅行記

極楽浄土の世界観を具現化した毛越寺に別れを告げ、駐車場より『岩手県交通』の厳美渓行きバスに乗車します。ちなみにこの路線、ほとんどの便が季節運行のため事前にHPで要確認。

秋の平泉雨の達谷窟毘沙門堂入口
バスに揺られること約10分、達谷窟バス停に到着。7年前、初めて訪れた平泉の標識で目にしたこの名称。最初は読み方も分からずにいたのですが、その後この路線に乗った時に「たっこくのいわや」という読みを知り、車窓に飛び込んできた光景に目を奪われたことを思い出します。

秋の平泉達谷窟雨に濡れる二之鳥居
それ以来、いつかは来てみたいと思い続けてきた達谷窟。独特の佇まいをみせる朱い鳥居をくぐり、すらりと伸びた立派な杉並木に守られる参道を進みます。

秋の平泉達谷窟岩に食い込む毘沙門堂
石でできた一之鳥居、丹色に彩られた二之鳥居、そして杉で作られた三之鳥居。3つの鳥居をくぐると眼前に飛び込むのが、この光景。坂上田村麻呂が創建したと伝えられるこの名刹は、1200年以上もの歴史を持つのだそう。

秋の平泉達谷窟岩盤に覆われる毘沙門堂
昭和36年に再建された、5代目となる現在の毘沙門堂。真横から眺めてみれば、複雑な形をした岩盤のくぼみに合わせ巧みに造られていることが手に取るように伝わります。

秋の平泉達谷窟雨に濡れる岩面大佛
荘厳な空気に包まれたお堂でお参りし、すぐ隣の岩面大佛へ。前九年後三年の役で亡くなった霊を鎮めるために彫られたという磨崖仏は、明治時代に胸から下が崩落し今なお風化が進んでいるそう。辛うじて見て取れるその表情に、諸行無常という言葉が思わず浮かんでしまう。

秋の平泉達谷窟ガマが池越しに眺める毘沙門堂
辨天堂の建つガマが池越しに眺める毘沙門堂。こうして眺めれば、いかにこの岩窟と毘沙門堂が一体化しているかが伝わるよう。バスの車窓から一瞬だけ見えたこの光景に魅かれ、ようやく今回訪れることができました。

秋の平泉達谷窟鐘楼と不動堂
頑強な岩屋と朱に鮮やかに彩られたお堂の対比を味わい、来た道を引き返します。すると山手へと分岐する、もう一つの道が。入口に建つ鐘楼とお堂に誘われ、雨に打たれつつもふらりとそのまま進んでみることに。

秋の平泉達谷窟姫待不動堂に漂う秋の風情
するとそこには、箱庭のように凝縮された秋の風情が。姫待不動堂の茅葺屋根には植物が宿り、その奥にはひっそりと色付き始める紅葉の姿。

秋の平泉達谷窟紅葉に彩られる雨の金堂
雨に濡れる渋い秋の空気感にに包まれつつ先へと進むと、大きく屋根を広げた立派な金堂が。しっとりと艶めくお堂を彩る木々の色彩が、何故だか胸をぎゅっと締め付ける。

秋の平泉達谷窟樹齢500年を数える大オッコウの木
振り返れば、見事な枝ぶりを見せる立派な木が。樹齢500年を数えるという大オッコウ。聞き慣れない名前に調べてみれば、生垣などにも使われるイチイの木なのだそう。独特にうねる枝と、丸々と茂る豊かな緑。背後に色味を添える秋の木々との対比に、思わず時も忘れて見入ってしまう。

秋の平泉達谷窟大オッコウに不動堂秋の凝縮された風情
最近では、敢えてあまり下調べをせずに旅をする。毘沙門堂目当てに訪れた達谷窟で、こんなにも濃厚な秋の気配に触れられるなんて。想定していた以上の出会いがあるからこそ、旅というものは楽しくなるのです。

秋の平泉達谷窟築300年以上の古民家を移築した御供所
初めての達谷窟の世界観を満喫し、バスの時間まで雨宿り。バスを降りた時に気になっていた茅葺屋根は、御供所と呼ばれる建物だそう。中を見学できるようなので、ちょっと入ってみることに。

秋の平泉達谷窟薪の香りの残る御供所の内部
中へと入れば、一瞬にして包まれる薪の残り香。御神饌などの準備をするための建物である御供所。つい先ほどまで竈が使われていたのでしょうか、周囲にはまだほんのりと温もりが漂います。

秋の平泉達谷窟御供所の内部
築300年以上も経つ古民家を移築したという、現在の御供所。柱や梁には曲がりくねった味わい深い木材が用いられ、長年に渡り燻され纏った渋い色味と鈍い輝きがその歴史を物語るよう。

秋の平泉達谷窟茅葺の軒下で雨宿り
初めて訪れた、達谷窟。あのときバスで通りかからなければ、そして一瞬の車窓を見逃していたとしたら。偶然も、ある種の必然。呼ばれるようにして訪れた古刹の風情に、心ゆくまで染まる秋の午後。

茅葺の軒下から眺める、そぼ降る雨。濡れた枝垂れの桜紅葉は、すでに葉の数を減らし冬への準備を始めているかのよう。あぁ、この旅ももう終わりかぁ。この時期、この天候だからこそ味わえた、この風情。秋という季節の儚さを、今はただひたすらに噛みしめたい。バスが来るまで、旅の終わりの哀愁にどっぷりと浸るのでした。

錦零れる秋いわて ~いで湯ともみじに染められて~

2019.10 岩手
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