2月上旬、冬晴れの東京駅。再び僕は、このホームに立っていた。今年初の旅先にと選んだのは、信越国境に佇む姫川温泉。宿の検索サイトを何となく見ていたときに見つけた、独特の世界観をもつ湯。その温もりに逢いに行くため、はくたか号へと乗り込みます。
これから目指すは、日本海。北陸新幹線が金沢まで延伸しだいぶたちますが、長野から先まで乗るのは今回が初めて。
奇しくもJR西日本の編成が充当され、耳に届く北陸ロマンのチャイム。その憂いを込めた旋律に、まだ見ぬ旅路への期待は昂るばかり。そんな旅の幕開けを祝うべく、冷たい金星をプシュッと開けます。
冬晴れの青さに満ちる車窓を愛でつつビールを飲んでいると、はくたか号は荒川へと差し掛かり東京脱出。何度味わっても、この瞬間はゾクゾクする。それが未知への旅となれば、その悦びもひとしお。
僕の日常から無事に飛び出したところで、お待ちかねの駅弁を開けることに。何を買おうかと迷いましたが、この鉄路がもうすぐ繋がる地へと思いを馳せ、敦賀は塩荘の調製する四季彩七色の味くらべを選びました。
ふたを開けると、きっちりときれいに並べられた押し寿司たち。その横にはちょこんとかわいいてまり寿司も添えられています。ますや小鯛、穴子に海老と、これぞ王道といった面々。押し寿司ならではの凝縮感ある旨さが、同郷福井の九頭龍を誘います。
昼からお寿司に日本酒なんて、贅沢だな。そんな甘美な列車旅に身を委ねていると、見覚えのあるあの山並みが。年末に巡った、上州の旅。冬晴れに横たわる榛名と妙義の山容に、前回の旅の想い出が甦ります。
はくたか号は上信国境を越え、軽井沢、佐久平、上田と冬晴れの信州路を快走。トンネルを抜けるごとに変化する景色を愛でていると、あっという間にまもなく長野へ。
いつもはここが、目的地。今日は更にその先を目指すという歓びに、年甲斐もなく浮足立ってしまう。ここから先は、未知なる鉄路。どんな車窓が繰り広げられるのかと、期待は一層高まるばかり。
雪のない長野の市街地を抜けると、一段と増す冬らしさ。抜けるような青い空、薄っすらと白い雪化粧をまとう山並み。胸のすくような光景に、日々のあれやこれも全て忘れてしまう。
うつくしい車窓に目を輝かせたのも束の間、再び長いトンネルへと突入。眼も闇に慣れたと思った刹那、再び眼に飛び込む冬の輝き。
走るごとに深まりゆく、冬景色。山も街も染める雪の白さに、この時期に列車で旅することの悦びを改めて強く噛みしめる。
トンネルを抜けるごとに、めくるめく表情の変化を魅せる北陸新幹線の車窓。進むごとにその冬らしさは深まりをみせ、ついには神々しさすら感じさせる銀嶺が。
眩い。あまりにも眩いかがやきに目を細めてしまう。東北とも、これまで訪れた信州とも違う、輝きに満ちる白銀の世界。それぞれの違ったうつくしさを知ることができるのも、こうして旅をし身をもって実体験を重ねるからこそ。
新幹線は北から西へと大きく針路を曲げ、長い長いトンネルを抜ければもう間もなく糸魚川。これから向かうは、あの銀嶺のさらに奥。いつかはと思っていた路線との対面を控え、弥が上にも高鳴りを増す胸の鼓動。
初めて出逢えた、長野以遠のうつくしい車窓。そしてこれから目指す、日本屈指のローカル線の旅。白い峰の凛々しさに、旅好き、そして鉄道好きでよかったと心から嬉しさを噛みしめるのでした。
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